ギャル店員さんに騙された話
「買って良かったものは何ですか?」
そう聞かれると、私は少し変わった答えを思い出します。
それは何年も前に買った、一枚のブラウスです。
ある日、ふらっと立ち寄った服屋さんで、何気なく服を見ていました。
すると店員さんが声をかけてきました。
ギャルっぽい見た目で、話し方は当時の浜崎あゆみさんみたいな感じです。
「これ絶対似合うと思うんですよね〜」
そう言って差し出されたのは、自分では絶対に手に取らないようなブラウスでした。
私は即座に断りました。
「いや、こういうのは似合わないので」
長年生きていると、自分に似合うものと似合わないものは分かってくるものです。
少なくとも、その時の私はそう思っていました。
ところが店員さんは引きません。
「騙されたと思って、一回だけ着てみてください」
そこまで言うなら、と半ば押し切られるように試着室へ向かいました。
そして鏡を見て驚きました。
あれ?
思ったより悪くありません。
むしろ、結構いいかもしれません。
自分では絶対に選ばない服だったのに、想像していたほど違和感がなかったのです。
そのまま買って帰りました。
そしてそのブラウスは、気づけばお気に入りの一着になっていました。
何度も着ました。
たくさん着ました。
ボロボロになるまで着ました。
もし今でも同じものが売っていたら、もう一度買いたいと思うくらい気に入っていました。
もちろん、服ですからいつかは傷みます。
流行も変わります。
同じものをもう一度手に入れることはできません。
それでも、あの買い物は今でも「買って良かった」と思っています。
ただ、今振り返ると、私が買って良かったのはブラウスそのものではなかったのかもしれません。
本当に価値があったのは、
「自分には似合わない」
と決めつけていた思い込みを、一度外してみたことでした。
自分のことは自分が一番知っている。
そう思っていても、案外そうでもありません。
他人の目だからこそ見えるものもあります。
あの日のギャル店員さんは、私の知らない私を見つけてくれました。
服は残りません。
でも、あの時の驚きは今でも覚えています。
だから私にとっての「買って良かったもの」は、一枚のブラウスであり、自分の可能性を少しだけ広げてくれた体験そのものなのです。
あの日のギャル店員さんには、まんまと騙されました。
そして、その騙しには今でも感謝しています。
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