36【ジジとババと、みなさまと私】ジジは違いのわかる男だった日
ショートステイ先からの一時帰宅から一週間が過ぎた。次は一泊する。
はじまり、はじまり。

一時帰宅のために用意するものは、夜に安心してトイレができるようにするポータブルトイレ。トイレは近くにあるが、夜は、コロコロを押してトイレに行かなくても済むようにしたいのだ。
これは父にとって、というよりも、父の物音に気をとられて、母の睡眠を邪魔しないためだ。
ポータブルトイレはレンタルができないので、レンタル屋さんと相談しながら決めることになっていた。

しかし、レンタル屋さんに誰かのポータブルトイレがあって、それを一時帰宅用にレンタルさせてくれるという話をいただいた。
この日はありがたくそれを利用させてもらうことにした。

この話は、家のトイレでの話。
母と一緒に用意した歩行器(コロコロ)の動線、段差の解消やマットはイメージ通りで、父も不都合なく家の中を移動できている。
広いトイレではないので、昼間はコロコロを押してトイレの前まで行き、トイレの前にコロコロを置いてトイレに向かっている。
トイレでは自分で紙オムツ(オパンツ)を上げ下げしたり、時間はかかりながらも、やれているようだった。
ひとまず本人に任せてその後の状況を確認することにした。一時期と比べて体の自由が効くというありがたさ。
しかし、どこまでできているかわからないので、最初はあまり負担にならないよう外で待ちながら「何かあったら言って」というスタンスで見守っていた。
家のトイレは久しぶりだし、父がどこまでできているかがこちらもわからない。
まぁ何とかできたようで、父がトイレから出てきた後に確認に行ったところ、ウォシュレットの便座がやけに濡れている。
慌てたように便座を拭いている様子があったので、聞いてみた。
「何か濡れた?」
すると父は、
「オゥオゥ、なんかなぁ。トイレがなぁ。
壊れとるだ。水を出すとなぁ、すごい濡れるだ。家のトイレ壊れとるで、ちょっと直してもらったほうがいいなぁ。
病院でもなぁ、ショートステイ先でもなぁ、こんな事はないで!俺はわかる!」
フムフム。
この頃から、父は私にとってネタ提供者になっているので、父の話を面白がって聞くことができていた。だから父の言いたいことを遮らないで聞くことができた。
言われてみれば、私もトイレに行った後にめっちゃ濡れるなぁと思ったことはあったので、ひとまず母に聞いてみると、
「そんな壊れてないよ。私はそんなことならないわよ」
とおっしゃる。
わかりました。それではもう一度現場検証をいたしましょう。
ボタンを押して動作確認は良好。そこが壊れているわけではない。では水流の圧のボタンを見てみたら、これでしょう。

なんと最大になっていたのだ。父がボタンを押したら最大水流がお尻に当たって、うまいこと安定して座れていなかった父のお尻と便座は大洪水になったのだ。
原因がわかった。父に報告した。
「ジジさぁ、壊れてないよ。
おしり洗いの水のボタンが最大になってたからだよ。めっちゃ勢いのある水がお尻にかかったから濡れたんだよ。
だもんでそれを真ん中にしといたからね。もう大丈夫だと思うよ。今度また1回行ってみてね」
と父に喋っていたら、母が言った。
「それ私が最大にしておいたのよ。私そんなに濡れないわよ。だってそうしないとすっきり出ないのよ」
えー。それはですね。刺激がないと出ないって言うのはあまり良い話じゃないですよ。刺激がありすぎるのも良くないですからね。真ん中ぐらいにしときましょう。
結局トイレが壊れた事件は、母の便秘解消のための最大水圧ボタンだったということだ。それからは父が濡れることなく、便座が水浸しになることなく、平和なトイレとなった。
なんでも聞いてみると、解決することもあるよね。
これが、一時帰宅ネタの一つ目。
今日も、ジジとババと、みなさまと私の一日。

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