透明人間
透明人間 2006年 東京事変 より
遺書を書いた。
どうやって命を絶とうかと
色々考えていた時に、
透明人間が現れた。
透明なのに
現れたというのも、変だけれど。
透明人間は、
「消えてみてから死ぬかどうか決めれば?」
と、軽快な口調で話しかけてきた。
何が起きたのか
さっぱり分からなかったけれど、
死ぬと決めると変なものが見えるのかな?
なんて思ってみたら
受け入れるのは簡単だった。
透明人間の言う事も一理あるかもしれない。
消えることが出来るなら、
何も今すぐに死ななくてもいいじゃないか。
と、次の瞬間には
透明人間に頷いていた。
「君との契約は成立ね。」
透明人間が笑みを浮かべた。
透明人間だから
笑っているのかは
見えないのだけれど。
「いいの?絶対に戻れなくなるよ。」
と、透明人間は念を押したけれど、
僕は首を縦に振った。
すると
透明人間は何もせずに去っていった。
呪文を唱えるとか、
魔法の杖を振りかざすとか、
何か謎めいたものを期待していたのに。
透明人間だから見えないので、
去っていったかも分からない。
でも、
何故かもうここにはいない気がした。
鏡に映った景色に唖然としたのは
それから数分経ってからだ。
何せ、
服しか映っていなかったのだから。
服しか映っていないことに驚いたけれど、
服を脱いでみると何故か嬉しくなった。
その勢いで外に出ようと
無意識に靴を履いて苦笑いする。
アスファルトの上を裸足で歩くのは
痛かったけれど、
僕を見る人はいない。
散歩中の犬がこっちを見たけれど、
すぐに飼い主に目を戻した。
透明人間なのだから当たり前なのに、
誰にも見られないことに
胸がざわざわする。
全裸で歩いていることなどすっかり忘れて、
周囲を歩く人に目を向け、
試しに大声を出してみたけれど
誰も反応しなかった。
僕は、
僕が消えた事に、
底知れない不安を感じた。
『見えなくてもいい。』
と、自分に言い聞かせた。
姿が見えていた今までの人生だって、
僕に注意を払う人間なんて
いなかった。
だから、
僕は自分で存在を消そうと思った。
誰も悲しまないさ、
だって皆、
僕には無関心なのだから。
無意識とは恐ろしい。
翌日、
そんな得体の知れない不安に襲われながら、
僕は会社に来ていた。
皆、
入ってきた僕など
目に入らない様子で忙しなく動く。
僕を見ないのは、いつもと同じだ。
僕は席に着こうとして、
あ、透明人間なんだった。
と、椅子を引くのをやめた。
その時、
「あれ、彼、今日休みですか?」
という女性社員の声が聞こえた。
「あ、そういえば居ないな。」
『そういえば』という言葉が、
いつもの僕を物語る。
「連絡もないよ、無断欠勤だね。
どういう神経してんだか。」
それを聞いた僕は、
棘のある言葉に身を縮めた。
僕は、
僕の話をしている皆を、
不思議に見つめた。
僕が見た事のない、
違う世界みたいだった。
「私には、
そんな事する人には見えないですけどね。
5年間も皆勤ですよ。
何かあったんですかね?心配ですね。」
女性社員がそう言って電話機を見つめた。
僕はその時、
「ここにいます!仕事頑張ります!」
と叫んでいた。
しかし、
皆には僕の姿は見えず、
声も聞こえない。
僕は、
透明人間である事に苛立ちを覚えた。
今までの人生で、
見えていなかった光が
一瞬見えたのに。
その光を、
手にしたいと本気で思った。
存在を消した僕が、
ここに存在していると知ったら、
涙が出てきた。
その時、
「死ぬの?どうするの?」
と、透明人間が現れて聞いた。
僕は首を横に振り、
契約を解除して欲しいと伝えた。
「ホントにいいの?」
と聞かれ、
大きく頷いた。
透明人間は、
「でも君は全裸だから、
今解除すると困るでしょ?
だから家に帰ってから戻るようにしてあげるよ、
それまで消えているのを楽しんだら?」
と言い、
「じゃぁね。」
と、去っていった。
透明人間だから
去っていったのかは
分からないけれど。
僕はそそくさと家に帰った。
大きなため息と共に、
疲れと安堵を同時に感じた。
透明な時にもっと色々やれたかな
と、
透明人間に名残惜しさを感じたことに
失笑する。
あ、
もしかして帰る途中で戻っていたら
どうしようと考えて、
顔が熱くなった。
どれだけ赤い顔をしているのかと
鏡を覗くと、
真っ赤な顔が
はっきりと映っていた。
明日は、
「おはようございます。」
と、僕から言おう。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
*この物語はタイトル曲の世界観を
文章にしたものではありません。
あくまでも柴犬自身の
創作世界であることをご了承ください。
敬意を表して
柴犬のショートストーリーを纏めてあります!
過去作もぜひ宜しくお願いします!
連載を始めました!
こちらも是非宜しくお願いします😊
次回のショートストーリーは
『生きづらさ』
『存在』
3連続アップの2作目
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7月18日19時にアップします!
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