私にとっての「教える」とは
私は、最初から「人に教えたい」と思っていたわけではありません。あみぐるみ作家になった時も、いつか講師になろう、学校で教えよう、なんて考えていませんでした。
それなのに振り返ってみると、「教える」ということは、何度も私の人生に現れています。
最初は、2003年ごろ。LEGO Educationのインストラクターを一年務めました。
そこで初めて知ったのが、誰かに何かを伝えて、その人が
「あ、できた」
となる瞬間に立ち会う楽しさでした。
自分ができることとは、また別の喜びでした。自分では当たり前にやっていることも、相手に伝えようとすると、順番を考えたり、言葉を選んだりしなければ伝わりません。
分からなかった人が、分かるようになる。その様子を見るのが、私は好きなのだと知りました。
その数年後、子どもが通っていた幼稚園の保護者会から声をかけていただきました。保護者同士の交流会で、「指編みマフラー」を教えてほしい、と。
自分から「教えます」と名乗ったのではなく、私ができることを見ていた誰かが、
「この人に教えてもらおう」
と思ってくださった。
今思えば、あれも嬉しい出来事でした。
その後、あみぐるみ作家として活動する中で、カルチャー教室でも教えるようになりました。大学生から80代の方まで、年齢も、編み物の経験もさまざまです。
同じことを伝えても、一度で分かる人もいれば、何度かやってみて分かる人もいる。言葉で伝わる人もいれば、実際に手元を見てもらった方が分かりやすい人もいます。
教えるというのは、自分が知っていることを、そのまま話せばいいわけではない。相手を見ながら、伝え方を変える。
そんなことも、少しずつ覚えていきました。
編み物以外でも、「伝える」機会が増えていきました。中高生のキャリア教育プログラム「だっぴ」では、自分がこれまで歩いてきた道を話しました。
小学生には「オランの環境教室」で、動物や環境のことを伝えています。そして今は、短期大学で学生たちに編み物を教えています。
教える相手も、内容も違います。それでも振り返ってみると、どこかでつながっているように感じます。
そして、「教える」ことを考える時、私は家族のことも思い出します。
明治生まれの父方の祖父は、中学校の教師でした。校長になる直前、病気によってその道を断たれたと聞いています。
私は二歳の時に祖父を亡くしているので、教師だった祖父の姿を知りません。それでも、私が短大で非常勤講師をすることになった時、伯母が言いました。
「誉高いことやわぁ」
その言葉を聞いた時、自分では知らない祖父とのつながりを、少し感じました。
一方、母方の祖母もまた、人に教える人でした。学校の先生ではありません。
神様に奉納する舞や箏を伝える、奏者であり、指導者でした。
考えてみれば私は、違う形で「教える」ことをしていた祖父母の、その先にいるのかもしれません。
何度も「教える」役割が巡ってくる自分の人生を振り返ると、少し不思議な気持ちになります。
以前、
もしまた勤め人に戻るなら、LEGO Educationのインストラクターをしたい。
そう本気で思っていた時期がありました。
それが今、短期大学で20歳前後の学生たちに編み物を教えています。まさか、こんなところにつながるとは思っていませんでした。
そして今、教える立場になって改めて感じることがあります。
伝えたいのは、編み方や手順だけではありません。
編み物の技術はもちろん、これまで私が編み物を続ける中で大切だと思ってきたこと。子どもの頃に見聞きしたことや、自分で経験してきたこと。
そうしたことも、学生たちに伝えていきたいと思っています。
私のやり方が正解だとは伝えません。
「こんな楽しみ方もある」
「こんな向き合い方もある」
自分なりに編み物を楽しんでいくための、ひとつの参考として渡していけたらと思っています。
そして、
分からなかったことが、分かるようになること。
できなかったことが、少しずつできるようになること。
自分の手で作ったものを見て、
「できた」
と思えること。
私は、その時間に一緒にいたいのだと思います。
LEGO Educationで初めて知った、あの「あ、できた」の瞬間。
20年以上経った今も、私はたぶん、同じものを見ています。
教えるということは、自分が知っていることを見せることではなく、相手が分かるように、できるように、伝え方を探すこと。
そして、自分がこれまで大切にしてきたことや経験を、正解としてではなく、ひとつの参考として渡していくこと。
その中から、その人なりの楽しみ方を見つけてもらえたら。
今の私にとっての「教える」は、そんなことなのだと思います。
あみぐるみ作家 光恵
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