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白銀の騎士(8)第3話 act.1

前回の話

3.緊急事態 act.1

「た、大変です中尉!」
 息せき切って駆け込んできた哨戒兵に、青年中尉は冷ややかに問い返した。
「何があった?」
 冷ややか、とは言い過ぎかも知れない。彼はただ、動じていないだけなのだ。
 だが、普段から冷静さを保っている彼は、その整った容貌もあいまって、どことなく冷ややかなヴェールを纏っているような、近寄りがたい印象を与えている事は否めない。
「新国連軍の大艦隊が、大挙して『自由都市』を包囲する動きを見せています」
「…ついに来たか」
 この基地に配備された兵員は、すでにあの都市では兵器の開発は終了しており、近日中に住民の全員が新首都コロニーへ移住すると聞かされている。
 そのせいで、まさか用済みの旧式コロニーに敵が攻めてくるはずはない、と油断していた者も多かった。
 その中で、この容貌の整った冷静な青年中尉だけが、この事態を予測していたのであった。

 ここは『自由都市』北東端からそう遠くないクレーターに設営された、ゴモン都市連盟軍の基地内である。
 基地と言っても、ここにはすでに巡洋艦1隻と人型戦闘機2機の他には、ろくな火器も持たない高速哨戒機が数機だけという、最低限の軍備しか残されていない。
 この基地だけが、デヴァン中佐率いる『都市防衛部隊』の戦力であった。
 そして、そのデヴァン中佐も『自由都市』の視察とやらで不在なのである。

「どうしましょう、中尉…」
「わたしが指揮を執る。今ここで、最も階級が高い者はわたしだろう」
 一瞬、兵士たちの間に安堵の空気が漂った。皆、この若い中尉の指揮能力を信頼しているのだ。
 指揮能力だけではない。彼は人型戦闘機"BN(ベーヌ)"の優秀なパイロットでもあった。
「総員、退却準備。万一の事を考えて、"BN"には火を入れておけ」
「…中尉、もしかして『自由都市』を見捨てるおつもりですか…?」
 沈痛な面持ちの下士官に、中尉はあくまで冷静な口調で答えた。
「諸君は、我が軍の貴重な戦力だ。必ず生きて帰ってもらわねばならない」
「し、しかし…」
「案ずるな。時が来れば、必ず『自由都市』は奪還する。それまでの辛抱だ」
 中尉は直ちに、事態の急変を報告するためにデヴァン中佐へ連絡をとった。

「『自由都市』を放棄するだとっ…! ならん、それだけはならんぞっ!」
「事態は一刻を争います。中佐も至急、基地へお戻りください」
「ならんのだっ! ここには…」デヴァン中佐は一瞬、言葉を詰まらせた。
「…ここには、ゴモン元首閣下がいらっしゃるのだ」
「元首閣下が!?」
 これにはさすがに、冷静な中尉も驚かざるを得なかった。
「それに…。…それに、この『自由都市』の中央特別研究棟には、ロールアウト直前の"WN(ヴァーン)"…"BN"の新型機が存在しているのだ。"BN"とは桁違いの性能を持つ、我がゴモン軍の最終決戦兵器だっ!」
 よほどの機密事項だったのだろう、中尉はそんな話など聞いたこともなかった。
 ただ、思いあたる節はないでもない。
 おそらくこの戦争後、近い将来に開発されるだろう「架空の新型機」を想定した操縦シミュレーション・プログラムのデータ収集に参加したことはあった。
 まさか、それがこんなに早く実現されているとは思いもよらなかったのだ。
 明日、市内の中央特別研究棟へ来いというのも、改良型"BN"の試運転だと思っていた。
「わたしが替わろう」
 ゴモン元首は、デヴァン中佐から通信端末を受け取った。


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