[連載小説]ソグディアナ物語18/亀茲に帰ってきたニルファナとタクラマカンを進むダダンブク
ここまでのあらすじ
『シルクロードJUN JUN』のソジュンはデビューし、ミュージカルでも活躍。
初期メンバーの純一は、シルクロードの研究者に。
二人は、マネージャーのアン・ミンジェとサマルカンドへ旅することになった。
ところがソジュンがひとりラクダのキャラバンでたどり着いたのは、夢で何度も見た砂漠のオアシスだった。
一方、ソジュンが消えブハラに残されたアンミンジェの前に古代の出立ちの『金旭俊』と名乗る若者が現れた。
遅れて到着したNAOまでが翌朝消えた。
長老は、
「どうやら『時の扉』があいてしまったかもしれない」と言い、
「NAOは、過去からやって来たナオシャンダ姫かもしれない」と言い出した。
一方で、古代のオアシスでは、とうとうナオシャンダとニルファナの隊商は亀茲のオアシスにたどり着いた。
その時、ほとんど雨の降らないオアシスに突然の雷雨が起こった。
前回の話
[連載小説]ソグディアナ物語18
亀茲に帰ってきたニルファナとタクラマカンを進むダダンブク
突然の雨に宴は中止になった。
今回の旅はここまでも困難に襲われていた。旅団の中に高熱を患う者が大勢出たため、直ぐには町に入らず、やっとその日、帰還を祝う予定だった。
楽器工房の主パールヴァンは急遽、場所を移し、屋内で皆を出迎える準備をした。
「ナオシャンダ姫、ようこそ亀茲にいらっしゃいました。
ニルファナお嬢様もつつがなく帰られて嬉しゅうございます」
パールヴァンの妻マフシードが用意した料理で腹を満たした頃、ニルファナは、立ち上がって西域で学んだ踊りを皆に披露して舞った。
ニルファナの澄んだ翡翠の瞳は、初夏の若葉を映したように煌き、薄絹の衣をクルクル廻すたびに風が起こった。西域で学んだ華やかな舞いを舞う美しいニルファナのことを、チャドは部屋の隅から見つめていた。
舞い終えたニルファナが、ロクサナの隣りに座ると、ロクサナは嬉しそうに話しかけた。
「素晴らしかったわ、お姉さま。今度、私にも、康国の踊りを教えてくださいね。
ねえ、ニルファナ姉さま、チャド兄さんたら、『お姉さまが帰る』って『プルワーンツ』が届いてから落ち着かなくてたいへんだったの。今か今かと待ってたのよ。ところで、いつ式を挙げられるの?帰ったら一緒になるんでしょ?」
「えっ?やだ…ロクサナったら」
ニルファナは、顔を赤らめた。
幼馴染だった二人は、亀茲の皆の中で公認の仲だった。ニルファナの帰りをまち、二人は祝言を挙げるものと誰もが思っていた。ニルファナは、話をそらそうと話題を変えた。
「ところでロクサナ、もしかして、好きな方ができたんじゃないの?身なりに構わなかったあなたが、すっごく綺麗になっちゃって。見違えたわ」
「えっ??そんな人いないわよ……」
ロクサナも恥じらうように俯いた。
「あら〜、やっぱりね。まあ、どなたかしら?後で、ゆっくり話を聴かせてもらおうかなぁ……
そうそう、これロクサナにお土産」
ニルファナは茶化しながら、旅の荷解きをして土産を手渡した。絹の巾着から取り出したのは、青く澄んだ瑠璃の首飾りだった。
「うわー、なんて美しいの?素敵!!お姉さま、ありがとう」
「つけてあげるわ…ね、やっぱり似合う。ロクサナの青い瞳にピッタリよ」
「お姉様、ありがとう!!大事にするわ」
「よかった!喜んでくれて。
ところでお父様や兄上は?」
「お父様は、急ぎの薩保があって唐に向かわれているの」
「お兄様といっしょに?」
「いいえ、本当は一緒の予定だったのだけど、急に天竺から楽器の注文が入って、別々なのよ」
「まあ、そうなの……」
ニルファナとロクサナは、西域であったこと、留守中の亀茲の出来事を夜更けまで語り合った。
その頃、ダダンブクの隊商は星明かりを頼りに、タクラマカン砂漠を進んでいた。
「大至急で届けてほしい」とプルワーンツ(手紙)が届いたため、いつもより大量のザンダニジ錦と玉(宝石)を運んでいた。
金製品、西域の瑠璃(ラピスラズリ)、和田産の淡い緑の軟玉、波斯国(ペルシャ)製の赤や青や褐色の瑠璃坏(ガラスの盃やグラス)、緑松石(トルコ石)……貴重な宝物を携えた隊商は、長安へ急いだ。
シルクロードの旅路の中でもタクラマカン越えは、一番の難所。
砂嵐に襲われたら、人は臥て身を護るしかない。足元を狙う砂の海に呑み込まれたら、人の命など、ひとたまりもない。玉も錦も、タクラマカンを前にしたら、荒海に捨て置かれる藻屑のようなものだった。
メェメェという鳴き声も砂の海に吸い込まれていく。長く連なる隊商は、お互いの居場所をチリンチリンという鈴の音をたよりに、はぐれないように進んだ。
太陽の炎熱を吸い込んだ砂漠は下から炙るように熱く、山肌は焔をあげ紅蓮に燃えた。
灼熱の地獄で奪われた疲労が回復しないまま、隊列は夜を迎えていた。昼の遅れを取り戻そうと、ラクダの鈴を響かせながら、長い隊列は夜を進んだ。
ダダンブクは、今夜は山に登らず夜営を張り朝を待つか迷ったが、急ぎの要求に応えようと、せめて峠の向こうの小さなオアシスまで行くことにした。
砂漠を抜けて峠に差し掛かった瞬間、急に風向きが変わった。風は背中を押すように吹き始めた。
「マズイ……」
ダダンブクの心は、ざわめいた。
(いかん、不吉な予感がする……
砂漠で夜営した方がよかったやもしれん…)
第19章に続く
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