見出し画像

【第五話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第四話(前回)
あらすじ:後輩が再び先輩に丸め込まれます。

第二章:のろわれた定期の怪 第六話(次回)


「先月の終わり頃に、定期入れを拾ったんです。古い合皮の定期入れで、もう期限も切れていたんですけど乗り換え駅の窓口に落とし物として届けました」

「ほう、定期入れが」

「物がなんだって言うんですか?」

「何者かが追いかけてくる怪異の中には、その怪異に関わる『物』を拾ったことが、きっかけになることが多いんだよ。大抵は返して欲しくて、ついてくるんだけど」

 興味のある話が出てきたからか、仲條は身を乗り出しそうになるのを峰城の質問で我に返って椅子に深く座りなおした。端的に蘊蓄を語ると、手の平で高木に先を話すよう促す。

「それで落とし物で届けたとき、窓口の人が変な顔をしてました。『また、この定期入れか』って。気になって聞いたら、時々その定期入れが窓口に届けられて、預かってもいつの間にか消えて、また落とし物として届けられるそうなんです」

「消える……」

 仲條はそれで得心がいったのか、ふむふむと頷いてカップに口をつける。それが上がる口角を隠すための行動だと、横に座っている峰城からは丸わかりだ。

「それから、その定期入れは見ていないんですか?」

「はい」

「あなたの最寄りの駅で妙な噂を聞いたことはありませんか? 例えば、あなたが遭っているように見知らぬ男性が徐々に近づいてくる、というような」

「さあ、聞いたことはありません。私はそういったオカルト方面には明るくないので……」

「そうですか」

 立て続けに質問をしたものの思った成果が得られず、仲條は残念そうにマグカップを置く。そして、居住まいを正して高木に向き直った。

「調査を始める前に一つ、言っておかねばならないことがあります。まずは僕達に相談してくれてありがとうございます。ですが、僕達は純粋なる善意で活動しています……ああ、お金の話ではありません」

 仲條の言葉を聞いて、慌てて彼女がカバンから財布を出そうとしているのを引き止める。実は峰城も、てっきり依頼料をせびるのかと思ったので彼が引き留めたのは意外だった。彼が止めなかったとしても、峰城が止めていたが。

「ただ僕達が素人であるということを念頭に置いておいて欲しいんです。つまり、必ずしも解決するとは限らない。あなたが絶対の解決を求めるのであれば、その道のプロをご紹介します。ただしそのときは、割引があるとはいえ先方に依頼料を払ってもらうことになります」

 仲條の真摯な視線を受け、高木も真っすぐ見返す。その瞳には意志の強さが垣間見え、今は妙なことに巻き込まれて臆病になっているだけで、普段は今のように自立した女性なのだと想像がつく。横で聞いているだけの峰城も思わず姿勢を正した。

「単純に気味が悪いだけなので実害はないですが、相談に乗ってもらっただけでも気分が楽になりました。でも、もしこの件にご興味を持ってくださったのであれば、ぜひ調査をお願いします」

「……もちろんです。ただ、調査をするとなると、あなたの協力が必要となるでしょう。もし差し支えなければ、今日から帰りの電車をご一緒することは可能ですか? 私だけではなく、助手である峰城クンも同行しますので」

 高木の言葉に満足そうな笑みを浮かべた仲條は、早速今後の方針について話し始めた。昨日の時点では「話を聞くだけ」という話だったはずが峰城の予定はそっちのけで、いつの間にかついていくことになっている。

 思わず目で訴えるが、わざとなのか仲條は峰城を見もしない。案の定、また振り回されることが決定した。

「問題ありません。むしろ早速の調査ありがとうございます」

「いえいえ、こちらとしても調査に協力してもらえて助かります」

 サークルの内部事情を知らない高木は悩まし気な眉間の皺を解放して、ようやく笑みを浮かべる。調査に同行するのは不本意だが、峰城は彼女の様子を見て少しホッとした。

 その後、調査する上で都合がいいから、と仲條の勧めで連絡先を交換することになったが、何故か峰城のスマホを要求してきた。

「ほら、女性同士の方が何かと安心でしょ」

 なんだかうまいこと丸め込まれた気もするが、妙な男性に付きまとわれている高木の気持ちを考えればそうなのかもしれない。イマイチ納得はしていないものの、彼女と連絡先を交換する。

 チャット画面を開きスタンプを送って挨拶代わりにすると、高木は可愛い犬が「よろしくお願いします」と丁寧にお辞儀をしているスタンプを返してきた。使いやすそうなスタンプだ。バイト先のチャットで使うのに良いかもしれない。

「お言葉に甘えて、今日からお願いします」

 幸い、今日は金曜日だ。もし遅くなってしまったとしても問題はないだろう。あるとしたら、峰城が土曜日にバイトが入っていることくらいか。二人が勝手に予定を決める中、今夜から明日の予定を組み直しつつも峰城はマグカップを洗う。

「それでは、行きましょうか」

 仲條が小屋の鍵を手に取って立ち上がるのに合わせて、高木も小屋を出ていく。最後に残された峰城のため息が、小屋の中で静かに響いた。

 雑談をしながら学生街を抜け、大学最寄りの駅から電車に乗る。三十分、電車に揺られ乗り換え駅で降りると改札を出た。高木の案内では、乗り換え先の駅は徒歩で十五分だという。

 乗り換え駅から電車に一時間乗ると自宅の最寄り駅があるらしく、随分と長い道のりだ。部室で話していた時間もあり、うっすらと日が陰り始めている。


第二章:のろわれた定期の怪 第六話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/nfd83d53902f6

第一章 第一話はこちらから↓





いいなと思ったら応援しよう!