言語聴覚士の実習は変わった。それでも「こどもSTを選べない」入り口の話
―2024年5月の指定規則改正は、医療偏重を崩せるのか―
はじめに
臨床記録を書きながら、「小児の経験、ほとんどないな」とふと手が止まったことはありませんか。
指定された実習時間の3分の2以上は、病院や診療所。
振り返ってみると、書けるのは成人の症例ばかりだった、という方も多いはずです。
本当は子どもの支援がしたかったのに、経験がないから選べない——
そんな焦りを、ST学生時代に感じたことのある方は少なくありません。
実はこれ、あなたの意志の弱さのせいではなく、ある「仕組み」のせいだとしたら、どうでしょうか。
以前、「病院にはいるのに、家族の身近にいない。こどもSTが増えないホントの理由」で、実習時間の3分の2以上が医療提供施設に割かれる制度設計について書きました。
あれから半年、実は制度は動いています。2024年5月24日、厚生労働省は言語聴覚士学校養成所指定規則の改正に関するQ&Aを示し、臨床実習指導者の要件を明確化しました。
指導者になるには、免許取得後5年以上の実務経験に加え、国が定める臨床実習指導者講習会(もしくは理学療法士・作業療法士・言語聴覚士養成施設教員等講習会)の修了が必要になりました。
これは前進だと感じています。
実習の質を、経験年数だけでなく「教える技術」で担保しようとする発想だからです。
ただ同時に、この改正は別の断絶を静かに広げる可能性もはらんでいます。
指導者要件が実習の壁になる
考えてみてください。
この講習会を受けているのは、今のところ圧倒的に病院勤務のSTです。
児童福祉・学校教育領域の有職者は、日本言語聴覚士協会の会員動向(令和7年3月31日現在)でそれぞれ4.99%、0.37%にとどまっています。
講習を受け、要件を満たす指導者が最初に増えるのも、母数の多い医療機関からになります。
つまり、
• 医療実習:指導者要件を満たす人材がすでに厚く、実習先として「回しやすい」
• 福祉・教育実習:指導者要件を満たす人材がそもそも少なく、実習先として「組みにくい」
制度は「質を上げよう」としているのに、結果として医療への一極集中を固定化しかねません。

学生が悪いのでも、養成校がサボっているのでもなく、指導者を養成する順番が、構造的に医療から始まっているだけなのです。
ガイドラインは「連携」を望ましいとしている、では誰が動くか??
国のガイドラインには、介護・福祉・特別支援教育等と連携し見学等の機会を設けることが望ましい旨がすでに明記されています。
「望ましい」で止まっている理由は、明文化されたルールがないからではなく、それを実装するための地域ネットワークと、要件を満たす指導者が福祉・教育側に不足しているからだと考えています。

ここに養成校が主体的に関与できる余地があります。
① 見学・現場体験を「臨床実習」の手前に増やす
臨床実習の枠を動かせなくても、1年次・2年次の早い段階で児童発達支援・放課後等デイサービス・特別支援学校への見学機会を制度化することはできます。
学生が「子ども支援を経験したことがある」状態を、実習前につくっておくことが大切です。
② 福祉・教育側の指導者候補を、講習会につなぐ
養成校が地域の児童福祉施設・特別支援学校のSTに声をかけ、講習会受講を後押しする。
指導者不足は「待っていれば増える」ものではなく、養成校側から働きかけて初めて動きます。
③ 実習ネットワークを可視化する
どの地域に、どんな実習先があるか。
学生が進路を選ぶ前に、医療以外の選択肢が「見える」状態にしておくことが、進路の偏りを崩す最初の一歩になります。
学生さんへ:制度が追いつく前に、自分で経験を取りに行く
もし今、あなたが「子ども支援がしたい」と思っているなら、実習配属を待つ必要はありません。
ボランティアや見学という形で、児童発達支援や特別支援学校に自分から足を運んでみてほしいと思います。
制度の設計が追いつくには時間がかかります。でも、あなたが「経験したことのある世界」を広げることは、今日からできます。

進路は、制度や学校が用意した動線だけで決まるものではありません。
参考文献
• 厚生労働省(2024)「言語聴覚士学校養成所指定規則等の改正等に関するQ&A」
• 厚生労働省「言語聴覚士養成所指導ガイドラインについて」
• 日本言語聴覚士協会(2025)「会員動向(令和7年3月31日現在)」
