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【第十五話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】

第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。

第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。

第二章:のろわれた定期の怪 第十四話(前回)

第二章:のろわれた定期の怪 第十六話(次回)


 あっさり両手を上げてホールドポーズをとると、仲條は鞄から透明なクリアファイルを取り出して数枚の紙をテーブルに並べた。紙には高木の写真と経歴、数日間の動向がまとめられている。まるで探偵の身元調査報告書のようだ。

「な、なんですか、これ……」

「調査依頼を引き受けたとき、『解決を求めるならプロに紹介する』と言ったのを覚えていますか?」

 動揺する高木に、仲條は淡々と調査開始前のことを語り始めた。記憶を引っ張り出した峰城は「割引はあるが紹介料と依頼料を払う必要がある」と説明していたのを思い出す。

「プロというのは、オカルト研究会と提携している怪異調査会社なんです。調査を依頼する場合に備えて、必要があれば素性調査をお願いしています。ちなみに、その会社にはオカルト研究会の卒業生が何人か就職していて、僕がお世話になった先輩も社員でいるんだよ」

 高木に説明した後、後半は補足するように峰城に視線を向ける。峰城も初耳だったが、関係者でもない高木は更に寝耳に水だろう。顔を赤くしてしかめ、資料を持つ手が震えている。

 何も確証はないと踏んでいた高木は、仲條とのやり取りを楽しんでいた節すらあったのに、まさか裏で素性調査をされ、今までの抵抗が無駄だったと知った彼女は姿勢を崩して投げやりに足を組んだ。

「最初にこれを出せばいいものを、騙しましたね」

「騙しただなんて、人聞きの悪い。できれば、物語の探偵みたいに高木さんの本性を暴きたかったんですが……所詮、僕はただの怪異マニアだったようです」

 鋭い眼光を向ける高木の手から資料を取り上げると、仲條は自嘲気味に場を振り回した訳を話すが、詫びもせず彼女の名前欄に視線を落とした。

「彼らの調査によると、あなたの名前は金橋 茉優さんだそうですね?」

「探偵ごっこを楽しんでもらえたようで、何よりです」

 質問というより、確認の気が強い仲條の問いには答えず高木――茉優は皮肉を込めて言い放った。今までの穏やかな口調は消え、無表情の中で冷ややかな視線を向けている。

「今回の件は茉優さんが関わっていた、ということで間違いないですか?」

「ここまで来て否定はしません」

「それじゃあ、本題に入りましょうか」

「本題?」

 呆然と今までの会話が何だったのか、と問う視線を仲條に送ると、彼は「何言ってるんだい」と肩をすくめた。

「オカルトに明るくない彼女が、どうやって復讐を果たしたか。その方法をどこで知ったのか、僕達は未だに知らないんだよ」

「話したところで事は全部済んで止められもしないし、振り回されたお詫びに全部聞いてもらいましょうか」

 もう殆ど残りのないコーヒーを口にして、茉優が語り始める。

「忘れもしない、私が小学三年生で母が亡くなったあと、あの女が家に上がりこんできて母親面するのが嫌でした。私はまだ、母を亡くした悲しみも癒えていなかったのに」

 茉優が嫌そうに語る「あの女」とは真純のことだろう。継母との仲は想像以上に悪かったようだ。

 突然やってきてた若い女性との再婚を提案した父の和夫に、茉優はもちろん反対した。親の恋愛事情など見たくもないのに目に付いてしまい、和夫も随分な入れ込みようで、実の娘や年に一回会うかどうかの親戚の反対意見よりも自分たちの幸せを取った。

「……結果的に、父が自分の首を絞めることになりましたけどね」

 茉優は視線を落として、胸の高さまで持ってきた自分の爪先を撫でた。

 若い真純は見目を気にして服やアクセサリー、美容費も家庭のお金から捻出することが多々あり、茉優が中学生に上がると家にいるよりも圧倒的に外出する頻度が上がったという。お陰で一時期、家計は火の車になりかけて家計の一切を和夫が担うことになった。

「それに、あの女は私から父を奪っただけじゃなく、人の男にまで手を出したんですよ」

 茉優が大学に入学し、一人暮らしで自由と解放感を味わっていた頃。バイト先で知り合った五つ上の男性と付き合うことになり、彼女の大学卒業後に結婚の話まで出ていたらしい。

 継母のことは忌避しつつも、実の父は色事に溺れたが後妻振り回されていることを憐れに思い、親子仲はそう悪化することはなかった。最後になるかもしれない親孝行を考え、気が早いと思いつつ彼氏の提案で父との交流を名目に、何度か実家に顔を出すことになった。だが、予想外にも継母と彼氏が気が合い始めたのだ。

「夫と娘そっちのけで不倫する人妻に引っかかる彼氏も、とんだ愚か者だったってことです」

 そう語る茉優は、明言こそしないものの何か決定的な瞬間を見てしまったのだろう。組んだ腕を力強く握り、悔しそうに視線を斜めに落とした。

 彼女にスマホで元彼氏の写真を見せてもらうと、昨日真純と親し気に話していたスーツの男性だった。間違いなくあれは逢引きで、峰城の嫌な想像は間違いでなかったことを証明されて嫌な気分になる。

「昨年、通勤途中で父が事故に遭ったのも、偶然とは思えませんでした」

 事故に遭った当日、同じ経路を使っていた和夫と茉優は事故直前に偶然会っていたのだという。軽く挨拶をし、去り際に落とした父の定期入れを拾って振り返った途端、その父が乗用車に轢かれる瞬間を目撃した。

 急ブレーキと鈍い音、次いで周囲の悲鳴と救助に向かう叫び声。茉優が語る現場の状況は、彼女に胸の内に深い傷を負わせたのだろう。

「実の両親を亡くしたショックで、しばらく学校も休んでいました。それで、『もしかしたら彼とあの女が仕組んだことなんじゃないか』って」

 事実は分からない。警察の調べもあり、実際はただの事故だった可能性の方が高いが、茉優は二人に復讐することを決意したという。

「そんなとき、『怪異コンサルタント』のことを知りました」


第二章:のろわれた定期の怪 第十六話(次回)
https://note.com/light_clam8523/n/n2c4cf7a1f913

第一章 第一話はこちらから↓



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