【創作】おもいで堂 #3


「おじいちゃん!おじいちゃん!」

眠りについたおじいさんは、少年の呼び声で目を覚ましました。そして辺りを見回すとそこは自分の部屋ではありませんでした。

「はて、ここはどこじゃ?夢の中か?」

「おじいちゃん!こっちこっち!はやくはやく!」

困惑しているおじいさんに構うことなく、少年はおじいさんの手をひいて、少し歩いたところにある建物の前に行きました。


ガラガラガラッ
少年は、大きな扉を勢いよく開けました。

「おにいさーん!おじいちゃん連れてきたよー!」

扉を開けると同時に発せられた少年の声は、建物中に響きました。

「やあ、いらっしゃい。待ってたよ。ほんとうに連れて来ることができたね。」

驚きの表情で出迎えてくれた店主は、駆けてきた少年の頭を撫でながら言いました。そして扉の方を見ると、不思議そうな顔で辺りを見回すおじいさんと目が合いました。

「どうも、はじめまして。ここは、おもいで堂といいます。死んだ人の思い出が置かれた本屋のようなものです。そして、私がここの店主でございます。」

店主は、おじいさんに向かってお辞儀をし、今の状況を説明しました。

「おもいで堂…ちょっと待っておくれ。まだ頭が混乱しておる…どういうことじゃ?なんでわしらはここに来てしもうたんじゃ?」

それでもまだこの状況が把握できないおじいさんは、店主に問いかけました。

「ここは普段、死んだ人しか来ることができない場所です。けれど、ごく稀にあなたたちのように生きている人が、眠っている間にここにたどり着くことがあるようです。明確な理由はわかりませんが、ここの中にあるあなたに対しての強い想い、もしくはあなたの中にある強い想いが、ここへと導いたのかもしれません。」

店主の言葉を聞いたおじいさんは、少し考えこみました。そんな2人の様子を近くで見ていた少年が、店主に言いました。

「ねぇねぇ、あずかってもらってる本ある?ぼくが読んだおばあちゃんの本!」

「ああ、大事に置いてあるよ。持ってくるからちょっと待っててね。」

店主は、おばあさんの本を取りに行きました。おじいさんは、店主と仲良く話す少年を不思議に思い、少年に聞きました。

「おばあちゃんの本ってなんだい?お前さんはここに来たことがあるんかい?」

「うん!あのね、昨日ね…」

少年は、おじいさんにこれまでのことを話しました。2人が話している間に戻っていた店主は、少年の話が終わるのを見計らって本を渡しました。

「はい、どうぞ。おじいちゃんに見せてあげるんだよね?」

「うん!ありがとう!」

少年は本を受け取ると、その本をおじいさんに手渡しました。

「これ、おばあちゃんの思い出がいっぱい書かれてる本なんだ!ここにおばあちゃんの名前が書いてあるでしょ?このおにいさんが、おばあちゃんから話を聞いて本にしたんだって!おじいちゃんも読んでみて!」

渡された本を見たおじいさんは、おばあさんの名前を見つけ、優しく指で触れました。そしてここへ来て初めて顔がほころびました。

「どうぞ、こちらの椅子にかけてご覧ください。」

店主は、おじいさんを近くにあった椅子に案内しました。そして、おじいさんの様子を見ていた少年に言いました。

「おじいさんが本を読んでいる間、君はこの子と遊んでやってくれるかな?君のこと、大好きみたいだから。」

3人のやり取りをじっと静かに見守っていた黒猫はニャーと鳴き、少年の足元にすり寄っていきました。

「おじいちゃんの邪魔にならないように静かにね。」

店主は、おじいさんが落ち着いて過ごせるように少年と黒猫を連れてその場を離れました。



椅子に座ったおじいさんは、パラパラと本をめくり始めました。おじいさんは、ひとつひとつの思い出をゆっくり噛み締めながら読んでいきました。

「そうじゃそうじゃ。そんなこともあったのう。」

時には笑い、時には目を潤ませながら読み進めていくと、ついに最後のページにたどり着きました。

「これは…ばあさんの字じゃ…」



おじいさんへ

楽しいときも、つらいときも、いつも一緒にいてくれてありがとう
でも私の思い出は、まだまだたくさんあるのよ
いつか、あなたにお話したいわ
あなたはどんな気持ちで聞いてくれるかしら

その時は、あなたのお話も聞かせてね
楽しみにしています




「うっ、うぅ…っ」

おじいさんがこらえきれずに流した涙は、最後のページに落ちていきました。

「おじいちゃん!だいじょうぶ?」

おじいさんの泣き声に気づいた少年は、一目散におじいさんの元へ駆けていきました。

「ごめんなさい…おばあちゃんの本をよんだら、おじいちゃん元気になるかなと思ったんだけど…泣かないで…おじいちゃん…」

おじいさんの横で目を潤ませながら謝る少年に、おじいさんは言いました。

「いや、違うんじゃ。わしは嬉しいんじゃ。もう一度、ばあさんに会えたような気分じゃ。」

こぼれる涙を拭いながら少年に微笑みかけました。

「ほんとに?かなしくない?さみしくない?」

おじいさんは、震える声で話す少年を抱き寄せ、言いました。

「ありがとう…じいちゃんをここへ連れてきてくれて…ありがとう。」















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