見出し画像

【第七話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第六話(前回)
あらすじ:後輩が「噂の定期入れ」を拾います

第二章:のろわれた定期の怪 第八話(次回)


「届け出た人は、近いうち事故に遭うらしいんです。以前、拾い主の方と窓口でやり取りしたとき、『車と接触して怪我をした』って包帯を巻いていたことがあるんです。だから話の分かる同僚と窓口勤務のときは、できるだけ届け出た人の様子を伺うようにしてて……」

 職場内に、この話を好まない人もいるのか「できれば、事故の話はご内密に」と駅員は口止めまでしている。彼は高木に聞こえないように声量を絞ったつもりのようだが、その声はしっかりと彼女に届いており再び顔を強張らせていた。

「きっと偶然ですよ、偶然」

 気休めにもならないと分かりつつ、高木の顔色に気づいた峰城が励ますように言うと、彼女は笑みを張り付けて「そうですよね」と声を震わせる。
 彼女の様子を見て、申し訳無さそうにする駅員に礼を述べると三人は窓口から離れた。

「ひとまず電車に乗りましょう。駅員さんの話は噂の域を出ませんし、今日は私達もいますから。ね、先輩」

 前回、怖い目には遭ったが最終的には仲條が助けてくれたのだ。今回もそれを期待して彼を振り返ると、彼はいつものように意図の読めない温和な表情で微笑んでいた。

 それが善意によるものであることを祈り、努めて明るく高木に話しかけながらホームへと向かうと、ものの数分後には目当ての電車が来て三人で乗り込む。高木はいつも座るという席に座り、二人は通路を挟んだ斜めに位置する席に座った。

 ある程度人は乗っているが、着席数は疎らで空席の方が多い。高木が座る左右も空席である。彼女の様子を伺いつつ、周囲を見回してみるものの、先日の幽霊のようにびしょびしょに濡れていたり、ホラー映画でありがちな血まみれだったりというような変わった人は見られない。

 乗客の中で、それは本当にデザインなのかと思うほど派手にダメージの入った服を上下に身につけている攻めた服装の人ならいたが、怪しげに思ってマークするも何駅か先で降りていく。三十分以上は観察しているが、未だに現れる様子はない。

「先輩、何か違和感とかあります?」

「いやぁ、わからないね」

「ですよね。……!」

 仲條とヒソヒソと会話している間、目を離していた峰城が再び高木を見ると目を見開いた。いつの間にか見知らぬ男性が彼女の隣にいるのだ。他にも空席があるというのに寄り添うように彼女の隣に座っている。

「いつの間に……」

 高木は男を見ないようにか、峰城達が座る反対側の斜め下辺りに視線を送っている。手前側にいる猫背の男が、例のいつもの男性なのだろう。

 彼女が言うにはいつも同じ服装だと言っていたが、変わった服装をしている訳ではなかった。上下グレーのくたびれたスーツに、よれたネクタイをつけている普通のサラリーマンだ。変わっているのは若干、彼女の方を向いているように見えることだろうか。

「先輩、例の男性が」

「え? どこにいるの?」

「ふざけてる場合じゃないですよ、彼女の隣にいるじゃないですか」

「ふざけるも何も、僕から見たら彼女の隣は両方空席だよ」

 慌てた様子で声を掛けるものの、仲條は空を見てキョロキョロしている。できるだけ声を抑えつつ語気を強めながら峰城が男を指差しても、仲條はその方向に目を眇めているものの、どうもピンと来ていなかった。どうやら、あの男性が見えていないらしい。

 高木は恐怖で動けなくなっているのか、もう二人を見ようともしない。見ようとしても男性が目に入ってしまうのだろう。しばらくして、駅に到着するアナウンスが流れると彼女はハッと顔を上げた。

 縮こまらせていた体を動かし、周囲の手すりに縋り付くように立ち上がると扉の方へと向かう。その動きに、ようやく仲條も異変に気付いた。峰城と同時に立ち上がると彼女の後に続いて電車を降りる。降りる人が少ない駅のおかげで人混みに紛れることがなく助かった。

 しかし追跡も虚しく、高木は二人のことなど覚えていないかのように自慢の健脚でホームを駆け抜け、改札を出て行ってしまう。二人もその後を追って改札を出るが、土地勘のない道路は迷路のようだ。

「どこに……!」

「――――!」

 見失った高木の姿を探して周りを見回していると、少し離れた位置から女性の悲鳴が上がった。その声に反応した二人は、瞬時に声のした方へ駆け出す。

 細い道を抜けた先、裏道の割に広い道路に面したところで一台の車が向かい側の歩道に乗り上げるようにして止まっていた。地面を見ると、急ブレーキの跡が半円を描いている。

 車道の手前側をみると探していた高木が倒れており、近くの見知らぬ女性が震える手で自分の鞄をまさぐっている。どうやら先ほどの悲鳴は高木ではなく、この近くにいた女性だったようだ。狼狽えながらもスマホを取り出して、救急車と警察を呼んでいる。

 反対側の歩道に止まっている車から運転手がヨロヨロと降りてきて、高木の元に近づいているのが見え、峰城も彼女に駆け寄ろうと歩道を一歩出ようとしたとき。

「危ない!」

「っ!?」


第二章:のろわれた定期の怪 第八話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n0de2b391bb9c

第一章 第一話はこちらから↓






いいなと思ったら応援しよう!