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白銀の騎士(5)第2話 act.1

前回の話

2.嵐の前 act.1

 『自由都市』の南側、百数十キロ―――月の大地と同じ色にカムフラージュ塗装を施した中型の宇宙巡洋艦が停泊している。そこへ、1隻の小型宇宙艇が弧を描いて戻ってきた。
「レイヤー少尉、帰還しました。特に異常はありません」
「ご苦労だった、バイプ。上がって来てくれ」

「では予想以上に、都市軍の警戒は少ないということか?」
 作戦会議室では、バイプ・レイヤー少尉の報告を受けたタヨリ・ガイアール艦長が頭をひねっていた。
「少ない、というより、ないに等しいですね」
「私も同じ印象を受けました」
 そう言ったのはハーナイ・チリン少尉、この艦では唯一の女性パイロットである。
 彼女は明瞭な口調で続けた。
「ごくたまに、都市周辺をおざなりに哨戒機が飛んでいる程度です。残留兵力は、多く見積もっても、従来の4割を越すことはあり得ません」
 メイン・オペレーターのクーキー・ミッタイナー准尉も意見を述べた。
「その哨戒機ですが、偵察時間と間隔、機種までほぼ割り出せています。こちらが気をつけていれば、都市を包囲されるまで気がつかないかも知れませんね」
「ふむ、まあ予想はついていたが…。上の判断を待つしかないな」
 以上だ、ご苦労、と艦長がブリッジへ上がってしまうと、部屋にはバイプ、ハーナイ、クーキーの3人が残された。
 
「…気が乗らねぇ仕事だな」
 バイプが溜息をつくと、ハーナイがコーヒーを片手に揶揄してきた。
「あら、意外とバイプって正義感あるのね。無防備な都市コロニーに踏み込むから?」
 本当はハーナイもこんな仕事は嫌なのだ、とピンときた。
「そう、楽な仕事にゃ燃えねえんだ。いつもオレはスリルを求めてんのよ、ス・リ・ル」
 バイプがせっかく茶化した重い空気を、クーキーが蒸し返した。
「…でも、これじゃ、我が新国連軍は完全に『悪役』ですよね…」
 それを耳にしたハーナイの目に、いきなり険を含んだ光が宿る。こんな時に場違いだ、と自分でも思ったが、バイプはその美しさに不意を打たれた。
「戦争に正義も悪役もないわ。視点と立ち位置で、判断は簡単にひっくり返る」
「じゃ、軍備のない居住都市をいきなり武力制圧することの、どこが正義なんですか?」
「まあ、『自由都市』から武器開発研究の痕跡でも出てくれば、お互い様よね」
「それも出なければ?」
「ゴモン元首による『圧政からの解放』…なんて宣伝する手もあるかしら」
 ヒューッとバイプは口笛を吹いた。
「ハーナイ、君はパイロットより、むしろジャーナリストが向いてるんじゃない?」
「よしてよ」
 コーヒーのカップを回収ボックスに放り込むと、ハーナイはバイプのからかいを無視して言った。
「とにかく、戦う前に余計なことは考えない。これは生きて帰るための鉄則よ、クーキー」
「了解です、ハーナイさん」

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