【第三話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】
第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第二話(前回)
あらすじ:サークル掲示板の噂の真相を半分知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第四話(次回)
「怪異調査依頼用の連絡先だよ」
確かに桃井も「怪異に困ったら、オカルト研究会の掲示板で相談できる」と桃井は言っていた。この噂だけは本当だったようだ。
仲條が言うには、開放されている掲示板はあくまで噂を書き込むものだが、困った風の書き込みをした人を見かけた場合、必ず次のようにコメントを返信するのだという。
「以下のメールアドレスに本名と詳細な相談内容をどうぞ。三日以内に返信差し上げます」と。
掲示板は匿名性だが、メールの場合は使い捨てのメールアドレスを作成しない限りは自分のアドレスを使用することになる。さらに本名記載を指定しているため、依頼が悪戯であればその時点で大抵は怖気づくだろうし、本当に困っているのであれば数日以内にメールを寄こすだろう、との目論見らしい。
「噂みたいに紙でやり取りじゃなくて、メールにしたんですね」
「今やスマホの時代だからね」
確かにこっちの方が時代に沿っているかもしれない。であれば、むしろ噂のほうが追いついていないことになる。噂のアップデートを提案しようにも、噂のアップデート方法を知らない峰城は、口まめな桃井に結果を伝えることくらいしかできない。
それしても、さきほどの仲條の口ぶりから察するにオカルト研究会はスマホがあった時代より前からあったのだろうか。サークルの期限すら知らないので、これを機に聞いてみるのも悪くないかもしれない。
「もしかして、このオカ研って結構歴史あります?」
「正確な年数はわからないけど、少なくとも10年以上かなぁ。それこそ、掲示板ができる前は教室棟近くにある物理的な掲示板でやりとりをしていたらしいし。いつだか大学内で噂されていた怪異も、オカ研が密かに解決した、なんて武勇伝も引き継がれているしね」
想像よりも長い経歴があること知って峰城は目を見開く。人も活動実績も少ないサークルが、この小屋を使えていることにようやく合点がいった。
普通なら矮小なサークルは特定の部室を持てず、空き教室を借りての活動になる。もちろん、荷物は置いていけないし、ひと月に一回は教室貸出届の提出が必要だ。
こんなに活動人数も少ない上に、活動内容も分からないオカルト研究会は漏れなく空き教室での活動になるはずなのに、古いとは言え小屋一つ分の部室が与えられているのは、その「大学内で噂された怪異を解決した」功績によるものなのだろう。
「僕らも先輩方を見習って、できる限り解決しないとね」
「『僕ら』って、まさか私も入ってないですよね?」
仲條の言葉を聞いた峰城の冷ややかな反応に、彼は心底心外だという表情を浮かべる。こういう大げさな表情をするときこそ油断ならない。
「僕と峰城クン以外に誰がいるっていうんだい? 心配しなくても、分からないからといって、除け者扱いなんてしないよ」
気にしているところはそこじゃない、と反論しようにも勝手に一人盛り上がっている仲條は、聞く耳を持ちそうになかった。諦めて遠回しに調査に行きたくないことを訴える方針に切り替える。
「でも、怖い目や危ない目に遭うのは嫌です。それに、怪異調査がオカ研の活動目的じゃなくても、先輩ならそういう話に喜んで首を突っ込みそうじゃないですか」
「まさか、さすがの僕でもそこまでお人好しじゃないよ。確かに怪異の話を聞くのは好きだけど、僕だって理由があって……」
仲條が何か言いかけたとき、ピコンと小さな声を上げたのは峰城の前にいたパソコンだった。仲條が椅子ごと峰城の隣に移動して画面をのぞき込むと、いくらか操作してメールボックスを開く。
「噂をすれば、だね」
嬉しそうに目を細める仲條に、峰城は嫌な予感がする。
画面をよく見ると新着のメールに「調査の依頼について」と書かれた件名がある。仲條が慣れた手つきでメールを開くと、簡単な挨拶と依頼したい旨が書かれていた。
「数日前に掲示板に相談内容が書かれて、やり取りしたいから改めてメールで送るよう返信しておいたんだ」
峰城が心霊スポットで騒いでいた以前から、話が進んでいたことに驚く。まるで待ち構えていたかのような用意周到さだ。仲條の画策はどこまで計画されているのだろう。
「はじめまして。先日、掲示板に相談を書き込んだ二年生の高木と申します」
その一行から始まったメールは相談内容が書かれているらしく、仲條がゆったりとした語り口で読み上げ始めた。峰城は立ち去る隙を逃してしまったので諦めてメールの内容を聞くことにした。
「電車に乗っていると、大体同じ時間に同じ人に会うのはよくあることだと思います。私がある日、前日見かけた男性と居合わせたのも、ただの偶然だと思っていました」
しかし翌日も、その翌日も同じ車両に乗っているので、試しにいつも乗っている電車の先発または後発の電車にも乗ってみたものの効果はなく、必ず同じ電車に乗っている。しかも男性の存在に気づいてからは、日に日に高木の座る席に近づいていることに気づいて段々気味が悪くなってきたという。
「その男性に気づいてから約二週間が経ちます。今のところ何かされたり話しかけられたりはなく、私が家の最寄り駅で電車を降りても後をつけられたことはありません」
現に高木は約一時間電車に乗っているが、その間男性はずっと動かず最寄りの駅で降りてもその男性は電車に座ったまま去っていくらしい。そのためストーカーの線は薄そうだと書かれていた。
友人に相談しても重く捉えてもらえず「偶然、気のせい」と言われてしまったが、気味悪がる高木を見て「そんなに心配なら」と友人に教えられて掲示板に書き込んだのだという。
「こう何日も同じ人を見かける上に段々近づいてくるのはどうも気味が悪く、何かあっては怖いので相談に乗っていただけないでしょうか。ご検討のほどよろしくお願いします」
メールを読み終えた仲條は「ふむ」と顎に手をやった後、パソコンを引き寄せてキーボードを叩き始める。その後ろから峰城が画面をそっとのぞき込むと、彼は次のように返信のメールを打っていた。
第二章:のろわれた定期の怪 第四話(次回)
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