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白銀の騎士(2)第1話 act.2

前回の話

1.自由都市(フリーダムシティ) act.2

 コウたちの住む月面都市は、古く西暦の時代から、国境や所属を越えた研究プロジェクトがいくつも立ち上げられ、歴史に残る偉業の数々を成し遂げた研究都市コロニーである。
 ここでは、人を殺傷する目的の「兵器」だけは、決して研究・開発を行わないことを誇りにしていた。逆に言えば、だからこそ、国家の枠を越えた研究プロジェクトの遂行が可能であったとも言える。
 人種・民族・国籍はおろか、国家や企業の枠まで越えた研究を可能にする「自由」な科学都市。人はいつしか、ここを「自由都市」…フリーダムシティと誇りをこめて呼ぶようになった。

「この『自由都市』に来て、もう40年か…」
 街の中心部にそびえ立つ、巨大な白い建造物を見下ろしながら、初老で細身の紳士は呟いた。上品だがさりげなく重厚な調度品から、ここは最高級ホテルのスイートルームと察しがつく。
「失礼します」
 ノックの音と共に入って来たのは、恰幅のいい同年配の紳士である。
「視察の準備が整いました、市長。…っと失礼、元首閣下」
 彼の失言に、細身の紳士は穏やかに微笑んだ。すらりと背が高く、口ひげを整えた理知的な風貌は、政治家というよりも科学者と言ったほうがぴったりくる。
「今では君が市長だよ。…とはいえ、30年以上もその職についていれば、市長と呼ばれてつい返事をしそうになる」
「さ、時間がありません。早くこちらへ」
 元首閣下と呼ばれた細身の紳士は、もう一度、名残惜しげに大きな窓の景色を振り返った。

「失礼ですが閣下、今がどういう時かわかっていらっしゃるんですか?」
 リムジンに乗り込むなり、軍服姿のがっちりした男が詰問するように言った。
「…ああ」
「ではなぜこの丸腰同然の旧首都に、閣下ご自身がお忍びでいらっしゃる必要があるんです?」
 しきりとハンカチで汗を拭いながら、ようやく現市長が口を挟む。
「デヴァン中佐、失礼ではないかね。ゴモン元首閣下に対して、遠慮もなくズケズケと…」
「…と言うことは、君もそう思っていたわけだ」
「い、いえ市長、いや元首閣下…」
 ゴモン元首は微笑を消すと、ゆっくりとした低音で噛みしめるように言葉を紡いだ。
「これは、私個人の単なる感傷だ。君たち、とくに駐留軍のデヴァン中佐には、すまないと思っている」
「それは、我々『自由都市』防衛部隊を信頼してくださっておられる、と解釈してよろしいですかな?」
「もちろんだ。君たち防衛部隊がいるからこそ、私もこんな無茶が出来るのだよ」
「まったく、無茶ですな」
 デヴァン中佐は仏頂面で言ったが、自分の部隊を誉められたことについては、まんざらでもなさそうだった。


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