【2】アラスカでオーロラ見るだけで人生変わったらどうしてくれるんだ
●−30℃のアラスカ、宿から800m先のスーパーに徒歩で行ける…のか?
12月のアラスカはもちろん寒い。
外気に触れると、自分の身体と脳が
「ずっとここにいてはいけない!」
とシグナルを発しているのがわかる。
夜は−30°Cの世界で、スマホやカメラを
操るために厚手の手袋を外した手は、
ものの数分で冷たさを感じることを
すっ飛ばして痛みを覚え、じきに感覚を失う。
大ダメージを受けた手は、ずっとこのままで
元に戻らないんじゃないかと思うほど芯まで
冷え切る。

顔も目以外は極力出ないように覆うのだが、
自分の鼻と口から吐く息でまつげや髪は凍る。
ここまでは想像がついたが、暖かい建物から
屋外に出て最初の呼吸ひと吸いで、むせて
咳き込むのは毎回どうしようもなくて笑えた。
人生で経験したことのないカラカラの冷気に、
「食道や肺がびっくりしているのでは?」
という仮説で、僕と妻はひとまず納得して
みることにした。

しかし不思議なことにどこも屋内は非常に
快適で、薄手のトレーナーでも余裕で過ごせる。
これは、セントラル・ヒーティングと言われる
仕組みで、特に海外の寒冷地ではポピュラーな
ものだ。
一箇所にある熱源で発生させた温水や
熱風を建物全体に循環させることにより
室温を一定に保つ仕組みだそうだ。

常にベストな室温の中にいるので、
屋外にさえ出なければ、東京都北区、
暖房をつけないと布団から出られない
我が家のアパートよりもずっとずっと快適だった。
そしてアラスカ(というよりアメリカ自体が)
は言わずもがな車社会だ。
東京都内在住で、割とどこでもシェアサイクルを利用したり、時間があれば率先して徒歩移動の
僕のスタイルが全く通用しない。
高2の時の数Bのテストで奇跡的にいつもより
良い点数を取ってしまい、次の授業から数学が
得意な子が集まる上のクラスになってしまった
時の僕くらい通用しない。
というか街自体がその徒歩スタイルを想定していないような構造なのだ。
それを痛感したのが宿の近くのフレッドメイヤー
(チェーンの大型スーパー)へ食料品の
買い出しに行った時だ。
宿からは約800m程度の距離で、ざっくりいうと原宿駅の神宮橋交差点(代々木体育館でライブとかある時に大混雑する歩道橋の辺り)から表参道の通りをまっすぐ進み、国道246号とぶつかる
表参道駅までくらいの距離だ。

普段なら10分ちょっとで歩ける距離感なので、
せっかくのアラスカ、少しでもこの地の
なにげない風景を楽しんだり、空気を浴びたい
と思って地図を見ても、いわゆる歩道的な道が
どうやっても見つからない。
負けた気がするがストリートビューで
見てもやっぱりない。
仮にあったとしてもガードレールもなく、
雪が積もり、車がバンバン通る道の隣を歩く
勇気はなかった。
もし雪が積もる時期にパイクスウォーター
フロントロッジに泊まり、どこか散策したり
街まで買い出しに行く人がいたら、
この道の問題は盲点だったのでお気をつけて。
結局配車サービスのLyftを利用して3分で
目的地に。
「原宿駅から表参道までの道をタクシー使ってる
のか…。」
と思った僕の感覚はマイノリティでないことを
祈るばかりである。

ちなみに冬の平日の場合、イエローラインの
循環バスが1日約10本、空港-フレッドメイヤー-アラスカ大学フェアバンクス校間を運行して
いるようだ。
バスが時間通りに来なくても、
そもそも運行していなくても、責任は取れない。
宿のすぐそばにあるチェナ川は、冬の時期なら
スノーモービルが走るくらい頑丈に凍るので、
遠回りにはなるが歩いて街の方面に行くこと
は可能かもしれない。責任は取れない。

この室内がセントラル・ヒーティングで
常に暖かく快適という状態と、少しの距離でも
車移動する文化が合わさると一体何が起こるか
というと、
薄着の人が普通にいる。
配車サービスのおじさんとかTシャツ1枚で
過ごしている。
こっちは宿から一歩でも出るなら最強の防寒服
を着込み、それでも外に出た最初のひと呼吸は
必ずむせて咳き込むのに、
しかもおじさんみたいな嫌な咳き込み方をするのに、彼はナッツ食べながら運転してる。
…Lyftのジョシュ!あなたのことを言ってるぞ!
Tシャツ姿を見た時、僕は心の中で「ワオ!」って言ったからな。
(ちなみにスーパーからの帰りも一番近くに
いたのがジョシュさんだったのでお世話になった。
ありがとう)

もちろん、街ゆく人全てがそういうわけではないが、これはなかなか衝撃を受けた。
アラスカの漢、恐るべし。
次回 ●君たちは(極寒の地で凍死しないように)どう生きるか
