[小説]僕は僕を信じて生きていた 小学生編episode 2
小学生編 episode 2
ここまで来たらトコトン翔子ちゃんをかばい切らないと男じゃ無い?
僕は意を決した。何食わぬ顔でモップ掛けし、更に雑巾で乾拭きまでやり遂げた。この場に翔子ちゃんが居ない事がせめてもの救いだった。その後、翔子ちゃんには目すら合わせてもらえずの毎日が過ぎて行った。自分に言い聞かせた。大好きなマドンナ翔子ちゃんに無視されてしまおうとも、あの時自分がとった行動は、決して無駄では無いと信じ日々を過ごしていた。のちのテストで本当に最終問題として出ていた。忘れるはずがなかった。そのテストでは最終問題のみ正解で、五点の答案用紙をうなだれながら自宅へと持ち帰った。お母さんの反応はと言うとどう言う訳か、
「さすが私の子ね!今日は大好きなミートソーススパゲッティーを作ってあげる!」なんだかよく分からないけど結果オーライみたい?ヘベレケに酔っ払って帰って来たお父さんにも褒められ、頭の中は???で埋め尽くされた。
あっという間に五年生になりクラス変え。学年一番のいじめっ子で評判の慎二と同じクラスになった。
ある日の放課後の事だ。天気予報は午後三時より雷を伴う大雨警報。そんな日に限って、いじめっ子慎二がありえない発言。
「みんなで校庭のバスケットゴールのリングから飛び降りようぜー!」
なんて言い始める。何時もの事。慎二は自分が出来ることしか言わない。それはそうと、低学年の時から疑問だったのが校庭のバスケットゴールは体育館とは違い、どう見ても大人が使う物だった。まさに、その大人用の高さから度胸試し。
以前、シゲは高所恐怖症言っていた。確か遠藤も?と、遠藤の顔を伺うと全く浮かない顔つき。遠藤は、
「マジで~~~、面倒くせ~!」
シゲは、
「高すぎるよ~、無理無理マジで無理だから~」
自分は、声すら出せなかった。
「なんだよ君達~!根性ね~な!じゃあ、私が根性ある所をお見せ致しましょう!」
慎二はあっという間にリングまでよじ登り、
「三・二・一・とりゃ!」
威勢のいい掛け声とともに飛び降りた。着地したと同時だった。
「イッテーーー~・・・」
慎二はその場でうずくまってしまった。
「何々どうしたの?」
見ると慎二の口から少量の血が出でいた。着地した時膝で顎を強打し、その勢いで口の中を噛んでしまったみたいだった。二人共心配そうに『大丈夫?』などと声をかける。本当に心配しているのかと思い二人の顔をうががうと、俯きながら痛がっている慎二を見下ろしながらシゲはニヤニヤしていたけれども、何故か遠藤は睨みつけていた。ざま~みろ!と思われてもしょうがない。慎二は、みんなの事をいつも声を出して笑っていたからだ。それが自分に返って来ただけ。まあ慎二には一生わからない。何故って相手の気持ちになって考えた事がないはず。しばらく慎二は痛みに耐えていた。ようやく痛みが治まったのか校庭中に聞こえる様な声で、
「次は、シゲの番だぜ!お~~~い!そこの低学年達も一緒に見守ろうぜ~!」
一気に一〇数名が集まって来た。シゲは慎二が失敗したところを見たもんだからかなりびびっている様に見えた。数分経過。シゲは本当に嫌そうな顔をしながらよじ登った。すると慎二は相変わらずの口調で、
「シ~ゲシゲ?本当思った以上に高いだろ~!」
慎二が、恐怖心を煽るもんだから、シゲは本当に嫌そうな顔をしていた。そんな事はお構えなしに慎二のカウントダウン。
「一・二・三・四!」
シゲは動けなかった。
「相変わらずシゲは根性ねえな!」
珍しくシゲが慎二に、
「自分のタイミングでやらしてよ・・・。しかもカウント逆だし・・・」
「えっ?何お前!」
数秒の沈黙。
「はいはい、分かりました~、お好きなタイミングでどうぞ~~」
相変わらず慎二の馬鹿にした言い方。一〇分程経過した時だった。シゲの表情が一変し、掛け声もなく飛び降りた。
着地成功。
「シゲ高所恐怖症じゃなかったっけ?やれば出来るじゃん!」
やっぱり僕達にわざとやらしていた事が分かった。慎二の顔を伺うと悔さが顔に滲み出ていた。遠藤はさておき、シゲは思ったに違いない。『お前がやらしてるんじゃん。しかも、お前と違って血なんか出てないけどね~』と。
遠藤の番になった。遠藤は慎二の右腕、言いたい事をガンガン言える。僕はちょっと羨ましかった。シゲもそうだったはず。
「なんだよ~俺も飛ぶのかよ。面倒くせ~な!」
と言いながらも軽く飛んで見せた。ついに僕の番になってしまった。辺りは真っ黒な雲で覆われ今にも降り出しそうだ。
「竜士には厳しいだろうな」
慎二のおちょくった言い方にマジでムカついた。『やってやるよ!』体を奮いたたせながらゴールまで登りリングに足をかけた。遠藤みたいにサクッと飛ぶイメージは出来ていた。ところが全く体が動かない。そのまま四〇分経ってしまった。
「竜士~!こんな土砂降りの中いい加減待てねよ!皆んな、帰ろうぜえ~。本当に根性なくて笑っちゃうよな~」
慎二は、半ば強引に二人を連れて帰ってしまった。強引にと信じたかった・・・。
僕が飛べたのは、みんなが見えなくなってからだった。
無数の大きな水溜りの校庭に思いっきり叫んだ。
「ばっきゃろ~~~!いつか見てろよ~~~!」
清々としながら何気なく正門に視線をずらした。最悪の状況で二度見。土砂降りでピンボケしながらも一目瞭然。なっ!なんとそこには翔子ちゃんの姿があった。目が合うと一瞬でソッポを向き足早に去って行ってしまった。悔しさと、なぜ翔子ちゃんが居たのか?その日はほとんど眠れない夜を過ごした。
次の日の朝、高熱で朦朧としながらいつもの集合場所に小走りで行くと何故か誰もいない。おかしいな?と思いながら登校すると、ん?・・・。既にみんな来ていた。
「あ~れ~?結構待ってたんだけど・・・」
そっぽを向き無視された。
「あっちに行こうぜ」
「そうだな行こうぜ~」
なんだよと思い他の人に、
「おはよう!」
何故か、これまた完全に無視。そう、なんとクラス皆んなで僕を無視していた。
目が合えばすぐにそらされた。翔子ちゃんとは反対隣でいつも優しかった詩織にすら机を離され給食の時間も一人ぽっち。帰り道も一人になってしまった。地獄の様な毎日が数ヶ月。辛すぎて耐えられず、半端なくしんどい毎日を過ごしていた。
そんなある日の事、転校生がやって来た。
「小林悟君です!みんな仲良くしてくださいね」
一人で究極に寂しかった僕は、友達になってもらおうと誰よりも先に声をかけた。
「悟君!どこに住んでるの?」
「〇〇ら辺だけど」
「そうなんだ近いね!一緒に帰らない」
更に、白い目で見られている事は全身で感じ取った。
帰り道、あまりにも辛かった事を意を決して話した。すると悟君は、
「なんだよそれ!マジでムカつくじゃん、俺が言ってやるよ!慎二って言ったっけ、そんな事やる奴は大した事ねーよ!」
悟君の一言。たった一言でブラックホールから脱出する事が出来たけど
その反面悟くんが心配になった。
「やめた方がいいよ!悟君も無視されるかもしれないし」
「あん?そんな事気にしてらんねぇよ!そうなったらなったらでいいじゃん!そんな友達いらね~し。いや、これマジで!」
とにかく悟君は嬉しかった。悟君と別れた後、嬉しさの余りに肩を震わせて泣いた。
それから悟君と毎日遊ぶようになり、悟も僕に色々な話をしてくれるようになった。
「実はさあ~俺も前の学校で全く同じ事やられた事があって、同じように転校生が来て、俺もそいつに相談したらさあ~俺が言ってやる!なんて言ってくれてさあ~マジで感激したんだよね」
「その後どうなったの」
「そいつマジで言ってくれてさあ~喧嘩になってぶっ飛ばしたんだよね、いや~本当すごい奴だな!って思ったよ。次の日から、今までの事が嘘のように変わったんだ~マジで笑ったね!俺もそいつみたいに強くなりたいと思ってんだ~」
だから僕の気持ちも分かってくれたんだ。その後、楽しい日々を過ごす事が出来るようになった。そんな小学校時代を過ごす事が出来たのも悟君のおかげだよ!本当にありがとうと心の内に秘めた。
そして僕は決めた。悟君みたいになる事を!
学校から自宅に帰るとお母さんも仕事の日でいなかった。台所の机の上にお菓子と珍しく手紙の様な封筒が置いてあった。封筒を開け中の手紙に目を通すと、
『竜士、お帰りなさい。あなたが理解するのは難しいかも知れないけど、お母さんからアドバイスがあるのよ。今は、途轍もなく辛く果てしなく続く暗闇の中にたった一人。でも大丈夫!約束する。必ず光は見えて来る。後はその君の光を全力で追いかけて行くだけ。難しい事なんてない。ただひたすらに光だけを見つめて・・・。辿り着いた処に広がっているのは、君を待ち続けていてくれた無数の光。君次第で更に広がり続ける。眼を凝らして見てごらん。ほら意外と近くに見えるはず、ってお母さんも教わった事があります。読めない感じは辞書で調べてね。言ってる事が分かったら少しは元気になるかもよ』
お母さんの手紙の内容をみて、僕ががいじめられている事を知ってたんだと思った。お母さんに口で言うのが恥ずかしくて僕も手紙を書いて、お父さんとお母さんの寝る部屋の化粧鏡の前にそっと忍ばせた。
『お母さんしんぱいしてくれてありがとうもうだいじょうぶだよ』
卒業式の後、何故か翔子ちゃんの友達、純子ちゃんから手紙を渡された。
「翔子が渡して!って。安心して中身は見てないから!」
最後の通学路を皆んなで歩く。一人一人と別れて行くうちに何だか切ない気持ちにさせられた。反面、早く皆んなと別れたいと思う自分もいた。ようやく?一人ぼっちになり翔子ちゃんからの手紙に目を通した。
そこにはたった一行。
『体育倉庫の裏で待ってるよ。来てくれるまで待ってるから』
え~~~!手紙を受け取ってからかなりの時間が経っていた。あたふたと走りやすくする為に全ての荷物を草むらに隠し、卒業式の日の為に買ってもらった上着すら脱ぎ捨て学校へと猛ダッシュした。上着を脱いで大正解。着く頃には汗でビッチョリになっていた。両膝に手を置き呼吸を整えていると、体育倉庫の裏からすすり泣く声が聞こえる。翔子ちゃんだった。
「ごめん、遅くなっちゃったね・・・」
「う~うん・・・。勝手に待ってただけだから・・・。竜士君と離れ離れになる前にどうしても伝えたい事が有って・・・。あっ間違えた。これを渡したくて。離れ離れになっちゃうけど、もし、もしね!いつか翔子の事を思い出してくれた時が有ったら、その時にこの封筒を開けて欲しいんだ~。思い出してくれたらの話なんだけどね~!涙をぬぐいながら駆け足で行ってしまった。翔子ちゃんからの封筒は僕のお気に入りの絵の裏へそっと忍ばせた。その後、悟君、慎二、シゲ、遠藤は別の中学校へ行くこととなった。
