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白銀の騎士(3)第1話 act.3

前回の話

1.自由都市(フリーダムシティ) act.3

 ゴモン元首が乗るリムジンは、彼が感慨深げに見下ろしていた、あの巨大な白い建造物の入り口に吸い込まれていった。
 正式名称は「『自由都市』中央特別研究棟」。敷地は野球ドームを少し上回るほどだろうか。
 ここは文字通り、かつては『自由都市』の最も活気に溢れていた中心であり、気鋭の研究者たちの殿堂であった。

「お久しぶりです、ゴモン先輩(ドクター・ゴモン)」
 そう言って迎えに現れたのは、埃っぽい白衣を纏った中年の技術者だった。
「施設システム主任のカク・シュジーンです。あいにく、手を空けられるものが私しかおりませんで」
 よほど忙しいのだろう。髪はボサボサで、うっすら無精髭が生えている。
「先輩(ドクター)はよしてくれ、カク君」
 元首は主任技術者と親しげに握手を交わしながら言った。
「今では進歩した技術についてゆけないよ、論文を読む時間もなくてね。博士号は返上せにゃならんな」
「シュジーン博士、できれば手早くご案内願いたい。閣下はお忙しいのです」
 市長が口を挟むと、主任技術者の表情が強ばった。
「そう、そのお忙しい時になぜ、このプロジェクトを見に来る必要があるんです? あなたもだ、市長」
 市長、次に並んで立つデヴァン中佐を指して続ける。
「中佐もこんな所にいる場合ではないでしょう。都市防衛軍には、このプロジェクトが完成するまでは、ここを死守して貰わねばならないはずですぞ!」
 憤りに震える主任技術者の肩に、元首がそっと手を置いた。
「全て私のわがままだ。君たちも死ぬほど忙しい時に、すまないと思っている。だが…どうしても、最後にこの都市(まち)をじっくり見ておきたくてね」
「…こちらへどうぞ」
 主任技術者は、不服そうにしながらも先頭に立って案内を始めた。

 研究施設の中心が月面裏側の新首都に移ってしまった今、ここに残っている者は少ない。だが、忙しく立ち働く技術者たちは皆、異様な熱意を持って仕事に取り組んでいるようだ。
「最後に…ですか。やはり、あなたはこの都市を放棄するおつもりなんですね」
 寂しげなシュジーン博士の質問に、元首は答えない。
 代わりに市長が答えた。
「すでに、最盛期800万を超した住民の8割以上は、安全な新首都へ疎開を済ませています」
「…わかっています。そもそも、この『自由都市』は『他国からの攻撃』を想定してつくられたコロニーではない」
 初めから、こんな攻めやすく守り難い都市を“首都”とすることに無理があるのだ。
 西暦時代から少しずつ手を加えて使われてきたコロニーなので、脆い箇所はいくらでもあったし、気密ドームの形も不規則に発展を重ねた連結の集合体なので、防衛にはまるで向いていない。
「それでもあえて、あなたはこの『自由都市』を首都として独立宣言を行った」
「…そうでもしなければ、あの新国際連合に我々の理想を伝え、独立を認めさせることはできないだろう」
「…わかっています。わかっていますが…。」
 半年ほど前のことになる。
 ここで9期目の任期を務めていたゴモン市長は、他の主要な月面都市とひそかに同盟を結んだ上で、新国連に対し、各都市を自国の植民領とする国々からの独立を宣言したのである。
 自由と平等、決して兵器を作らないという平和への意志を持つ、伝統ある都市。
 しかも『自由都市』始まって以来の名市長と呼ばれるゴモン市長が、ここから発したメッセージは強く人々の心を揺さぶった。
 ゴモンという人物には、そういった天才的政治センスが備わっていたのである。

「着きました。ここがその中央特別実験室です」
 IDカードと虹彩認証、さらにキーコードを打ち込んでシュジーン博士は扉を開けた。
 両開きの広大な搬入扉から、まばゆい光が漏れてくる。
「おお、これは…」
「なんと…うつくしい」
 そこには、巨大な人型戦闘機が立てられていた。
 白に近いシルバーメタルをベース色にした、細身の鎧騎士のような輝かしい姿。
「博士、これはもう起動できるのではないかね!?」
 中佐がシュジーン博士に掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ。
「起動だけならできますが、ほぼ誰も操縦できません。まともには」
「何ですと!?」
「今、そのための調整を行っているんです。明日は、あなたの隊からも例の優秀なパイロットを派遣して頂きたいのですが」
「了解した。あの中尉なら大丈夫でしょう」

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