【第十六話】怪異マニアの仲條先輩は今日もお気楽 第二章:のろわれた定期の怪【連作短編】
第一章:傘と女の怪 第一話(初回)
あらすじ:先輩と後輩の日常と、サークル活動の始まりです。
第二章:のろわれた定期の怪 第一話(第二章 初回)
あらすじ:後輩がサークル管理の掲示板の噂を知ります。
第二章:のろわれた定期の怪 第十五話(前回)
第二章:のろわれた定期の怪 第十七話(次回)
「怪異コンサルタント?」
「願望を叶えるために、怪異を利用する。コンサルタントは、それを助けてくれるんです」
「巷の呪い代行とは違うんですか?」
聞きなれない言葉に仲條は怪訝そうな表情を浮かべつつ、質問を重ねた。峰城は呪い代行があることすら初めて知る。意外と世の中には呪いや怪異が蔓延っているものなのか。
「怪異を作り出す方法を教えてもらったり、手助けしてもらったりして自分で実践するんです」
彼女に与えられたのは「繰り返し誰かの手に渡る定期入れを手にした者が、男の霊に付きまとわれる」という怪異だった。
怪異の発端として、和夫が使っていた定期入れを呪具――呪うために使う道具を指すらしい――に呪いの仕掛けを施してもらい怪異の噂を伝聞する。
結果的に噂がその怪異を強め、最終的に真純達に不運が降りかかれば良いと考えていたが、思ったより強力な呪いとなって二人に襲い掛かった。
「想像以上に上手くいって驚きました」
茉優が話している内容や実践したことは恐ろしいことだが、彼女自身は晴れやかな表情を浮かべている。もし、それが呪いではなくポジティブな願い事なら、峰城も素直に祝福したいくらい幸せそうだった。
「お土産で送った紫陽花は、最後の忠告のつもりだったんですね」
「紫陽花が、どうして忠告になるんですか?」
真純はひと月前に娘が土産で持ってきたのが紫陽花だと言っていた。仲條が言っているのはそのことだろう。「花言葉だよ」と言われた峰城はスマホで「紫陽花 花言葉」で検索すると、結果の一番上に「移り気」や「浮気」といった花言葉が含まれているのを知る。
そういえば、昨日逢引き現場を見かけたとき、仲條はスマホで何かを検索していた。普段なら「その場で教えてくれてもいいのに」と文句を言っているところだが、当時の気分を思えば今回は聞かずに済んでよかったかもしれない。
「口で直接言ったって、どうせ聞かないもの。最後に残った罪悪感と一緒に押し付けてやったわ」
「それで、実のお父さんを復讐の道具に使った気分は晴れましたか」
「道具? 違うわね」
にやりと茉優が笑う。歪んだ嫌な笑みだ。綺麗に整えられた髪や爪も相まって益々彼女を悪女たらしめている。
「私が最後の背中を押してあげたんです。生前、浮気に気づいていたくせに『若くして家に縛り付けてしまった』だの『家のことやお前を育ててくれた恩』だのいって、昔の写真を見るだけで何もせずにいるから」
茉優は生前の父、和夫がいかに意気地なしだったかを口を歪めて語った。確かに、気づいていながら口出ししなかった和夫にも責任はあるが、彼女がやったことは故人を侮辱する行為だ。
「でも、それが和夫さんの決めたことですよね。『最後の一押し』だなんて厚かましいこと言ってますけど、結局は自分がフラれた腹いせにお父さんに何とかしてもらおうとしただけじゃないですか。子どもみたい――」
あまりの言い分に腹を立てた峰城がまくしたてると、最後の一言に茉優は目尻を上げて睨みつけてくる。初めて小屋の前で会ったときの、オドオドしていた姿とは大違いだ。あまりの形相に縮こまるが、負けじと峰城も睨み返した。
「父は昔の写真を眺めてたのよ。あの頃を懐かしんで、今を悲しんでいたに決まってるじゃない!」
「死人に口なし。故人の気持ちを慮ることはできますが、正確に理解することは生人の僕達でも難しいことで、これ以上は不毛ですよ。ですが」
場を宥めるように仲條が穏やかな声で仲裁すると、一度言葉を切って茉優に向き直る。いつにも増して真面目な表情だ。
「僕も峰城クンの意見に同意です。怪異を利用して人に危害を与えるなんてこと、あっていいはずがありません」
「あら。仲條さんは私と近い部類の人間だと思っていたのに、意外と綺麗事を言うのね。なりふり構わず、何でも利用するのが願望実現の近道なのに」
仲條の意見を聞いた茉優は鼻で笑った。全ては知りえないものの、なりふり構わずにはいられなかった彼女の人生を思って同情すら覚える。その雰囲気を感じ取ったのか、表情を抑えて茉優はそっぽ向いてしまった。
「それともう一つ。その怪異コンサルタントへの報酬は? まさか見返りなしというわけでは」
「『怪異は人の伝聞によって強くも弱くもなり、強い怪異は時代を越えて語り継がれ、弱い怪異は消えていく。私は、それを実践し、証明したい』とか、そんなことを言っていました。その協力をすることと、何が起きても、上手くいかなくても自己責任、口外禁止。十分な見返りだと思いますけど」
茉優が怪異コンサルタントから聞いた言葉を諳んじた。口外禁止の禁を破って話してしまっても良いのだろうか。仲條も、その禁止事項を見落とすはずがなく、警戒の色を滲ませた。
「……僕達に話したのは?」
「見事なまでに見抜いてくれたから、と言いたいところですが」
茉優が席を立つ。椅子に彼女のヒールが当たって高い音が響いた。最初に、仲條が探偵の真似事をして、彼女が道化を演じさせられたことを根に持っているらしい。
「怪異コンサルタントがあなた達を紹介したのは、どうも仲條さんのことを知っているからみたいですし、あなた達になら話してもいいって言われているので」
聞いたことのない職業の人と知り合いらしい、と言われても相手に思い当たる節がないのか、仲條は不可解な表情を浮かべている。峰城もそんな物騒な職業に就いている知り合いなど一人も思い当たらない。
「そうそう、仲條さん。あなたの妹さん、怪異になりたがっていたそうですね」
第二章:のろわれた定期の怪 第十七話(次回)
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