【第十四話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】
第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第十三話(前回)
第二章:のろわれた定期の怪 第十五話(次回)
仲條の一言で、試合のゴングが鳴った気がした。気がしただけで、店内はサックスを中心にしたジャズミュージックの音量が大小入り交じって流れている。彼と並んで座ってはいるものの、峰城は場外の観戦者だ。向かいに座る高木は楽し気に微笑みを浮かべている。
「……私は、あの呪いの定期入れの被害者ですよ」
「そうですよ。それに彼女の名前は金橋さんじゃなくて、高木さんですよ」
「まず一つ。あなたは僕達に言っていないことがありますね」
図らずも高木を擁護する形になったが、仲條は気にしていないようだ。峰城を一瞥しただけで、ずっと高木に向き合っている。仲條にとっても峰城は観戦者の一人に過ぎず、彼から場外宣告を受けたようなものだった。
「高木さんは、僕達と同じ大学の学生ではないということです」
仲條はスマホを操作してテーブルに置き、画面を指差す。高木と峰城は身を乗り出して、テーブルの上で頭を突き合わせる。
「これは一年生のときに配布される、学生の一覧です。学籍番号と名前が並んでいますが……どう考えても、あなたではないでしょう」
名前のタ行を見つけると、親指と人差し指で画像を拡大してみせる。確かに「高木」の字はあるが、どう見ても男性の名前だった。
思い返せばメールで名乗ったときも学年を言っただけで、同じ大学かどうかは言っていなかった。所属する大学名を省略するから、峰城達が勝手に同じ大学の二年生だと思い込んでいただけである。
「それと、オカルト研究会の掲示板は大学内で噂されているので、学内では広く知られているようですが、大学の外に出てしまえば知名度はそうでもありません。そもそも、あなたはオカルト研究会の小屋の存在すら知らなかった」
仲條の言う通り、幽霊や都市伝説の話が好きな友人――例えば、桃井――はもちろん、オカルト方面に詳しくない友人でも、風の噂程度には聞いたことがあると反応をしていた。
峰城が知らなかったのは、友人との話題で怖い話やオカルト話になるとサークルで聞き飽きているから、と聞くのを拒否していた弊害故のことだ。
「一人殻に閉じこもる性格の人ならまだしも、社交的なあなたが誰からもオカルト研究会のことを聞かずに一年を過ごせるとは、到底思えません」
これは随分と自惚れた発言と捉えかねないが、同じ学内で過ごしていれば仲條の言う通り、オカルト研究会の名や部室の場所を知らずに過ごすことは難しいと分かる。
オカルトという非日常的なジャンルであることも注目を集めているが、以前峰城が疑問に思っていたように「活動実績も人数も少ない弱小サークルが部室を持っている」こと自体、事情を知らない学生にとっては不思議でならないのだ。
過去に学内の怪異を収めたらしい、という曖昧な噂だけで成り立つ実績だ。運動部や着実に活動実績を重ねてきたサークルであれば、自分たちと同じく部室を持っている事実を尚のこと面白くないと思うだろう。
桃井のように好奇心や好意的な印象だけではなく、行き場のない妬みや疑惑の悪印象で話題に上がることも少なくない。聞こえる場所は食堂だったり、教室だったり、通学路だったりと様々で、友人だけでなく文字通り小耳に挟むことだってある。
「ちなみに、掲示板はご友人からの紹介って話でしたね」
「ええ。オカルトに精通した友人が教えてくれたんです」
「そのオカルトに精通した人が、友人に奇妙な出来事を相談されて『気のせい』の一言で済ませるでしょうか。少なくとも僕なら、名乗り上げてでも調査します」
それはどうだろう。人によるのじゃないか、と峰城は思ったが仲條ならやりかねない。桃井でも調査するまで行かなくとも、真っ先に話に食いついてきそうだ。それこそ、「気のせい」で終わらせるよりお祓いを勧めるイメージの方が強い。
「名前の一覧は入学時に配布されるものであって、二年生から編入してきたら一覧にないのも当たり前です。それに、オカルト研究会や掲示板の存在を知らないから、他大学の学生だと決めつけるのは早計では?」
「では、高木さんは編入生だったんですか?」
「ノーコメントで」
「……いいでしょう。それでは今日、『火災が起きた家の前で落ち合いましょう』と僕が連絡して、迷いなく来れたのはなぜですか?」
仲條の質問に峰城は目を剥いた。場所も送らずに呼び出したのか。カマをかけるにしても、かなり粗雑な方法だ。しかし、高木は思わぬところを突かれたのか、怪訝な目を左右に揺らした。
「それは、ニュースをでみたから――」
「普通、詳細な住所までは載らないですよね。金橋さんの家に行ったことがない限り、知りえないはずなんです。それとも偶然、金橋さんの家を見かけたことがありますか」
「今時、ネットで検索すればいくらでも分かるんじゃないですか」
仲條の指摘に高木はそっけなく答えて、コーヒーに口をつけるとそのカップ越しに上目遣いで仲條を見つめながら、その目を細めている。優劣の状況は分からないものの、依然として彼女の堂々とした姿勢を崩せていないことだけは分かる。
「あの多分、この中で一番分かってないんですが、高木さんって金橋さんのご親戚なんですか?」
「親戚も何も。高木さんは金橋家の一人娘、茉優さんですよね?」
「でも、名字の件はどうするんです?」
決定的な証拠があるならまだしも、仲條は怪しいところを突っ込むばかりで一向に話が進まない。高木も笑みを浮かべて余裕の姿勢だ。
「うーん。どうも、うまくいきませんね。本当は出したくなかったんですが――」
第二章:のろわれた定期の怪 第十五話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/na2313b8f67bf
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