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[小説]僕は僕を信じて生きていた 緊急入院編 episode 2

緊急入院編   episode 2

入院直後は誰しもが出口を探しまくる。全ての扉は開かないのに、ガチャガチャ、ここも開かない、ここも開かない。どこも開かない事に気付き完全閉鎖病棟だという事を知る。三日程探している奴もいた。僕は二日間探し諦めた。先輩方は彼を見ながら、
「やっぱり探すよね~」
と、ニヤニヤしながらみんなで一服中。その後彼は切れてしまい大暴れした。
即職員に取り押さえられ注射を肩に二発、崩れ落ち反省部屋へと閉じ込めらる。
その部屋には監視カメラまで完備されており、全ての状態が筒抜け状態。
そんな事とはつゆ知れず彼は、
「出せ!このやろう!出たら覚えておけよ!!!」
と、所構わず叩きまくっているのが廊下に響きわたる。暫くするとろれつも回らなくなりお寝んね。数日後、反省部屋から出て来た。
「数日前に入りました、わからない事だらけで心配です。色々と宜しくお願い致します」
「や~だね~~~」
「な~んつって!冗談だよ」
「そうそう大丈夫だよ!初めはみんな同じだったらから」
「俺なんか、鍵壊してしまったんだな~」
と、怪物君。
「お前は異常!ガチャガチャしすぎだっただろ~、鍵を壊したと言うか扉のノブ取っちゃったろ~」
「あれはマジでありえねーよ、初めて見たぜ」
皆でシッシッシッシッと肩を揺らして苦笑!(身長一九五センチ・体重一二〇キロの馬鹿力。こいつを止める事が出来るのは、看護師でもなく注射でもなく、大先輩の一言『やめておけ!』だけ・・・)
 昼間が兎に角暇でしょうがない。そいつは、毎日の様に強い眠剤を確保していた。わからない事だらけで心配だなんて嘘だった。
口に含んだら、舌で転がし舌の下に隠して水を飲む、口を開いて確認してもらう。部屋に戻り口から戻し、大事に保管。持ち物検査が抜き打ちで行わられる為、ヘッドホンのカバーを外し隠していた。昼間に飲んで爆睡したり、ジュースやタバコと物々交換。後から聞くと、ドラックで三回目らしい。だったら何故反省部屋に・・・絶好調だったんだろう。
 起床と同時にナースステーションに行き、あらかじめ置いといてもらっているタバコをいただく。
「おはようございます、今日のタバコ下さい」タバコは一日一箱と決められていて、箱のフィルム部分に名前を書かれてしまう。お金は一日三〇〇円渡され、紙パックコーヒー三杯で終了。(紙パックにも意味があった)何なんだ!でも、どうする事も出来ない・・・戸惑いばかりが先走る。
 僕の主治医は女性の方で、ミニスカートに白衣(エロさ満載)足なんか組んじゃって、確実に、自分綺麗でしょうオーラ全開。が、しかし全くもってタイプではなく決して目を合わせない様にしていた。(あそこまで行くと逆にかわいそう)
この先暫く付き合うと思うとテンション下がる一方で、信頼出来ないなどと適当な理由でチェンジを申し出たが軽くお断りされた。
「私以外みんな男性よ、女性の方がいいでしょ」
よっぽど、自分に自信があるんだろう。先が思いやられ、この先めんどくせ~と・・・
 まぁ、兎に角暇!パカスカと吸ってしまう。夜、夜中の分も確保しておかなければと思いながらも、我慢できずにパカスカパカスカ。一日一箱は少ない!さてどうする?ピキーン!閃いた。二週間ほどたったある日、弟が面会に来てくれた。
 部屋で転がっていると、
「後藤さん、ご家族の方が面会に来ています。ナースステーション迄おこし下さい」
 ナースステーションでは、身体検査され面会室へ。実行する時が来た、まず服装、パーカーかフード付きのダウンジャケット。今までの箱は取っておいてあり、面会直前にフィルムを引き抜き箱は捨てる。(なるでくフィルムの形を維持するため)あらかあじめ面会に来るとき、七箱持って来てとお願いしてあるので、名前の書いてあるフィルムだけを七枚フードに忍ばせ検問突破。フィルムなのでかさばらず怪しまれない。
「持って来てくれた?」
「はいよ」
 マジで助かります!などと小声で言いながら、新品のフィルムを全て剥がし、忍ばせて来た名前入りのフィルムと差し替える。このフィルムがなかなかスムーズに入ってくれずに、世間話をしながら机の下で作業中。終了後、満タン七箱名前入りをフードに忍ばせ検問へ。
「ありがとうな!」(次は、両手を使って一〇箱と伝えた)
 再び身体検査、さすがに不自然に思ったのか、フードの中を覗かれてしまう。
「どうしたの、こんなにたくさん」
「貯タバコです」
 何も言えるはずがない、全て、筆跡も同じフィルムタバコですから・・・この方法ができる様になってから、タバコには困らなくなった。
さて、コーヒはどうする?簡単だった。お金持ち(貯金王に、タバコ四、五本譲って買ってもらう。
(自分で買うと、なんで買えるの?と疑われる為で兎に角監視の眼が厳しい)
 彼はお金を、僕はタバコを・・・あいつは眠剤を、彼奴からは笑いを、中は中なりに、助け合い上手く回っている。落ち込んでいる奴がいたら励まし、テンションが高いと落ち着けと言い合い。
 一ヶ月程経った、いつ退院出来るんだと電話してみた。
「いつ頃出れる?」
「ちょっと、はっきりしていないんだよ」
 納得がいかずに、長電話。日に何度も連絡っするようになった。
「最近電話しすぎですよ!このままだと、通信制限かけますよ」
何だ通信制限て?大先輩に聞くと(電話するのを禁止する事)
「あ~、そこまで行ったか」と・・・
家族や友人との生命線を絶たれるのかと思いブチ切れてしまった。
「お~上等だ、やってみろや!そんな事したら絶対許さない」
と、ナースステーションの強化ガラスをぶん殴り痛くて後悔。
「何やってんだよ~~~」
みんな一服しながら大爆笑!
「強化ガラスだって教えたじゃんかぁ」
みんなの顔を見て自分も大爆笑。救われた・・・
 ある日の昼下がり相部屋の剛くんが、泡を吹いて寝ていた。(カニみたいに)
心配になり、看護師を呼んだ。看護師は直ぐさま駆け付け、体を思いっきり揺すりながら、
「起きて下さい!大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
みんな集まって来て、必死に呼びかける。
「剛くん、剛くん!」
「おい!剛」
ようやく起きたと思ったらキョトンとした顔で、
「どうしたの?みんなして」
「いやいや!泡吹いて寝てたから~・・・」
「ごめん、たまに吹いてるらしいんだよね~」
「はぁ、マジかよ!」(看護師含め大爆笑)
 その後、数日はそのネタで大笑いしストレス発散。ストレス発散と言えば、六時半からのラジオ体操で飛び跳ねる事。みんなで思いっきり、ぴょんぴょんと虫の様に跳ねまくり、はたから見たら異様な光景。
廊下を早歩きしてるだけで、ちょっと落ち着きなさいなどと言われるが、ラジオ体操だけは一切言われなかった。
 兎に角跳ねまくる(ヒャッホ~)閉じ込められている身にもなれってんだ。まあ、お前ら君達には一生分からない、分かってもらおうとも思っていないど・・・
 数日後、重度の潔癖症を患った少年が入って来た。どうやら自分の部屋のドアノブさえも触れないみたいで看護師に、
「徹底的に除菌していただけますか!」
「もう、しっかり除菌済みだよ。誰も触れさせてないから大丈夫」
それでも信用できないのか、袖で手を包みやっとの思いで部屋へと入っていった。しばらく出てこなかった、出てこれなかったんだろう・・・ご飯も、特別に運ばれていた。
 一服中に大先輩が(四二歳、七年目)
「あの少年、なんとかしてあげたいよな~」
みんな同じ気持ちだった。
「部屋から出てきたらとりあえずからかってみようぜ」
「そうだな」
「自己紹介して、握手を求めるとか・・・」
「それいいね!」
いいわけない!少年にとっては地獄そのもの。
「おい!出てきたぞ」
みんなして一列になり自己紹介をと整列・・・軽く無視されて作戦終了。
「ダメだな!みんなで行ったからそれは引いて当然か・・・」
「やっぱり、個人プレイでやろう!誰が一番早く握手出来るか」
 ひどい人達と思うかもしれないが・・・・みんな真剣だった。少年の笑った顔が見たい一心、しかし、どうにもこうにも空回りしてしまう。年が離れているから、共通の話題も中々見当たらない。そっとしていた方がいいのか?・・・
いや、入院したばかり先は長い、早く打ち解けた方がいいに決まってる。
みんな同じ気持ち・・・夜中最終の巡回が終わった後、集まり作戦会議を繰り返す毎日。結果、とりあえずみんな目すら合わせない様(決して無視ではなく)にしてみようと言う事に全会一致。(個々に辛い入院生活なのに、この人達は何であれ程までに笑えているのかと興味を持ってもらえれば自然と少年からと・・・)
そこに賭けた。
 次の日から計画実行され三週間程経ったある日の事、朝一タバコを頂きにナースステーションに行き喫煙所へ・・・(売るほどあるけど、更に貯める為)
 !!!、?戸惑ってしまった。タバコを吸わない少年が牛乳を飲んでいた。
おはようの言葉も言えず、とりあえず一服、二服、三服、吸いすぎで気持ち悪くなってきた。そろそろラジオ体操の時間だ!と待っていると、
 少年が直視して、(目力はんぱねー)
「僕もここにいてもいいですか?」
コイツ本気だ!ここぞとばかりに、
「好きにしたらいいんじゃない!誰の場所でもない、みんなの場所だよ」
 少しだけ、ほんの少しだけうるうるして見えた。その日を境に、少年は度々喫煙所に顔を出す様になったが少年からは決して話す事はなく、ただただ、みんなの馬鹿話を聞いているだけの日々が続いてた。
 ある日の事、
「ご挨拶が大変遅くなり申し訳ありませんでした!
よろしくお願い致します。すみません・・・個人情報は決して明らかにするなと、看護師にキツく言われているので控えさせて頂きます。こんな僕で本当にすみません・・・」
「みんな同じだよ」
(イヤイヤ!みんなは個人情報出しまくり、そこまではいいよ!と思う程に)
「気にすんなよ!」
「何だよそれよ~」・・・
「仲良くやって行こうな~」
「大丈夫だ、みんな君を待っていたんだよ」
「ようこそクズの集いへ」
どさくさに紛れて、ハイタッチを狙ったが、流石!軽くかわされみんな半笑い。
 一一八歩の散歩道、すれ違う時はほぼほぼハイタッチ。未だに少年とは誰も出来ずにいた。三日に一回の入浴、気の合う仲間で浴槽に一気に入り込み、溢れるのを楽しんでいると、
「入りまーす」
我々が入っている時は、誰も入って来ないのに・・・
「おっ!珍しいな」
「どうぞ~~~」
!!!?開いた口が塞がらない・・・
そこには、立派な物を携えた少年が!
「えっ!お前大丈夫なの!」
「はい!入浴だけは何故か大丈夫なんです。自分でも不思議で・・・」
「お前さ~!何で早く言わないの!!!」
「すみません」
「すみません?謝って済むんなら警察いらねーんだよ!」
ん?どこかで聞いた様な・・・
 一気に心打ち解け、ハイタッチを試みたが、撃沈。風呂が良くてハイタッチがだめってどう言う事?不思議でしょうがなかった。みんなで背中を流しあって、クズ達は満足感に溢れかえっていた。
 二ヶ月後、相部屋の剛くんが退院。朝食後、みんなに挨拶をと呼び出せれた。
「ここでの出会いは一生忘れません!こんなクズと仲良くしてくれて心から感謝してます。泡吹いて寝ていた事はココだけにしておいて下さい」
「いやいや!無理に決まってんじゃん」と、笑いながら・・・
 みんなは、今だ!今しかないと、必死で剛くんに目で合図。届いた!剛くんが手汗を吹き始めたと思った次の瞬間!少年からハイタッチを求めた。剛くんは更に手汗を拭きハイタッチ。朝から、みんなで声をあげて号泣。結果、剛くんの退院は一〇時のはずが一一時半になってしまっていた。
「お迎えの人が・・・」
外を見ると、黒塗りの車が一〇数台! まさか剛くんのお迎え・・・
「待たせておけばいいよ!今、それどころじゃねーんだ」
『みんなに最高の笑いを!ありがとう・・・』
「退院おめでとう!」
一一八歩の空間に響きわたった。
 外出許可がでいる奴が散歩から戻ると、
「剛くんの退院今日だったんだ~、さっきすれ違ったよ。多分親父さんかな、作業服でねじり鉢巻に足袋。剛くんとママチャリ二ケツで裏門から出て行ったよ」
よかった、やっぱり植木職人だったんだ。完全に僕達の勘違いだった・・・
最後の最後まで笑いをありがとう!
 看護師に、
「そろそろ退院出来ますか?」
「いや、まだみたいだな~・・・しょうがない!主治医しか決定出来ないじゃん・・・俺だってよ~お前らの事を考え早く退院してくれ!と思ってる。
そういえば、社会復帰に向けて、ここには色々な更生カリキュラムが有る事知ってるか?君も、そろそろ申請出してみたら」
 早速申請をかけてみると、五日後になんとか申請が下り、以前から興味があった革細工を選んだ。ようやく、ここからほんの五〇分だけだけど出れると思うと、
涙が出るほど嬉しかった。
 前日の夜、舌の裏に隠す事なく眠剤を飲み備えた。一〇時になると、名前を呼ばれナースステーションの前に、との放送がありテンションを押し殺して行くと、
「では、私に付いて来て下さい」
 開かずの扉が自分の為に開かれる。(マジで感激)久しぶりに階段を降りて行く、私に付いて来て下さいの意味がようやく解った。降りたと思ったら、左の扉をあけ階段を登り右の扉を開ける、しばらく直進、これまた重厚な扉、開かれると更に下りの階段、降りるとエレベーターが、見ると階数の表記は無く上下のボタンしか・・・上のボタンを押した。階段の長さもまちまちで、自分が何階にいるなどとは解るはずもなく迷路のような薄暗く冷え切った廊下を進むとまた階段、登って行くと、先ほどから開かれていた扉とはまったく異なり錆びきったトタン製のドアが・・・キッキキキーーっと開かれると、そこにはどんよりした眼付きの人が数名と、革細工や粋なリングなどをフル装備したアメリカン満載の娘!
 当然、その娘が先生だと期待を膨らませていると、なんと患者さんだった。
紹介されると、先生は一番奥に座っていたどんよりした眼の若者見たいだ。『おいおい、逆じゃね?』ツッコミたくなったがとても言える状況ではない。眼もどんよりなら空気もどんよりで、『病棟より更にやばい空間じゃね!』
決して和かにやっている様には感じられなかった。
 すると先生がボソッと一言、
「カリキュラム、初めてですよね・・・」
「はぁ?知ってて言ってんだろが、初めてだよ!大体お前の顔が気に入らねぇ!」
 迷路の様な道のりにイライラして、期待を膨らまして来たらこれかよと思い、ついつい本音が出てしまった、
「あ~あ、ダメですよ~切れちゃ」
「お前!何様だよ!見下してんのか?ぶっ飛ばすよ!エ~コラ!」
「いいのかな~?せっかく申請降りたのにね~。どうする?今直ぐにこの手を話してくれたら内緒にしてあげてもいいんだけどね~?」
「はあ~?離す訳ねぇだろうが!」
 みんなに約束したのに破ってしまった。一一八歩の空間の中、更に三歩足らずの反省部屋、(三歩×大人の平均歩幅〇・八M=約二・四M)さすがにシンドイ空間。自分がしてしまった事と、ひたすらに言い聞かせる。
『いい事とすれば、飯を持って来てくれるし?・・・そのくらいか・・・』
好きな音楽さえも聴けず、いつ解放されるのかと孤独との戦い。脱走しようと筋トレまで始めた。途轍もなく悔しい思いに、毛布で全身を覆い枕に顔を埋め声を殺して泣いた。
 この時から、キレても何にもいいことなんかないと悟り、大概の事では怒らなくなった。
 解放されたのは、一四日後の夕食前、早速、貯タバコを持ち喫煙所に行くと、
相変わらずの仲間達が
「そこそこ長かったな!お疲れさん」
みんなが労いの声をかけてくれる。と、少年が一言。
「待っていましたよ!タイミングよく風呂の日です、みんなで背中流しあいましょうよ!不潔ですみませんが、みんな風呂入らずに待っていたんです」
「はぁ!一四日も?」
 泣かされた。
「少年!飯より風呂が先だ、悪いんだけどもう冷めてるだろうから、こっそり入れ直してきてくれ!見つかったらマズいけどな・・・」
「当然です!でも入れ直すなんて大丈夫ですか」
「大丈夫、適当にカバーしておくから」
「本当ですか~この人達信用できないからなぁ」
「いい加減、信用しろ!クソガキが」
 少年が行っている間に、
「とりあえず、飯行こう!」
「だな!飯飯」
「少年は?」
「何処に行ったかなんて分かるでしょ」
「だよね~~~」
「ここは、一一八歩だしな!」
少年が真っ赤な顔をして食堂に駆け込んできた。
「も~~~やっぱり信用できない!ほっ本当に貴方達はクズです!いや!もしかしたらクズにすらなれないですよ!」
「まぁまぁ、そうカッカすんなよ」
「早く食って入ろうぜ!」
 満タンの浴槽に大の大人、『いっせ~の、せえ!』のと飛び込みたいが、さすがの俺達クズもお湯が無くなるのを分かっている。三人ずつ順番にそーっと浴槽へ入りみんなで背中を流し合い最高の入浴タイムだった。
 次の日の朝、いつもの場所に行くと早朝なのに珍しく大先輩が一服中。
「お前さ~試されていたんだよ、切れずに堪えられるか!ってな、
その先にはよ~・・・まあ自分で探すしかないんだけど、ここで一曲」
「探し物は何ですか~見つけにくい者(物)ですか~」
(ジャイアン並みに大音痴)
 どういう事?その先って・・・意を決して今一度申請を出してみた。申請が降りたのは二〇日後、同じ道を行きトタン製のドアを開けると、やっぱり同じ光景が待っていた。
 彼の娘が、
「ダメだよ~トラップに引っかかちゃ~」
「先生、あの時は大変申し訳ありませんでした・・・」
「いやいや、気にしないでくださいよ~実は、主治医からやってくれと頼まれていたんです。結構辛いんですよ!こんな事、僕だってやりたくないですよ~逆の立場になって考えると耐えられる自信がありません」
「あのさぁ、大先輩が切れずに堪えていれば、その先には・・・まぁ自分で探しな、なんて言っていたんですけど、どういう事ですかね?」
「君も大変な思いをしたよね!本当はもう少し先だったんだけど、特別にお見せしましょう」
 全ての窓がブラインドで覆われている部屋。先生が解放と書かれているボタンを押すと、少しずつ光が入ってきて、どんどん明るくなって行く・・・
 なんと、ここは屋上!
そこには、樹々・草花・小川、滝までもが創られている素晴らしい庭園が広がっていた・・・気分爽快なんてもんじゃない。完全に言葉を失い、しばらく見とれてしまった。
「どう?終了一〇分前に開けるんだよ、皆んなこれが楽しみで来ているんだ、一回目で嫌になってしまうと当然この景色は見れないですけど・・・ここでの事は、誰にも言ってはダメですよ!一回目で篩に掛けているんです・・・」
(精神的に強くなっているか)心底良かったと思った。
 実際の所何人位が体験できているのかは謎のまま退院するのだろう。決して言えないのだから・・・
 しかし彼の娘は、何故フル装備出来ているのだろうと思い聞く事にした。
(ここは、基本サンダル、もしくは紐なしの靴でベルトも禁止、イヤホン禁止)
「何でフル装備で来ているの?」
「やっぱ~、思うよね!実はね~ここだけ許されているの~他の先生や看護師は知らないんだけど、せっかく一生懸命作った物だからって先生が極秘で許してくれているの~最高でしょ!抱きついちゃったよ~」
 先生が羨ましくてしょうがなかった。いつか僕も抱き着かれて見たい。
容姿端麗めちゃくちゃタイプ、兎に角一番最初にあった日から気になってしょうがなかった。実は二度目にチャレンジしたのも、その娘に会いたい一心で、ムカついている心を押し殺し申請をかけた。本当に、男は単純だと気が付かされた。
(自分もここまで単純だったとは一人でニヤニヤしてしまった。まるで不審者!
 週一回のカリキュラムが本当に待ちどうしく、少しずつ道が開けている様に感じていた。
「探し物は見つかったか?」
「はい!」
 一番最初に作ったのは、鹿革で首からぶら下げるお守り入れ、次に牛革で長財布といった様に色々な物を作り、同じ様に身につける。いい趣味が出来たと、彼の娘に感謝。
 C棟の三階(C三)男性のみ、彼の娘はC二(女性のみ)だった。C棟に居る人は重度患者、そんな風には見えなかったが、いつも笑顔が絶えない娘が時より見せる凄く悲しそうな眼が気になっていた。
 一ヶ月程経った日の事。(台風二一号上陸)
「ごめんストレートに聞いちゃうけど、何でここにいるの?」
「ん~・・・双極性感受障害みたいなんだ~、要は躁鬱って事」
「へぇ!同じだね、俺もなんだよ奇遇だね」
驚きを押し殺した。奇遇だなんて、本当はこの場で使う言葉じゃないはずなのに・・・学が無いとは恐ろしい事だ。まさか同じ苦しみを味わっているとは、本当に微塵も感じられなかった。
『凄くいい笑顔の裏側には・・・逆を言えば、物凄く悲しそうな顔の裏側には・・・辛く、しんどく、悲しい経験もせず馬鹿笑いなんて出来るはずがない。
逃げているから心底笑えない。そんな馬鹿笑いを見て、本当にうるさいな!馬鹿みたいなどと言う。可哀想に、おそらく一生分からないはず・・・分かろうとも思っていないだろうが・・・本当のおバカさんは・・・僕はこちら側に居れて本当に良かったと思う。全てなどとは決して言う事は出来ないが・・・ほんの少しほんの少しだけでも、人の痛み苦しみを分かち合うことが出来るようになって・・・』
 残念ながらそれ以上会話が弾まず、久しぶりにドシャ降りの雨音を聞きカリキュラム終了。きっと、つまらない奴と思われたに違いない。
『ん~・・・以前に何処かで逢っている様な気がするんだよなぁ』
 次こそは色々な話をと、少年相手にシュミレーションを繰り返す日々。けれども全く評価されず、少年に突っ込まれまくって心が折れそうになっていると、
「俺が教えてやるよ」
と、大先輩。
「いやいや、無理無理ありえませんよーだって、恋愛経験ゼロに等しいって言ってたじゃ無いですか!」
「大~~丈夫だよイメージは完璧、任せておけって!」
 とっても失礼な話だが、大先輩は女性未経験者、プロすらもだ!そんなお方がシュミレーションなんて出来る訳が無い、緊張で噛みまくって終了が関の山。
「だから言ったじゃ無いですか~」
 予想的中、これが女性だったらと思うと・・・そういう事になりますよね~なんて、口が裂けても言えない。が、しかし大先輩の今後を思い意を決して。
「地元の店なんですけど、中々評判いいですよ!案内所でもベストテン入りの優良店、ここを出たら是非!行ってみてください」
と、プロを紹介。大先輩が手を差し出し、熱い握手を交わし骨が折れそうになり、
どれだけ喜んでくれたかは痛みと比例だと信じたい。
「でもよー・・・まあ、いいや・・・」
珍しく俯き悲しい顔を見せた。
 相変わらず、毎朝ぴょんぴょん跳ねまくっている。大きなミジンコ、小さいミジンコ。
「後藤竜士さん、診察です。ナースステーションにお越しください」
『放送なしで聞こえる距離だろうが!』
 エロ先生が、
「大分落ち着いてきたようね!外出許可申請を出していいわよ、すぐに通る様にしておくわ!もう少しよ頑張りましょうね」
 ヤバイ、すぐに通る様にのたった一言で女神に見えてしまった。綺麗にも見えてしまった。
 この際、どの様に見えてもしまっても関係ない!診察終了後すぐに申請をし、その時を待ち望んだ。時間が経つのが果てし無く永く感じ辛い夜を迎えた。
 ふとあの時を思い出した。
日付の感覚がおかしくなっていた時の事を・・・それだ!あの感覚をと、タバコと交換。
 真夜中大先輩を起こし質問すると、
「五錠=二日だな!それ以上は危険だ、起きた後も、しばらく体が重いぞ」
いつに無く真剣な表情で教えてくれた。
 兎に角、待ち遠しくて仕方がなく彼女に早く会いたい一心だった。二日後の夜に目が覚め、後は朝を迎え結果を聞くだけだ!爆睡し続けている間は大先輩の指導の下に、みんなで色々とカバーしてくれていた。
 いつもより早くいつもの場所に行くと、待ってくれていたのか既に少年が!
「大丈夫ですよ」
危なく、また泣かされるところだった。
 日課のぴょんぴょんをこなして、朝食をささっといただきナースステーションへ
「外出許可はどうなりましたか?」
「ちょっと待ってね・・・はい!許可出てますよ」
本当は、ぴょんぴょん飛び跳ねたかったがグッと堪え、
「ありがとうございます!」
「このフロアーを出る時は、この用紙に時間と場所を記入し提出して下さい。時間になったら、この扉の前でお待ちください。道案内致しますので・・・」
「頑張った結果だな!俺も嬉しいよ」
 彼に対しては完全に勘違いしていた。
彼は患者の事を真剣に助けたいと思ってくれていて、罵声を浴びせられたり手足を出されても、グッと堪え接してくれていて、本当に大変な仕事だと痛感した。と同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
八月三〇日
一五時~一七時
場所
中庭
一四時三〇分早過るのは分かっていたが、如何にもこうにも待ち切れず扉の前へ・・・
「おいおい~!一五時からだろ、早すぎ」
「そうですよ!まだ時間ありますよ~一服した方がいいんじゃないですか~」
「落ち着きがありませんな~、気持ちは分からんでもないがな~・・・ちょっと面白い話をしてやるとするか」
 みんな驚いた!なんと、そこには爺さんが立っていた。
「いつから入っているんですか?」
「そうよの~・・・一〇年位経つかの~」
「どこにいたんですか?」
「特別室じゃよ。誰もしらんかもしれんがナースステーションの奥で、扉はないが面会室の隣じゃ。更に重度の人が入る所がるんじゃよ、今は私含三人じゃな」
 そこは通称 ’C三 と呼ばれているらしい。
「今日は、昼間C三に出れる申請が通ったので久しぶりに出てみたのじゃ」
「久しぶりって、どの位ですか?」
「そんなでもないな~、三ヶ月位か?・・・」
「だって、昼間は皆んないるじゃないですか~」
「そうじゃあ~、皆に合わない様、基本早朝だからの~ただただ廊下を歩きたいだけなんじゃよ~」
「俺らも結構早起きですよ!何時頃なんですか?」
「いやいや、大先輩は遅いじゃないですか~」
「そうよの~・・・三時位かの~」
「はや!」
「さすが、ジジイ」
「おい、言葉使いに気をつけろ!失礼だろうが」
「大丈夫じゃよ、もう怒る歳ではないからの~」
 皆んなの予想でおそらく七〇歳位となっていた。
「昔はイケイケじゃったよ・・・二〇歳の時に建設会社を立ち上げ、がむしゃらに寝る間も惜しんで仕事したものじゃ。その努力が認められたのか、今じゃ日本で五本の指に入る大きな会社に成長したのじゃ。六〇歳で会長を退いたんじゃが、途端にポッカリ穴が空いたみたいになり鬱病になってしまったのじゃよ・・・。仕事をしていた方が良かったのじゃろ~。趣味みたいになっていたからの~。時間が有り余ったせいか、色々な事を考えたさ~・・・。まあの~、大概の事がくだらなくも有り、くだらない事が素晴らしい事だったりの~未だに分からない事だらけじゃよ・・・」
 と、一瞬例えようのない空気間を感じた。
「アドバイスをしよう。よく聞きなさい!決して焦る事なんかないんじゃよ。
全てはそこから逃げないのだから・・・万が一、逃げてしまったと言う事は、誰の責任でもなく全て己の責任じゃ。決して人様のせいにしてはならんぞ!焦って追いかけると、大概の事が去って行ってしまうぞ。でも大丈夫じゃ!自分含め周の存在に感謝し日々を歩んで行く事じゃよ。さすれば、必ずや追い着くのじゃ。追い着いたと同時に去って行く事も有るがの~人生とはそんなものでも有り、そこが一番難しくも有る・・・はい!今日はここまでとしよう・・・これ以上もないがの~、そろそろ時間じゃ。分かったな、全ての出逢いを大切にするのじゃぞ!」


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