「”ライバル”」第1話【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
あらすじ (295文字)
”ハンドボール”それは空中の格闘技と言われる。そんなスポーツの静岡県インターハイ予選で二人は出会った。名門駿河実業のエースで怪物と称された水沢、そして長年の低迷から復活の兆しを見せる古豪遠江の主将坂原が準々決勝で激突した。試合は大方の予想通り駿河実業が圧倒する。本気で打倒駿河実業を信じていた坂原はあまりの実力差に絶望する。これが彼にとって高校最後の試合となる一方で水沢は全国ベスト8まで勝ち進み明暗が分かれた。その後水沢はスポーツ推薦で強豪大学へ坂原は競技を離れて一般入試で大学に進学した。お互い別々の進路を歩み始めたがある日を境に全く交わるはずもなかった二人の運命の糸が再び絡み始める。
主要登場人物
・坂原一(さかはら はじめ)
今作の主人公、大学1年生であり遠江高校ハンドボール部元主将。ハンドボールに情熱を燃やす少年だったが水沢に敗北以降ハンドを辞めて冷めた言動をするようになる。大学入学後もだらけきった生活を送っていたが強引に連れて行かれたハンド部の練習を契機に徐々にかつての思いを取り戻していく。
・水沢尚一郎(みずさわ しょういちろう)
今作もう一人の主人公、坂原と同級生であり駿河実業高校のハンドボール部元主将兼エース。実力は折紙付きで高校時代は”静岡の怪物”と称された。しかし、大学入学以降周りのレベルの高さと体育会の厳しい上下関係などで思い悩みハンドボールの存在をいつしか足枷のように感じるようになっていた。
本編の紹介
今作は対照的な二人がハンドボールを通じて人生の意味を投げかける物語です。
情熱は誰よりもあったが圧倒的な才能の前に夢を打ち砕かれた坂原と情熱が伴わないまま県内最強の選手まで登り詰めた水沢。沖縄の小さな公立校である白桜大学の坂原と名門愛知体育大学に進学した水沢。絶望を思い知り一時はハンドすら辞めた男と名門に鳴り物入りで飛び込み怪物と言われた男。この時点では二人は一生関わることはないはずでした。しかし、大学時代に入り二人の境遇が変わるなかで運命の歯車は再び動き始めます。
スポーツがなぜ古代からずっと残り続けているのか、理屈では決して説明しきれないものが私にはあると思います。貴方にも学生の頃後先考えず必死になって練習に取り組んでいたそんな時期があったかもしれません。大人になると自分の可能性に限界を感じ諦めを覚える人もいるでしょう。大人になる=諦めるは心のどこかでは違うとは思いつつも甘んじて受け入れてしまっている人たちへこの作品は新しい熱と希望を届けます。
第1話 『俺が全てを失った日』
”ハンドボール”それは空中の格闘技と言われる。俺がそんなスポーツと出会ったのは高校生の時だった。
高校入学後偶然行ったハンドボール部の部活動見学で俺は完全に心を奪われた。
スピード感溢れるプレーとダイナミックなシュートに魅せられた。
静岡では高校からハンドボールを始める人も多いので全国も夢ではないと聞かされ心が躍ったのを覚えている。誰もが憧れる全国の夢舞台、ここなら現実にできるかもしれない。そんな期待を持って即座に入部を決めた。
あの日から夢への挑戦は始まった。
しかし、時間が過ぎるのはあっという間である。
気づけばもう最後の高校総体が始まっていた。
これが夢へのラストチャンス、俺は相当な意気込みでこの大会に臨んでいた。
* * *
試合3日前の練習
坂原「今度の試合、なんかOBの人めちゃ来るらしいよ。なんでそんな急に騒ぎ出すんだ?」
塩川「なんかベスト8すら20年ぶりらしいからね。そんでうちの部活歴史長いからOBも多いんだよ」
”遠江高校ハンドボール部”
県内で最も歴史の長いハンドボール部であり昔は何度も全国大会に出場した伝統校だが近年は低迷していた。
坂原「おいおいそんなこと言ってたら全国行きならとんでもないことになるな。」
それを聞いた部員の山田が少し冷めた目をしながらこう言った。
山田「全国?笑 相変わらず夢を見るね〜ここまで来れただけ十分だよ、俺は!
今更足掻いても無駄なんだし肩の力抜いて楽しくやろうぜ〜」
坂原「お前、無駄ってなんだよ!俺の目標は全国に行くことなんだよ!!」
山田「よくもまあ簡単に言うよな、現実みろよ、次の相手分かってんのか?」
坂原「なんだよ!それがどうした!!やる前から勝負を諦めんのか?相手も同じ高校生だろうがよ!!」
武藤「お前らやめろよ!負けたら終わりの試合前に小競り合いしてる場合じゃないだろ!」
副主将の武藤が止めに入った。こんな風に坂原は人一倍努力し実力もチーム屈指だがその情熱の大きさは他の部員との軋轢を生むものにもなっていた。
塩川「あいつ、やっぱり本気で全国行く気らしいな。」
津山「まあ、坂原だけならワンチャンあったかもな」
遠江高校ハンドボール部3年の5人の中で唯一坂原だけが3日後の準々決勝の勝利を全く疑っていなかった。しかし、他のメンバーがそうではないのには理由がある。その試合相手が駿河実業高校であるからだ。去年まで県総体を2年連続で優勝し今回も圧倒的優勝候補である。また1年生の頃から主軸として活躍する怪物水沢が最高学年となり過去最強とも言われている布陣だ。遠江高校3年生は今回初めて同校と対戦することになった。
そして、試合前日の練習終了後監督から選手に言葉が掛けられた。
「明日の相手はみんな知ってる通り駿河実業だ。作戦は昨日ミーティングで確認した通りだ。悔いのないようにとにかく全力でぶつかろう!」
「はい!!」選手一同声を出した。
そして、直後に主将の坂原が口を開く。
「明日の試合、俺は勝ちに行きます。それだけです。」
一瞬空気が気まずくなったが監督が明日の為にも早く帰ろうと一言かけその場は収まった。
* * *
翌日会場の体育館には大勢のOBが駆けつけていた。県8強とはいえ20年ぶりともなれば応援の数はかなりのものになっていた。
坂原「これだけの応援すごいな!ちょっとびっくりしてるよ!」
武藤「それだけ楽しみに待っててくれてたんだろ!ありがたいことだな」
坂原「これだけの声援があるんだ、絶対勝つぞ」
これに対して少し言葉に詰まりそうになった武藤だが
「ああ、そうだな」と軽い笑みを浮かべながら返した。
また少し距離が離れたところで他の3人が話していた。
津山「こんな環境で最後試合ができるなんて最高だわ」
塩川「おいおい、それ坂原の前で言うなよ?笑 怒られるぞー」
山田「あいつは良くも悪くもアホなんだよ、虚勢でもなく本気で実業に勝とうと思ってんだからさ」
津山「ま、結果はどうであれこの舞台を楽しもうぜ」
塩川「そうだな!あと山田も今日くらい本気出せよな?もうこんな舞台二度と味わえないかもしれいぜ!」
山田「はいはい、努力しますよー」
しばらくすると対戦校の駿河実業が会場に到着した。部員の数も45人いるらしく遠江高校の14人よりも遥かに多い。またそれに加え応援の数も遠江高校以上の数がいる。
津山「えーと、相手は20年ぶりのベスト8ではないですよね??」
武藤「何言ってんだ笑、むしろその20年間の間ずっとベスト8以上だろ?多分笑」
塩川「おい、あれが来たよ、怪物が」
”駿河実業の背番号3”同校のキャプテンの証でもあるものだがそれと同時に今年は絶対的エースでもある。
”水沢尚一郎”県内のハンドボール部員で彼を知らないものはいない。その圧倒的な実力と実績は県内のどの選手をも寄せ付けない。水沢が道を通ろうとするものなら人が勝手にはけていくほどのオーラを放っていた。普通ならその男に近寄ろうとする者はファンの女の子しかいない。しかし、それはこの男を除いての話だった。
なんと坂原は自ら水沢に近づいて話しかけに行ったのである。
塩川「おい!あいつ何考えてんだ!水沢のとこ行ってるぞ」
山田「もういいよ、どうなっても知らんわ〜」
坂原は第一声にこう発した
「あんたが水沢だろ?会えるのを楽しみにしてたぜ!!そして、悪いけど今日は倒させてもらう」
すると水沢は冷めた顔つきで「お前が誰かは知らんが口では何とでも言える。本気で勝てると思っているならもう少し考えてから発言した方がいい」と言い放った。
坂原「勝負ってのはやってみなきゃわかんねーだろ?あんたらが強いのは認める。だがなそれと今日の勝敗は全く関係ない、勝つのは俺だ」
水沢「わざわざこちらに来たと思えばそんなくだらない宣言をしに来たのか。ま、いいだろう。試合が始まればすぐわかる」
そこに慌てて武藤が走って向かってきた。
武藤「お前!馬鹿か!!何してんだよ! ほんとにこいつが失礼しました!すみません!」坂原の頭を叩いて水沢に謝罪した。そして、坂原を引っ張って自チームの待機場所に連れ戻した。
武藤「お前まさか水沢に喧嘩を売るようなこと言ってねーだろうな?」
坂原「そのまさかならどうする?」
武藤「はあ…もういいからおとなしくしといてくれ」
駿河実業側も変わり者の思わぬ来訪に少し騒がしくなっていた。
合田「さっきのやつ向こうのキャプテンらしいな、変な奴だな」
水沢「実力はどれほどか分からんが本気で勝つつもりらしい。顔を見る限り自信はあるようだがな」
北岡「ま、開始5分で黙らせてやろうぜ、そういう勘違い野郎はよ」
水沢「ああ、最初からそのつもりだ」
試合が始まろうとしていた。ハンドボール高校生は決勝を除いて試合は前後半25分ずつだ。(決勝は前後半30分になる。)
坂原「見せてやる、俺のこれまでの努力を」
他のメンバーはさておき少なくとも坂原は自信に満ち溢れていた。誰よりも練習し技術を磨き上げてきた自負があったからだ。
ピーーーーーッ!!
遠江高校のボールで試合が始まった。ハンドボールでは試合が始まって直後に最初の数十秒を使って握手をして挨拶をする伝統がある。
司令塔のポジションであるセンターの坂原はボールをキーパーに預けて中央の守備に付いていた水沢に握手をしに行った。
坂原「よろしくな、全力で行くから」
水沢「さっき言ったことを現実にしてみろ」
坂原「望むところだ」ニヤリと笑った。
挨拶が済んだところで遠江高校の最初の攻撃が始まった。駿河実業の守備は前には出てこない。坂原は自分のシュートはあまり警戒されてないとすぐに悟った。
坂原 (なめやがって…)
守備が圧力をかけてこないのですかさずジャンプシュートを中央から放った。
すると、そのシュートはゴール右端にまもなく吸い込まれた。
完璧なシュートだった。
わあああああああ!!!!!!大歓声が起こった。遠江側の応援団の割れんばかりの大歓声だった。
最初の得点は遠江に入った。遠江高校の選手達の誰もがこの瞬間だけは決められた運命に抗うことを期待したはずだ。
しかし、駿河実業は全く顔色を変えない。当然ハンドボールは得点がたくさん入るスポーツなため焦りはないだろうが不気味すぎるくらいの落ち着きである。
武藤(クソが…少しは動揺しろよ…アイツのシュートみて全くビビらないのコイツらが初めてだわ…)
続いて駿河実業の攻撃に入る。遠江からすればこちらの方が問題だった。攻撃は坂原を中心に喰らいつく算段があったがそれと同時に相手の県最強の攻撃を止める必要がある。当初の作戦通り守備を水沢の方に寄せて彼の動けるスペースを狭くさせることで対策を図った。しかしそれだけで抑えきれるのか、そんな疑問は確実にチームの中にあった。そして、その悪い予感はすぐに的中する。水沢がボールを持つとすぐに守備が前に出てプレッシャーをかける。ただそんなのはお構いなしで水沢はその場でジャンプしてシュートモーションに入った。誰が見ても強引なシュートにしか見えなかった。
坂原(よし!あんなん入るわけない)外れることを確信するのは当然だった。
しかし、放たれた球は周りの空間を止めるかのようにゴール左上に突き刺さった。
音は不思議と小さかったがそれは威力が低いことが理由ではないのは一目瞭然だった。
塩川「……今の本当に入ったのかよ?笑」驚きを通り越して笑いになっていた。
さっきの大歓声とは対照的にどよめきを含んだ沈黙が会場の空気を支配していた。
試合開始からわずか57秒………ただこの試合の結末がどのようなものになるのかを理解するにはあまりにも十分すぎる時間だった。
スコア上は1対1の同点 しかし、先程頭に一瞬よぎった勝利という二文字に対する淡い期待はもうこの時点で灰のように粉々になっていた。
これ以降時間が経つにつれてみるみる差は開いていった。こうして開始15分で11対3にまで差が広がった。監督がたまらずタイムアウトを要求する。もうこれ以上の点差が開けば逆転はほぼ絶望的となる。一人で3得点を挙げる孤軍奮闘状態に加えチームメイトの覇気の無さにフラストレーションが溜まっていた坂原はここで怒りを露わにする。
坂原「お前ら…まさかもう諦めてんのか?やる気がないなら交代しろよ!!!」
すると山田が反論する
山田「お前、いい加減にしろよ。一人でなに熱くなってんだ?」
坂原「あ?てめぇ、あんま俺のこと舐めんじゃねぇぞ!!!」
武藤、塩川「おい!やめろ!!」
坂原が山田の胸ぐらを掴み二人が揉み合いなるところを武藤や塩川が必死に止めに入る。
監督は深くため息をつき「二人とも落ち着きなさい。」と言った。
坂原「試合を諦めてるようなやつと一緒にするなよ!!」彼の怒りの感情は収まらない。
監督は再びため息をつき言葉を絞り出すかのように坂原に語りかけた。
監督「坂原くん、君の情熱は本物だし気持ちは分かる。だが頭まで熱くなるな。みんな手を抜いているように見えたか?」
坂原は言葉に詰まった、内心分かっていたのである。他のチームメイトも全力でやっていることを。しかし、水沢のプレイを目の当たりにして無意識に覇気がなくなっていた。
打開したくてもどうにもならないこの状況にろくにかける言葉も見つからないままタイムの時間は終わってしまった。最後に監督から激励の言葉が飛ぶがあまり意味をなしているようには見えなかった。
しかしここで相手が驚きの行動に出る。水沢がベンチに下がったのである。ハンドボールは選手の入れ替えが何度でも自由なためいつでも戻って来れはするが早くも絶対的エースを下げてきた。8点差ついたとはいえ試合のまだ4分の3近くを残した状況での交代に坂原は苛立ちを隠せない。
坂原「クソが…もう勝った気になりやがって」
しかし、他のメンバーの感情は違った。
武藤(相手が油断してんのか知らんがこれで首の皮一枚繋がったかな‥)
ほんの僅かではあるが逆転のチャンスを相手自ら差し出してきたとその時は思っただろう。
しかし”相手のエースがいなくなれば点差は縮まる”といった安直な考えはすぐに間違いだと証明される。それ以降駿河実業はエースに偏っていた攻撃を他の選手に分散させていき見事に相手の期待を裏切ってみせたのである。
客観的に見れば水沢だけではなく北岡や合田も県内を代表する選手であり総合力ですら遠江を圧倒しているのでそうなるのは必前であった。結局この試合の点差は予想通り広がっていき気づけば15点差、20点差となっていく。まるであらかじめ決められたシナリオをこなしているかのように淡々と時間は過ぎ点差も開いていった。残り試合時間10分になったところで相手側がタイムアウトを要求した。おそらく控え選手が出てくるのだろう。
現在のスコアは35対9 もう決着はとうの昔に着いている。今更何を理由に試合に臨めば良いのか坂原自身も分からなくなっていた。
重苦しい空気の中で副主将の武藤がみんなに向かって一言声をかけた。
「なあ、みんな残り10分今までやってきたこと全部だそうぜ、このままじゃ死んでも後悔するだろうから」この一言で空気が変わった。彼なりに考えたチームメイトの闘志を引き上げる最大限の言葉だった。
山田「よっしゃーーー!!!やってやろうぜ!!」
津山「俺のハンドボールはまだ終わってねえぜ!!」
他のメンバーからも数分前からは考えられないほどポジティブな言葉が飛び交っていた。この光景を見た坂原は呆然とした。今のこの明るさを果たして自分が作り出すことはできていただろうか?と自分自身に問いかけていたのかもしれない。自分は一年間主将のはずだった、それなのにチームのみんなの気持ちを引き揚げることを今まで全くできていなかったことに今更気づいてしまったのだ。それこそさっきまでベスト8の立役者は自分だと思っていた、しかしながら本当の立役者は武藤を含めた他の部員だったんだと。このタイムアウト以降ほんの数十分前まで血の気を多くしてまで入り込んでいた試合に対しても魂が抜かれたように他人事になってしまっていた。もう最後の10分は記憶がほとんどなかった。この感情をどう表現していいかわからなくなっていた。いや多分この感情を記憶してしまったらこれまでの自分を否定することになってしまうことを本能は分かっていたのかもしれない。
37対16 このスコア以外それ以降の試合の記憶は存在しない。
そしてこの日が終わってから俺は競技から離れた。
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