それぞれのオリンピック
熱心に見てきたイタリア・ミラノコルティナ五輪のアルペンスキーとフィギュアスケートの競技が終了した。注目していたのは、競技のパフォーマンスそのものに加え、五輪やそのプレッシャーとの向き合い方だった。選手や競技の魅力を改めて感じつつ、五輪以外の大会もしっかり追い続けたいと思いを新たにした。
金メダリスト2人の共通点
いずれも過去の記事で触れたことがあり応援していた、アルペンスキーのミカエラ・シフリンとフィギュアスケートのアリサ・リュウ(ともにアメリカ)が金メダルを獲得した。
メディアの報道を見ていると、この2人はアプローチの仕方こそ違えど、最終的に「ただスキー・スケートをする」という極めて単純な精神状態にたどりついていたように思えた。シンプルに思えて最も難しいことだが、2人はそれをやってのけた。
リュウは、中継映像を通してプレッシャーを感じている素振りを全く見せない。インタビューでは「メダルはいらない。この舞台で自分の滑りを見てもらいたい」という意思を明確に表現していた。アスリートスポーツの世界で、「順位を気にしない」ということを表現するのは、それ自体が勇気のいることだと思うが、その自分の意志を通す強さを感じた。
シフリンは、2020年に父親を亡くした深い悲しみや転倒が影響したPTSDを抱えながら五輪に臨んだ。スキーの最高峰大会・ワールドカップでは出場すればかなりの確率で表彰台に上がるため、「順当なら金メダル、少し悪くてもメダルは取れる」という期待がのしかかる。しかし前回の2022年北京五輪では結果を残せなかった。
多くのプレッシャーと困難を抱えての今回の五輪だったが、金メダルを獲得した回転のスタート前には「ただスキーをする準備ができた」状態になったという。それからは、今シーズンのワールドカップでの平常運行ともいえる圧倒的に速い滑りを披露し、2位に1.5秒の大差をつけてレースを制した。
メダル目前の失敗も「キャリアは左右されない」
アルペンスキーの男子回転では、1本目1位タイムを計測したアトレ・リー・マグラス(ノルウェー)が2本目の途中で旗門をまたいで棄権。ストックを投げ捨ててた後、コース外の森の中で落ち込む姿が日本でもアメリカでも話題になった。
マグラスは五輪開幕の日に祖父を亡くし、今五輪は腕に喪章を付けて出場していた。失敗した後には「いろいろな感情が混ざり合った」とメディアに語った。
皮肉にもマグラスの失敗によって、私の好きなヘンリック・クリストファーセン(ノルウェー)の銅メダルが確定した。彼は金メダルこそないものの、これで3つ目の五輪メダルとなった。
2018年の平昌五輪では、クリストファーセンが今回のマグラス同様、1本目1位からの2本目途中棄権という境遇を持つ。マグラスについて「これでキャリアは左右されない。今のまま続ければ、成功を収める」と話した。
選手に集まる批判
フィギュアスケートに関しては、男子フリーのイリア・マリニン、女子ショートのアンバー・グレンの失敗への批判が相当あったように見えた。
スポーツを見ている側としては、選手が成功しようが失敗しようが「他人事」でもある。他人事なのになぜそんなに悪く言うのだろうと思ったが、逆に他人事だから言えるのかもしれない。身近にいる頑張っている人が失敗しても、普通は厳しい言葉をかけないだろう。
個人的に願うことは、試合で本人が納得のいくパフォーマンスをしてほしいということに尽きる。だから、グレンがフリーでうまく滑りきった後はほっとした気持ちになった。
五輪がなければ知らない・興味を持たなかった競技もあるだけに、個人的には「五輪をなくせ」などとは言えない。しかし選手が真っ当に競技に打ち込めるような形になってほしいと願う。
五輪だけで測れないすごさ
以前の記事でも触れたように、クリストファーセンは「金メダルを取るよりも、その候補でいることの方が難しい」という趣旨の発言をしている。実際にアルペンスキーの男子では、滑降、スーパー大回転、大回転の3種目で金メダル最有力と思われたマルコ・オーデルマット(スイス)がメダルはたくさん獲得したものの金はなかった(前回北京で金メダルあり)。
オーデルマットは、ここ数年のアルペンスキーワールドカップでは圧倒的な強さを誇っている選手である。それでも、単発の五輪で金メダルを取ることは簡単ではない。
フィギュアスケートでも、今大会のシングル種目では坂本花織や鍵山優真は金に及ばなかった。しかし過去の五輪やGPシリーズ、世界選手権などを考えればすでに輝かしい実績がある。
今回の五輪を通して、改めてクリストファーセンの言葉の重みを感じた。だからこそ、自分が好きなスポーツは今後も五輪だけでなく普段から競技を追っていきたいと思う。選手のすごさや魅力は、五輪のメダルだけでは測れない。

参考
きょうの1曲
Promise - Laufey
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