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曼珠沙華は恋をする③(幸手版)|#毎週ショートショートnote(約2000字)

「デートは順調か?井上」

植物学者の木下教授から、仕事の合間にそんな声をかけられる助手の井上だった。

好きな人とならお墓参りでも何でも、どこに行っても楽しいですね、博士」
「そうか。でも墓参りとは… もっとロマンチックな所に連れて行ってやれ。今からだと…幸手さっての権現堂秋祭りとか」
「あぁ、彼岸花が群生して咲く景勝地、自分もちゃんと見たことがないから行ってみたいですね」
「立方さんを楽しませるのが一番だぞ」

博士に「立方さん1stだぞ」と何度も釘を刺されて、幸手に来た。電車で初めて来たが、意外とアクセスの良い場所だった。そして、駅を降りると風の匂いにどこか懐かしさと秋を感じた。

「もう彼岸花が見えるわ。スゴイ!」

幸手権現堂桜堤=第4公園の入口前から、咲きほこる真っ赤な花が目に入る。井上はこの日のために観光ポイントをいろいろと調べてきた。

「立方さん、ここの峠の茶屋でパンとか買って、食べ歩きしませんか?」

「…手作りのパン?いいわね。私は…あ、お焼きパンにするわ。大根の葉が入っているんですって!どんな味かしら」

「僕は…たらこフランスにしよう!パンの匂いが最高だし」

二人はパンをかじりながら歩いた。周りの人たちも何か飲んでいたり、ソフトクリームを食べていたりしている。少し子どもの頃に戻ったような気がした。二人が出会った高校時代よりも前の… 

「初めて来たのに、なんだか初めてじゃない気がするわ」

「僕もだよ。不思議だね」

美味しいパンはすぐに食べ終えて、二人は彼岸花の道を歩いた。真っ赤な花々の中にたまに白いものも見える。

「あそこだけ白い彼岸花なのはなぜかしら?アクセントなのかな」

「多分、色素形成異常による突然変異だと思うよ。日本のヒガンバナは種子ではなく、地中の球根が分球して増えるんだ。クローンなんだよ…って、こんな話は面白くないよね」

「いいえ、とてもタメになる感じがして良いわ。井上先輩の真骨頂というか…それにしても、こんなにたくさんの彼岸花はいつから咲くようになったのかしら。江戸時代とか?」

「公園ができてからだと思うよ。でも、きっと地元の川辺とか田んぼの畦道とかで、ずっと昔から咲いていたのを球根を分けて植えたんだと思う。あ、平成12年に曼珠沙華を植えたそうだ。幸手のHPに書いてある」

「そうなんだ… でも、それを考えた人素敵だな」

「そうだね、立方さん。ヒガンバナ…曼珠沙華は本当に息を呑むほどきれいだよ」

立方さんは、昔『曼珠沙華』と陰で呼ばれていたことを思い出しながら、井上の「息を呑むほどきれい」という言葉に頬を染めていた。

「ヤギの小屋も見てみませんか?」

曼珠沙華の浮世離れした世界を旅していたと思ったら、デート準備ネタを予定通りに振る井上。急に現実に戻された感じだが、ヤギを見るのも久しぶりだろう。

川辺にヤギ小屋があった。さすがにそこは彼岸花はなかった。小屋周りの草はヤギが食べるので、地面は土しか見えない。何かくれると思ったのかヤギが一頭近づいてきたが、何も持っていないことがわかったらすぐに仲間の所へ戻ってしまった。

「ヤギ、ちょっと触ってみたかったな」

「齧られるかもしれないから、触らないほうがいいと思うよ。残念だけどね」

心配してくれているのを感じて嬉しく思う。そしてヤギを見て、二人の故郷の山形の長閑な景色をふと思い出した。田んぼや畑が広がり、遠くには山並みが浮かぶ。帰国子女ではあったが、立方さんも幼少期は山形にいたそうだ。

「小さかった頃、近所にヤギ飼っている家があって、よく草とかあげてたのよ」

「僕も小学生の頃、ヤギが紙を食べるって本当かな…って食べさせようとしたことはあるけど『腹壊すからやめろ!』と叱られて…」

「井上先輩って、けっこうヤンチャな一面もあったんですね。うふふ」

ヤギもメェ〜と笑ったように鳴き、二人は笑いながらヤギ小屋を離れた。

「権現堂に行ってみますか?」

「そうね。お祭りやってるんでしょ?」

二人はまた彼岸花の咲き誇る真っ赤な道に戻った。浴衣姿の人たちもたくさんいる。立方さんは浴衣を着てデートしたかったな…なんて、ちょっと残念に思った。『隣を歩く井上先輩は、どう思っているんだろう』とも思った。心なしか、何か悩んでいるようにも見える。

「あの… 立方さん!」

不意に井上が呼びかけたのでビックリして立ち止まってしまった。

「な、なんですか?井上先輩…」

「権現堂で神様にお願いしようかと思っていたんだけど…もう、我慢できないや。それ、『井上先輩』は、卒業しませんか?僕も『タエさん』って呼んで… 手をつないでみたかったんだけど、なんかできなくて… 」

立方さんは曼珠沙華の花よりも真っ赤になりながら

「… はい。井上… 清敬きよたかさん」

答えて、そっと指を絡ませてきた。


[1954字] 大量オーバー😭

ショートショートじゃないやん😅
まぁ、井上と立方さんの恋は、幸手に行ってまた一歩前進した感じです。幸手に感謝☺️

#幸手権現堂秋祭り
#毎週ショートショートnote
#曼珠沙華は恋をする

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