47【ジジとババと、みなさまと私】キョンシーと細川たかしが、うちにいる日
はじまり、はじまり。

母がまた、ため息と共にぼそっと言う。
「お父さんが頭を刈って、と言うの」
「キョンシーみたいな、あの頭にしろって」
どういうことかと言うと、父は髪の毛が伸びると気になるのか、髭剃りで右耳から左耳あたりまでを繋げるように剃り上げるのだ。
母は「キョンシーみたいだから、やらないで」と父に言うのだが、やめないと言う。
それどころか、その「キョンシーヘア」を母にリクエストするらしい。ちなみに、命名者はお世話になっているケアマネさんらしい。
ナイスネーミング!!
私はそんな素敵なネーミングを知らなかったので「細川たかしヘアにしたいんだね」と言うと、父は「細川たかしじゃない!」と言う。
キョンシーと細川たかしの入り混じる、一種のカオス。

生ジジは、イラストジジより白髪生えてる
私は本当に、父がどんなヘアスタイルになろうが、興味はない。
母は「あんな頭、恥ずかしい」と言う。自分のことでもあるまいし、80歳を超えた旦那のヘアスタイルが恥ずかしいと感じるんだ。
へー。
「より素敵であってほしい」という愛なのか、「隣にいる私に恥ずかしい思いをさせないでほしいわ」なのか。たぶん、後者だろう。聞いていないけれど。
「今更、ジジに言ってもしゃーねーよ」
母に言った。
「あなたが気になるなら、髪の毛のカットをもっと短い間隔でやりましょう。
全体的に短くしていたら、キョンシーヘアーは、目立たないよ。
他の人はジジの頭なんか気にしてない。
ジジは好きなようにさせておいてください。
あなたの精神安定が大切です。
1人で大変なら、私に髪の毛を刈るから手伝ってと言ってください。そうすれば、あなたの精神状態もよくなるでしょ」
そう言っていると、父はのんきに言った。
「髪の毛、刈ってくれるのか」
「はい、はい」
そして、父に縁側に座ってもらう。
父の首に年季の入った緑のケープをつけて、私がケープの後ろの下側を持つ。母がまた年季の入ったバリカンで後ろから刈る。私は落ちてくる白っぽい塊を落とさないように受ける。
前側も刈る。
「おー、ここ、もっと刈ってくれ」
「はい、はい、刈っちゃえ」

やっぱり、ウルサイわ。
母よ、父のやりたいようにしておこう。全体的に短いのは、あなたの癪にも触らないでしょう。
散髪が終わると、父は、ちゃんと刈られているか、手でチェックして「オゥ、オゥ」と満足そうに頷いた。
これから、伸びるまでは、また、一つ平和。
あー、よかった、よかった。
髪の毛が伸びると言う事は、生きている証だね。
今日も、ジジとババと、みなさまと私の一日。

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