【第四話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】
第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第三話(前回)
あらすじ:もう半分の噂の真相と、怪異調査依頼が舞い込みます。
第二章:のろわれた定期の怪 第五話(次回)
「高木さん
怪異相談のご連絡ありがとうございます。
明日の夕方、大学構内の林の奥に小さな小屋がありますので、ご都合の良い時間にお越しください。
部室で詳しいお話を伺います。
オカルト研究会 会長 仲條」
滑らかにキーボードの上を踊る指が打った内容は、明日の約束を取り付ける連絡だった。あまりの迷いのなさに峰城は目を剥く。
「即決で引き受けるんですか!?」
「相談されたからねぇ」
「だからって……」
「『助けを求めるものには手を差し伸べよ』。それが道徳というものだよ、峰城クン。もちろん、明日も来てくれるよね?」
道徳だなんだとそれらしいことを諭しているが、機嫌のいい仲條の顔には「面白そうだから話を聞いてみよう」と書いてある。しかも問答無用で峰城を話に巻き込む気満々だ。
峰城は涼しいはずの室内でジワリと汗をかいた。幸か不幸か明日はバイトがないので断る理由がなく、明日の夕方もここに来れてしまう。無駄な抵抗と知りつつ、一応は断ろうと口を開いた彼女の前に仲條が先手を打った。
「ああそうだ。鍵の件、僕が返却し忘れたってことにしておいたから」
心霊スポットで遭った恐怖体験を盾に今回は行きたくない、と遠回しに断ろうとしたが鍵の一件を出されてしまうと「大人げない、卑怯」という言葉を頭に浮かべつつ強く断れない。
「……話を聞くだけですよ」
*
翌日、峰城が律儀に約束通りオカルト研究会の部室に向かうと、小屋の周りをウロウロしている女性がいた。本当にここで合っているのか、と不安そうに周囲の様子を伺っている。
大学構内といえど辺鄙な林だ。ここに来る人間は限られているので、彼女がきっと件の依頼人だろうと当たりをつけて峰城が近寄る。
「こんにちは」
そっと声をかけたつもりだったが、彼女はビクリと肩を震わせてゆっくりとこちらを振り返る。
疲れた表情でおどおどしているが、服装や髪型などから聡明そうな印象を受ける。怖い思いをして疲弊しているのだろう、と少し気の毒に思った。
「すみません、驚かせてしまって。もしかして、昨日メールでやりとりされていた高木さんですか?」
「……はい。もしかして、あなたが会長さんですか?」
「いえいえ、会長はきっと中でゆっくりしてますよ。よかったら中へどうぞ」
にこやかに小屋へと促すと、彼女はホッとして幾分か表情を緩めた。オカルト研究会というので変わった人物が現れるのかと思ったら、峰城のような普通の人間が現れて随分安心したことだろう。
かく言う峰城も最初は偏見を持っていたが、仲條がサークルの会長だと聞いたときは認識を改めたものだ。今では当初の偏見が間違っていなかったことを証明し、後悔真っただ中だが。
促されるままに高木は小屋の中に入り、仲條の姿を認めると振り返る。彼女が「この人が会長か」と目で送る合図に峰城が頷くのを見ると、再び緊張を纏って会釈した。
「先輩、依頼人の高木さんです」
「お時間ありがとうございます。昨日メールした高木です」
「初めまして、仲條です。そちらの席にどうぞ」
仲條がのんびりとした口調で名乗り、小屋の中ほどにある窓側の席を彼女に勧めると彼はその向かいに座った。峰城はいつも通り電気ポットでお茶を入れようと、仲條の背後にある給湯スペースに立つ。
「来る途中、迷いませんでしたか?」
「少しだけ……構内に林があったのは知ってましたけど、ここに部室があるのは初めて知りました」
「この辺りは人が来ないですからね。騒いでも怒られない代わりに、夏は虫がすごくて」
高木の緊張をほぐすために軽い雑談をする仲條の後ろで峰城が人数分のお茶を淹れ終えると、二人の前にマグカップを置く。
高木の出されたお茶に対する会釈に軽く頷くと、峰城は二人が見渡せる小屋の入口に近い席に座り、それを見た仲條が待ち構えていたように口を開く。
「早速、昨日いただいたメールの内容についてですが」
「はい……」
本題に入ると、高木は解れ始めた口元を再び引き締めて語り始めた。
彼女が語る話はメールで確認した内容とほとんど変わらなかったが、肉声で改めて聞くと彼女がどれだけ困っているかを思い知る。
「その日によって座りたいところが変わるんだったら、普通ランダムに座るじゃないですか。それなのにその男性は段々、私に近づくように座っていくんです。なんだか気味悪くて。友人に話しても気のせいだって、励まされるばかりだし……」
一息に語る彼女は語尾を震わせながらそう締めくくり、マグカップに手を添えるとゆっくり一口お茶を飲む。心霊スポットで怖い目に遭った峰城は、他人事とは思えず心から同情した。
話を聞き終えた仲條は少し考える素振りをしたあと、ゆっくりと口を開く。
「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと、ですか?」
「例えば、よくあるのは何か物を拾ったとか」
「物、物……あ、そういえば」
記憶をたどるように視線をさまよわせてから、高木はふと思いついたように考え込んでいた顔を上げる。
第二章:のろわれた定期の怪 第五話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n8f483ea54ec9
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