見出し画像

3歳なのに、もう私よりおしゃれだ。

最近、娘は鏡の前にいる時間が増えた。

子ども用のメイクセットを広げて、

小さな口紅を手に取り、
唇に塗る真似をする。

前髪を手で整えて、

少し首をかしげながら鏡を見つめる。

納得がいくまで何度も鏡をのぞき込んでは、

最後に私の方を向く。

「パパ、かわいい?」

もちろん答えは決まっている。

「かわいいよ。」

その一言を聞くと、安心したように笑う。

その姿を見ていると、

「3歳なのに、もう私よりおしゃれだな。」

そんなことを思ってしまう。



でも、このメイクセットを買ったばかりの頃は、全然違った。

口紅は唇ではなく、テーブルへ。

アイシャドウは、お気に入りのぬいぐるみへ。

鏡なんて見向きもしない。

色が付くことが楽しくて、

夢中になって遊んでいた。

「テーブルには塗らないよ。」

そう言って拭き取るのが、いつものやり取りだった。

あの頃の娘にとって、

メイクは、おしゃれをするものではなく、

ただの遊びだった。



そんな娘の変化をはっきり感じた日がある。

お風呂に入って、

髪も乾かして、

歯も磨いて、

「よし、あとは寝るだけ。」

そう思っていた。

少し静かになったので様子を見に行くと、

娘はまた鏡の前に座っていた。

メイクセットを広げ、

真剣な顔で口紅を塗る真似をしている。

「えっ、今?」

思わず笑ってしまった。

「せっかくお風呂入ったのに。」

そう声をかけると、

娘は鏡を見たまま、

「かわいくするの。」

と一言。

その瞬間、

胸の奥が少しだけ熱くなった。

遊びだから楽しいんじゃない。

自分なりに、

「こうなりたい」

と思う気持ちが、もうそこにあった。



保育園のお友達かもしれない。

街ですれ違った誰かかもしれない。

私の知らないところで、

娘は少しずつ憧れを見つけてきたんだろう。

昨日までテーブルに口紅を塗って笑っていた子が、

今日は鏡を見ながら前髪を整えている。

毎日一緒にいると気付かない。

でも振り返ると、

ちゃんと昨日とは違う今日がある。



私にとっては、

寝ぐせがついていても、

ほっぺにご飯粒がついていても、

世界一かわいい。

でも娘には、

もう娘なりの「かわいい」がある。

鏡を見て、

髪を整えて、

少し背筋を伸ばして、

私の方を振り返る。

「パパ、かわいい?」

「うん、かわいいよ。」

そう答えると、

娘は満足そうにもう一度鏡を見る。

その後ろ姿を見ながら、

私は少しだけ嬉しくなって、

少しだけ寂しくなった。

テーブルに口紅を塗って笑っていたあの子は、

いつの間にか、

鏡の中の自分を見つめるようになっていた。

子どもの成長は、

きっとこういう小さな変化の積み重ねなんだと思う。

だから今日も私は、

鏡の前で一生懸命前髪を整える娘に、

いつもと同じように言う。

「かわいいよ。」

たぶん今は、

その一言があれば十分なんだ。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

このnoteでは、シングルファザーとしての子育てや、人事の仕事を通して感じたことを、一つひとつ言葉にしています。

『また読んでみよう』と思っていただけたら、フォローしていただけると嬉しいです。

▼関連記事

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集