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潜在表明


潜在表明   2022年  MyGO!!!!! より


耳を疑った。

いや、

自分自身を疑った方がいいのか。

僕の中で、

僕がどんどん小さくなっていった。

僕は、

目の前で何かを紙に書いている

白衣の先生を虚ろに見た。

僕の視線を感じたのか

先生はペンを置き、僕に顔を向けた。

その顔はまるで、

南の島の細長い木の仮面みたいだった。

黙って、動かずに

僕を見る先生の仮面は

無表情で無機質だった。

僕に顔を向けた先生は、

仮面の下でどんな目をして

僕を見ているのだろう。



「私は何をすればいいですか?」

心療内科の先生にまで、

僕の人生は丸投げされた。

「はぁ・・・」

と、僕は無意識に声を漏らしていた。



「五千円で診断書が出ます、

それを出せば会社休めますよ。

制度では傷病手当っていうのが・・・」

滔々とうとうと言葉を並べる

仮面の先生の声は、途中で消えた。

僕はただ、

どうすれば良かったのか分からなくて、

生き方が上手くないから教えてほしくて、

勇気を出して受診したのに。

でも、

いつも僕の胸の内は

外に出ようとすると、

世界に跳ね返されて僕は倒される。

その痛みは、いつも僕を押さえつける。



中学校は馴染めなかった。

あからさまな虐めを受けたことは

ないけれど、

僕は1人ぼっちだった。

僕の胸の内を外に出すと、

皆が僕を避けた。

陰口、

冷遇、

憫笑、

それらが針のように僕の表層を刺した。

チクリチクリと僕を蝕んでいく

その小さな痛みの数々に、

僕は僕の潜在に閉じこもった。

世界は広いと教えられたけれど、

僕にとって世界はとても窮屈だった。

3年という年月はあまりにも長く、

1年もしないうちに

足が向かなくなった。




僕の潜在は、

まるで母の胎内のように

静かで安心できる。

包み込む羊水の中で浮かび、

水中なのに息苦しくない。

ふと見ると、

細長い木の仮面が漂っていた。

何を言うでもなく、

何を見るでもなく、

静かに。

僕がその仮面をじっと見つめると、

仮面も僕を見た気がした。

外に出してくれ、

と言いたげな目をしている。



次の日、

理由もなく仕事を休んだ。

足が、

体が、

心が重かった。

僕の意思とは無関係に、

僕は重い足枷に捕らわれて、

玄関を開けることが

出来なかった。



「人手不足だからさ、

休まれると困っちゃうんだよね。」

というメールが上司から来た。

僕が働く小さな惣菜工場でも、

僕は孤独だった。

お局女性のグループからは

陰湿な虐めを受けた。

でも、

人手不足だから

僕の存在は必要とされている。

でもそこに、

僕の居場所はない。

だってそれは、

『僕』

じゃなくてもいいのだから。



色々な事を考え出したら、

勝手に思考が暴走して

頭の中がグチャグチャになって、

僕は布団を頭から被って

背を丸めた。

「もう嫌だ。」

そう叫びたい。

でも、

怖くて言葉に出して言えない。

だからずっと心が癒えない。

心療内科の先生にも

伸ばした手を弾かれて、

行き場を失った僕は、

存在と潜在の間で右往左往していた。

どっちの世界も僕を手招きしている。

僕はただ、

この二つの世界を繋げたいだけなんだ。



2日後、

重い足を引き摺って仕事に行った。

何も変わっていなかった。

誰も僕が休んだ理由など

気にしていない。

ただ

人手が戻ってきたという、

安堵の吐息が、

無神経なその吐息が

周囲に広がった。

その空気を吸い込む事が出来ず、

僕は堪らずにトイレに駆け込み、

膝に両手を突いて激しく呼吸した。



その日の帰り道、

パートの女性が1人、

僕に話しかけてきた。

僕は大袈裟に驚いて身を引いた。

女性は困ったような顔で僕を見て

ため息を吐くと、

怖がる僕の肩を思い切り叩いた。

「アンタもさ、

いっつも殻に閉じこもって

何も言わないから。

言葉にしてみなよ。

最初は怖いかも知れないけどさ。」

と言って僕に微笑み、

「また明日ね。」

と、手を振って

自転車置き場に歩いていった。



それを聞いた僕の胸が痛み出した。

あの人には、

僕の潜在が見えるんだ。

胸の内深く閉じ篭っている僕が。

弾かれる手を

叩かれる頭を

背を丸める僕を

あの人は、見ててくれたんだ。

もしかしたら、

世界は広いっていうのは、

本当なのかも知れない。

そう思ったら、

立っていられないくらい

痛みを感じた。

ひび割れる。

細長い木の仮面にひびが入る。

その痛みに耐えられなくて、

僕は蹲って泣いた。

生き方が上手くない僕は、

こういう時の振る舞い方を

知らないから、

泣くことしか出来なかった。

でもこれからは、

少しずつ覚えていけるかもしれない。

この時に流れた涙は、

少しだけ、

ほんの少しだけ、温かかった。



僕は、

この痛みと涙を抱えながら、

生きる。


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最後までお読みいただきありがとうございます。
*この物語はタイトル曲の世界観を
文章にしたものではありません。
あくまでも柴犬自身の
創作世界であることをご了承ください。

敬意を表して


柴犬のショートストーリーを纏めてあります!
過去作もぜひ宜しくお願いします!

連載も進めています!
こちらも是非宜しくお願いします😊


次回のショートストーリーは

打上花火  2017年 DAOKO×米津玄師 より

です!

7月23日19時にアップします!
ぜひ遊びにきてくださいね😆


『生きづらさ』『存在』

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