白銀の騎士(6)第2話 act.2
前回の話
2.嵐の前 act.2
5ヶ月前の『B地区事変』は、新国際連合軍において、歴史上始めての惨憺たる大黒星であることに違いはない。
新国連の一方の雄である「環太平洋安保同盟」は、宇宙軍の4割をこの事変で失った。
もう一方の強力な勢力「ユーラシア共同体」も、3割近い宇宙軍を失っている。
敗因のひとつは、誰も本気でこの大軍に戦いを仕掛けてくるはずがない、という油断があったこと。
もうひとつは、連合国それぞれの軍隊が、足並みを揃えずに行動を取っていたこと。
そして、そこへ統制の取れた人型戦闘機の編隊が怒濤のように押し寄せたことである。
まさに、ありえない光景だった。
こちらが有利だと誰しも思っていた最新の宇宙軍が、40分と保たずに壊滅したのである。
新国連兵士は、彼らを通称「黒いゴーレム」と呼び、強力な破壊力を持つ対艦砲を「ヘル・フレイム(地獄の炎)」と呼んで恐れるようになった。
ゴモン都市連盟側の情報戦略も見事だった。
旧式コロニーの付近で輸送船が破裂してから、10分も経たぬうちにゴモン都市連盟軍から厳重な抗議があった。我々がやったものではない、知らぬと返答すると、ゴモン独立都市民主連盟は全宇宙に対して「やむなく報復を開始する」と声明を発表したのである。
これは正式な宣戦布告とみなされ、各メディアもこぞってこの言い分を書き立てた。
もともと、『自由都市』を筆頭とする月面都市コロニー群は、これより十数年前から何度も、独立を要望する文書を新国連会議に送ってきていた。
それが認められずに棚上げされていたのは、新国連加盟国のうち、最大の2派閥を持つ強大な2つの常任理事国が、揃って難色を示していたからである。
互いに勢力と意地を張り合う2大国が、この件に関して意見が一致したのには理由がある。
地球外での資源採掘など、大規模な工業施設を擁する月面都市の大半が、この2大国いずれかの、文字通り植民地(コロニー)だったからだ。甘い汁を吸える既得権益を、自分から手放す者などいるはずがない。
だが、2大国の横暴とも言える傲慢さを快く思わない人々は、地球にも大勢いた。
月面都市から独立要望書が出されるたび、各国の主要なメディアは「月面都市に独立主権を与えるべし」と、この問題を取り上げて2大国を非難した。
だが、それも3度4度と繰り返されるうちに、皮肉なことに、世の人々からはしだいに忘れられていった。
それよりも、地球上の内紛や自然災害の方が、地球に住む人々にとっては重大事だったことも否めない。
忘れなかったのは、月面都市コロニー群に住む移民たちである。
この頃から、しだいに『自由都市』の変質が始まっていったと思われる。
この頃の『自由都市』では、「宇宙作業用ロボット」の開発が急ピッチで進められていたようである。
もっとも、これは名目上のことで、実際は兵器の開発を決して行わないはずの『自由都市』で、「人型戦闘機」の開発が秘密裏に進められていた可能性が高い。
ゴモン市長が「独立宣言」を行った時には、すでに大規模な大量生産ラインが別の工業コロニーに立ち上げられていたと推定される。
でなければ、半月後の『B地区事変』において、相当数の人型戦闘機が投入されていた事実への説明がつかない。
ともかく、こうして「賽は投げられた」のである。
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