”ギチギチ鉄五郎”はち切れキュビズムはどこからきたのか【萬鉄五郎】
日本の大正昭和にかけての洋画家、萬鉄五郎
と言われてなんの絵が思い浮かぶでしょうか。

彼の代表作である《裸体美人》は日本で初めてフォービズムを取り入れた”記念碑的作品”と言われ、重要文化財に指定されている。現在開催中のコレクション展でも見ることができます。ゴッホやマティスらに見られる強い色彩のスタイルを単に取り入れただけでなく、出身地である岩手県花巻市で培った独特の風土感と肉体描写も面白い。
余談ですが、個人的に「記念碑的作品」っていう言葉が好き。その時点での歴史と革新的な未来との融合というガチガチの褒め具合と、的という軽さが好き。そんな萬鉄五郎はフォービズムだけでなくもう一つ、キュビズムを日本に取り入れた記念碑的作品も描いています。

《もたれて立つ人》
こちらも東京国立近代美術館にあります(現在は展示なし)。
萬鉄五郎の作品で一番好き。ピカソやブラックに習った順当なキュビズムを踏みつつ、土偶や埴輪を思わせる独特のオレンジ色。人形にも見えるかわいい形とキャンバズを囲む左側の枠の壁に「もたれる」というオリジナリティ!面白い!

国立西洋美術館
キュビズムで描く人体というとなんだかデカくなりがち↑な気もするけれど、ここまで画面の枠の中にはち切れそうに、窮屈に収まっているキュビズムも珍しいんじゃないでしょうか!萬鉄五郎が描くこのキュビズム、なすにきびは勝手に「ギチギチ鉄五郎」と呼んでいます。窮屈だけどなんかじわっとした温度を感じる”ギチ鉄”が好きなのです。

こちらもいい”ギチ鉄”!夏に岩手県立美術館に行ったときに萬鉄五郎展示室で見られたギチ鉄です。《もたれて立つ人》ほどの謎温度感、ロボット感はないものの、お腹周りや足の筋の描き方は共通しています。さらに《もたれて立つ人》と比べて見ると、筋骨隆々・マッチョイズムが強化されている!この《男》は《もたれて立つ人》より後の制作年なので鉄五郎は純粋なキュビズムよりギチギチ筋肉を追求したかったということ??
この絵について知るにおいて、参考になる前段階の絵がある。

先ほどの《男》から11年前の1914年に制作されたタイトル、ポーズが一致している作品。日本国内において「キュビズム」という言葉が入ってきたのが1911年から12年ごろとされ、1914年ごろから藤田嗣治などの渡仏した日本人画家によって習得が行われたとされているので、鉄五郎もこの絵を描いた後、キュビズムを知り、《もたれて立つ人》を制作した後、さらなるギチ鉄の研究を始めたということ。ちなみに研究段階の習作も展示されていました。↓

こう見ると、やはり鉄五郎はキュビズムというよりギチギチが好きなんじゃないかと思えてくる。どれだけ筋肉の量感、圧迫感を演出できるか。フォービズムの場合でもそうだけど鉄五郎は西洋の最先端を敏感に察知しつつ、最終的には日本的、或いは東北的?な郷土精神を突き詰める人だということ。勝手だけれど、鉄五郎という名前に見合ったそんな土臭さも好き。
にしてもこの圧迫感の”ギチ鉄”。完全に鉄五郎が発明したものなのだろうか?この時代の洋画家というものちょっとくらい何かに影響されているんじゃない??

そう思ってみた作品の記憶や写真を思い返してみると最初に思い出したのがこちら↑。大阪中之島美術館を象徴する存在と言っていいモディリアーニの横たわる裸婦。右足ははみ出しているものの、従来のヴィーナスや裸婦像と比べると、ギチギチ味のある圧迫感。

同じくモディリアーニでギチってるのがこちら↑。カリアティードとは「重荷を支える女」の意味で、古代から建築の装飾に用いられた女性人物柱を指す美術用語。重荷の部分が画面外に出ていることで増すギチギチ感は、鉄五郎の《もたれて立つ人》に共通するものがある。
ただ、鉄五郎がモディリアーニから「影響を受けた」かと言うと、これらの作品と鉄五郎のキュビズム作品の制作年がだいたい被っているので、否定してよさそう。ただどちらもキュビズムから影響受けた作風がだんだんとギチギチに寄っていくという事実は面白い。

参考・やはりキュビズムはでかい
これは画面内の関係的にもでかい!
先ほども言ったようにそもそもキュビズムというと、画面に対して体が目一杯に大きく描かれがちです。↑ブラックの《大きな裸婦》も”ギチ鉄”に通じるような大きさ。しかし、これは平面作品のみに言えることじゃなく、、、モディリアーニもキュビズム研究において彫刻を制作していたりしますが、彫刻にこそキュビズムのギチギチの本質があるのかもしれない!

↑ピカソやモディリアーニらとも交流を持ったエコール・ド・パリの芸術家、オシップ・ザッキンの彫刻。母子という二つの存在をきっかり収めたナイスギチギチ!仮想の直方体をイメージするとかなりギチギチな彫刻でしょう。
さらに(一つに絞るとすると)フォービズムの画家と言われる、アンドレ・ドランのキュビギチ彫刻(キュビズムギチギチ)も!↓

アンドレ・ドラン 《立てる裸婦》 1907年
キュビズム界のPERFECT HUMAN
これもなかなかいいギチギチ、こんな体制続けてしまうと絶対に肩凝りする、首元がきつそうです。しかも!《もたれて立つ人》と比べると、胸とお腹周りの丸い造形が酷似している!ドランだったのか!アンドレ・ドランは萬鉄五郎も倣ったフォービズムの画家。となると、キュビズムとフォービズムの掛け合わせがギチギチキュビズムなのかもしれない!
というわけで、萬鉄五郎の描くキュビズム、「ギチギチ鉄五郎」はキュビズムの中でもさらに立体的な圧迫感を追求した結果の造形なのではないか!鉄五郎の場合、自身で彫刻を制作したりするのではなく、埴輪や土偶など日本土着の構造物から着想を得たのではないでしょうか。ピカソに対するアフリカ彫刻、お面の存在があるように、鉄五郎は神楽のお面をモチーフに取り入れたりしていたそう。ギチギチに通じるところで言うと、もしかしたら円空仏もイメージ元だったり、、、?

岩手県立美術館では先ほどの”ギチ鉄”である《男》の横にも、ギチギチではないものの、さらに鉄五郎の研究が進んだ土人形みたいな作品が並んでいます。


毘沙門天立像から着想を得ている

↑《羅布かづく人》はこれまた前段階と言えそうな裸婦像、《裸婦(ほお杖の人)》がある↓
こうみていくと最終的に鉄五郎はキュビズムでもなく、ギチギチでもなく、もっと根源的な日本人の肉体の研究に入ったのでしょう。これらの作品、最も《もたれて立つ人》にも言えたことですが、これらが醸し出す不気味な人形感はキリコのマネキン絵にも通じるところもある!

キリコもキリコで画面に対してギチギチ気味なので、空間と時間と肉体との研究が行われると、必然的にギチギチになるということなのでしょう。キリコが展開する形而上学世界の絵が、より難しくより大きくなったのに対して、古来からの自然に根付く日本的哲学世界を吸い込んだのが、もりもりの筋肉・「ギチギチ鉄五郎」ということ。

このように日本の風土と当時最先端の美術様式の掛け合わせを試みた、ギチギチ画家・萬鉄五郎。
岩手県立美術館の萬鉄五郎展示室では他にもこんな、いろいろな画法を取り入れた実験自画像もありました↑。面白い画家!故郷の花巻には記念美術館もあるのでいつか行きたい!↓
おわり
岩手は舟越保武、松本竣介などの有名画家が他にもいます。
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