戯曲『緋色の桔梗』五幹部の会合:細川ガラシャと父・明智光秀の輪廻転生ファンタジー7

イラスト:夏乃まつり様
🔹前回までのあらすじ
明治20年(1887年)・京都。
八木道場に通う少女・坂井千代と仲間たちは、人知れず犯罪者を成敗する“異能の剣士”。
彼らは歴史上の人物の転生者であり、前世の記憶が完全によみがえることで異能が最大限に高まる、完全覚醒を目前に控えている。
千代は、異能の転生者を狙う赫影会の頭領にして、織田信長の転生者・月岡聡十と戦闘。
自分が戦国のキリシタン・細川ガラシャの生まれ変わりだと気づく。
さらに、月岡の切っ先から舞い散った「水色の桔梗」──明智家の旗印──
によって、彼がかつての父・明智光秀の転生者と知った千代は……。
※残酷描写あり
第三幕第一場:五幹部の会合
赫影会本部の大広間。
中央に赤黒半々の月が描かれた壁。
天井からは血を思わせる赤い光が一筋。
五幹部のうち四人
藤堂 平太郎
白石 慶子
牧原 玄海
秦代 松之丞
が集合している。
藤堂 月が大きく動いた。異能が目覚め、かつての記憶が呼び覚まされた。
慶子 (扇をひらりと動かし)坂井千代、かわいそうな子。細川ガラシャの記憶が呼び覚まされ、やがて自我を失うことになる。けれど、我らにとっては大きな前進。
牧原 (キセルをくゆらせ)娘が天女となるまで、そう長くはかかりません。土台は順調にでき上がりつつあるのですから。
しかし、ようやく私たちの念願が成就されるわけですかぁ。長かったものですよ、ねぇ?
坂井千代さえ取り込めば、ついに待ち望んだ帝国が手に入るんですからね。
秦代 しかし、やはり気の毒です。もう少し、あの娘が自らの運命に納得してからでもよろしいのでは。
藤堂 (秦代を見やり)この計画は、貴様次第で破綻する可能性が、まだ十分ある。記憶を操作する貴様の異能は要なのだ。結果が不十分な場合、その貧弱な体を天女に粛清していただこうか。
秦代 (ひぃっと委縮)
慶子 あんまりいじめては駄目よ? いずれにせよ、覚醒はもう間もなく。存分に働いてもらわなくちゃ。
静かな鈴の音。
月岡聡十がゆっくりと姿を現す。
聡十 まだその時ではない。千代の記憶は不完全だ。
藤堂 (声を荒げ)覚醒は完了したに等しい!
八木の四人の弟子のうち三人は、儀式での記憶の奔流に、覚醒の速度が追いつかず、すでに自我を失った。
最も重要な坂井千代も、今はガラシャとしての自覚を持っているのだろう?
聡十 (威圧するような声で)まだだ。千代は今も衰弱して眠ったまま。目覚めたときの反応次第では、計画が振出しに戻るやもしれん。迂闊に手出しはできぬ。
一同が沈黙する。
牧原 確かに、あの娘の気配は一風変わっているようですな。 娘は前世の"偉大なる意志" を拒み、現在の意思を捨てきれぬか……。
芯の強い娘ですが、その実、器にするには、この上なく脆く見える。
秦代 やはり、本人に自覚させるのが一番ですよ。私が無理やり記憶をよみがえらせれば、簡単に崩壊するかもしれない……。
藤堂 お前たちは甘すぎる。意思など、我らが操ればどうにでもなるだろう。本来、我らの目的は、無用な民の意思を消すことだしな。
聡十 藤堂よ、お前の気持ちも理解できる。だが、時期尚早だ。三人については、すでに会の一員として戦力になり得る状態。当面は奴らに貢献してもらい、その間に千代の覚醒を慎重に手伝うのが必至。
とくに私はあの娘を長年観察してきた分、覚醒のきっかけを見極められる。失敗はせぬゆえ、とにかく千代については私に任せておくように。
貴殿らは新入りの三人を、より高次元の異能者へと導きながら、準備を進めてくれ。
慶子 斎藤志乃は斎宮女御、勝村眞魚は空海、小野木寛太郎は楠木正成として覚醒に成功。いまだ暴走状態とはいえ、秦代はよくやったわ。あんたの計算も正しかったようね、牧原。
牧原 そりゃあもちろんです。最上の装置で完璧な数値を叩き出し、覚醒の瞬間に向けて適切な処置を取ったまでのこと。
秦代さんの異能によって、細部まで負の記憶の覚醒を促し、感情が高ぶったところで、装置で異能を高次元へと高める。
我々はこの合わせ技で「人為的な完全覚醒」を成功させてきた。
元をたどれば、我らの赫影長様が成し遂げた、文明開化の世にふさわしい偉業ですよ。
死者の魂を人工的に呼び戻し、それを肉体に結合させ、旧き意志を甦らせる。成功例が、今この場にいる我ら幹部。
まぁ月岡さんは自主的な覚醒者ですから、もう天才と言わざるを得ません!
あの少女・千代もまた大器のひとつ……。
月岡さん以来の自主的な覚醒者として、神がかりのように異能を発揮するかもしれない。あぁ、胸が高鳴る……!
(耳をそば立て)噂をすれば、赫影長様です!
彼らの背後に黒い布を頭から被った赫影長が現れる。
全身が真っ黒で顔は見えない。
五人の幹部はひざまずき、深々と頭を下げる。
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