おくり人〜栞〜|綴22 『 合コンの流儀と男気 』
※本作品には、葬儀に関する描写が
含まれています。
ご遺体、告別式、供花など、
死に関連する場面が登場します。
※本作品は創作です。
登場する人物、団体、施設、企業は
すべて架空のものであり、
実在する人物、 団体、施設、企業とは
一切関係ありません。
※本作品は、
毎週 火・木・土 更新予定です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おくり人 〜栞〜
綴22『 合コンの流儀と男気 』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数週間前、赤薔薇の祭壇で行われた大きな
葬儀。
その余韻も少しずつ落ち着き始めた昼休み。
花工房の裏口で、山本は缶コーヒーを片手に
スマートフォンを耳へ当てていた。
「いやぁ〜、この前はマジで大変やったわ」
『赤薔薇の祭壇のやつ?』
電話の向こうから、友達の白石竜誠。
彼の気楽そうな声が聞こえる。
「そうそう。俺がおらんかったら、
多分あの現場回ってなかったから」
『そんな忙しかったん?』
「忙しいなんてレベル違うぞ。
べーさんなんか、頼りないからさ。
結局、俺が全体見ながら指示出してさぁ」
山本は、少し得意げに笑った。
「最後なんか部長から、"山本、お前こそ会社
のスーパーエースだ"って褒められてさ」
ハッハッハ〜と声を上げる山本。
……もちろん、そんな事実は無い。
「しかもよ…」
ここで、山本は声を潜める。
「うち花屋やろ?」
『おぉ、知ってる』
「スタッフ、女ばっかなんよ」
『おぉ、なんなん?自慢か?』
「いや、違う。
それだから……
だから困るんよなぁ」
『何が?』
「みんな俺ばっか頼ってくるからさぁ」
山本は胸を張って、大声で笑った。
……それも、嘘である。
『自慢してるじゃねーか!!』
白石竜誠の突っ込みに一切反応せず、
山本は続ける。
「べーさんじゃ頼りないし。
女の子らも自然と俺のとこ来るんよ」
『お前なぁ…鈍感じゃね〜の?
それって、モテてるってことじゃん?』
……一瞬黙る。
信じられない程の真顔の山本。
「……あぁ
……そういうことか」
ふっと、山本は空を見上げた。
彼の脳内では、映画のワンシーンのように…
「全然気付かんかったよ…」
『気付けよ!鈍感!』
白石竜誠の声は、心底怒っている。
しなひ、山本は気にしない。
彼の脳内ドラマは続く。
「同僚に栞って子おるんやけどさ。
仕事は出来きねぇし、すぐサボるし、
手ぇ掛かる奴なんだよ……」
実際には…その評価はほぼ真逆だった。
「あえて、俺を困らせてやがる。
…でも、もしかしたらさ…
俺に惚れてるから、俺の気を惹きたい
一心なのかもしれねぇな」
『おぉ〜。
オメェ…な、なんか渋くねぇ?』
友達の声から滲むリスペクト。
山本の脳内では、バックミュージックが
奏でられる。
「…この前もさ、女子らが陰で話して
たんだよ。
俺、聞く気は無かったんだけどさ……」
『おお、おお、何て???』
スマホの向こうで興奮気味の友達の
熱を冷ますよつに…山本は柔らかなダミ声で
気取る。
「"山本さんって、面倒見良くて優しいよね"
ってさ」
……もちろん、そんな会話も存在しない。
『おいおい!俺、お前みたいなよぉ、
サイコーのダチが居て誇らしぜ!!』
白石竜誠の感涙が、耳元から伝わるようだ。
【ドラマの主人公は…俺だ!!】
その言葉が、山本の脳内で反芻する。
『お前、それだけ環境揃ってんならよぉ』
「ん?」
『合コン開いてくれや』
「…………、……………、…………合コン?」
『おぉ!
俺も彼女欲しい!!
だからよぉ!
お前の、お力をくれよぉ〜!
お前んとこの子らに会わせてくれぇー!』
山本は少しだけ口元を緩めた。
小学校からの付き合いがある友達。
彼には、あらゆる面で横並びだった。
しかし、今!その彼に対して、圧倒的優位に
立っている!
……………妄想の中では。
「まぁ……しゃあないな。
お前との間柄出しな。
なぁ、竜誠よ。
お前、俺に返せない貸しが出来たな」
『神様。仏様。山本様〜!!
あなた様に感謝感激しとるぜ〜!!
一生返せねぇよ!!
連絡まってるからな!!』
プッ…。
通話は終わった。
しかし……
山本の頭の中では、一つの問題だけが
大きくなっていた。
(……あれ?
女の子…………誰……誘う???)
スマホをタップする。
『間宮栞』
『かーちゃん』
……。
「あれ?」
山本の脳内で、フィルムがプチッと
音を立てて切れた。
翌朝。
まだ始業時間より少し早い事務所。
栞はいつも通り、早めに鍵を開ける。
事務所の明かりを付けて、誰かいるわけでもないが、いつも通りに挨拶をする。
「おはようございま──」
「お願いしますッ!!」
床へ額を擦りつけるように、一人の男が
土下座していた。
「…………」
栞は、ゆっくり扉を閉めた。
霊感は無い……はずだ。
今まで一度も、“それ“を見たことがない。
だけど、“そこ“には確かにいた。
恐る恐る、扉をもう一度開ける。
「お願いしますッ!!」
やっぱり居た。
気のせいではない。
しかし、そのシルエットは馴染みがある。
「……な、な、何してるの?」
栞は驚くというより、少し気味悪そうな
表情を浮かべた。
何より違和感だったのは、土下座している
シルエットが山本だったことだ。
そして、もう1つの違和感……
(なんで…………
山ちゃんが私より早く出勤してるの?)
そんなこと、今まで一度も無かった。
だからこそ違和感であり、気持ち悪い。
「しおちゃん!頼む!」
「いやいや!何なの?」
山本に聞きたい事は沢山ある。
しかし、何から聞くべきか分からない。
質問に悩む栞に土下座する山本は、
勢いよく顔を上げる。
「友達に合コン開けって言われた!」
「はぁ?」
栞には、現状を理解することも、
山本の言葉を理解することも出来ない。
目の前の“生物“が、“人の言葉“を話してる。
それぐらい、理解が追いつかない。
結果、栞の口から吐かれた言葉は…
「……知らんがな」
あまりにも自然に言葉が漏れた。
「いや、聞いてくれ!」
「聞きません」
「強制なんよ!
俺、合コン主催しないといけないんよ!」
「あっそ、頑張って」
「俺、断れんかったんだよ!
断ったらぶっ殺されるんだよ!!」
「ご愁傷様です」
栞は靴を履き替えながら、淡々と返した。
しかし、山本はなおも食い下がる。
「女の子集めてくれ!」
「嫌です」
「一人でいいから!」
「うっさい!」
「お願いします!
しおちゃんと、あと1人!!」
「って!私も強制参加かぁーい!!」
朝っぱらから、若手芸人のコント練習の
ような光景だった。
ガチャ。
事務所の扉が開く。
「おはよ〜」
べーさんだった。
「おっ。珍しい山本。
朝から何やってんだ?」
「べーさん!」
山本は救世主を見つけたように立ち上がる。
その顔は、若干涙ぐんでいた。
「実はですね──」
勢いよく事情を説明し始めた。
もちろん、自分が散々見栄を張ったこと
だけは、器用に隠しながら。
「……という訳なんです!」
べーさんは腕を組んだ。
「なるほどなぁ」
「だから合コン開かないとヤバいんです!」
「うんうん。
確かに、山ちゃんボコられそうだな」
「でも、しおちゃんが協力してくれないん
です!!!」
栞は即座に口をひらく。
「当たり前です!」
山本は再び叫んだ。
「べーさん!!
このままじゃ俺……もう無理っす!!」
項垂れる山本からは…悲壮感が漂う。
そして次の瞬間、何かを決意したように
姿勢を正す。
「俺!退職します!!」
事務所の空気が止まった。
「……は?」
「えぇぇぇ!?」
栞は、彼の言葉が理解できず…
ぽか〜んと口をだらしなく開く?
べーさんは目を丸くしたまま固まって
いたが、呟くように言葉を吐く。
「…そんな理由で?」
「男には引けない勝負があるんです!」
山本は胸を叩いた。
まるで、何か重要なプレゼンテーションの
締めを行うように。
べーさんは困ったように頭を掻く。
そして、ゆっくり栞へ向き直った。
「栞……頼む」
「えっ?」
べーさんが栞に頭を下げる。
……よく分からない光景だ。
しかし、栞の理解が追いつくより早く
べーさんの言葉が続く。
「今回だけ……頼む!」
そう言うと、べーさんまで山本の隣へ並び、深々と土下座した。
「…は、はぁ〜〜〜???
べ、べーさんまで!?」
栞は慌てる。
もう何が何だか分からない。
べーさんの肩に触れて、土下座した頭を
上げさせようとする。
しかし、べーさんの頭は、地面に貼り付いた
ように動かない。
「やめてくださいよ!」
「頼む!」
「お願いします!」
二人の額は地面にめり込むかと思う程、
床へ強く密着する。
栞は頭を抱えた。
そのまま頭を掻きむしる。
……やがて栞は、大きくため息をついた。
「……今回だけですよ」
土下座していた二人が同時に顔を上げる。
「ホントに!?」
「ありがとうございます!」
「でも!」
栞は人差し指を立てた。
「人数合わせですからね!
変な期待、絶対しないでください!」
「もちろん!」
山本は満面の笑みで返事をした。
その返事が、一番信用できない。
栞は心の中で、静かにそう思った。
その時、山本のスマホが鳴る。
そして……画面、栞の順番で視線が動く。
「なによ?」
「しおちゃん含めて3人。
女の子よろしく!
可愛い子がいい!!」
ニコッと笑う山本。
その頭を、栞は新聞を丸めては叩いた。
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