白銀の騎士(13)第5話 act.1
前回の話
5.陽炎の記憶 act.1
コウは気がつくと、父さん、母さん、と叫びながら半壊した研究施設に飛び込んでいた。
周囲の気温がかなり上がっているらしく、赤く照らし出された景色が陽炎に揺らいでいる。
この施設には母に何度か連れて来られたことがあったので、IDカードがなければ開かない扉が多いことはよく知っていた。
「あの時は確か…」
廊下を少し行った横手の、ややわかりにくい場所にある守衛室に駆け込む。
幸い誰もおらず、扉も開け放たれていた。一応、ゲスト用IDカードをいくつか拝借する。
「どこまで行けるかわからないけど…」
両親は研究者として優秀であり、チームのセクションでは主任クラスを務めていたはずだ。
必ず施設の中央実験室付近にいるに違いない、と確信していたコウは、迷わず電気の止まった中央通路をひた走った。
ここには何度か来ているので、中央実験棟までの道はほぼわかっている。
その時は確か新型体感シミュレーションゲーム機のテストプレイとかで、簡単な体力測定のあと、そう面白くもない何パターンかのシューティングゲームを少し遊んだ。
ゲーム機も最初は仮付けっぽい作りだったが、行くたびにコントロールパネルが立派になっていたような記憶がある。
開発段階のゲーム機だからと、テストプレイの事はもちろん、研究施設に入ったことまで、友達にも言わないように、と固く母に口止めされた。
あるとき、1ゲーム終わってゲーム用のヘルムモニターを外そうとした瞬間、ふいに研究員の言葉が耳に入った。
「何者なんですか、この息子さん?」
「私の息子よ。知ってるでしょ?」
「そうじゃなくて…。普通の少年を連れてきてくださいよ」
「あら、ごく普通の子よ。成績だって普通だし、体力測定も見たでしょ?
たしかにまあ、運動神経はいい方かもしれないけど、一流アスリートになるのは無理。
こないだの学生カラテ大会でも4位止まりだったもの」
母さん、いくら気心の知れた仕事場の同僚だからって、そこまで言わなくても。
コウは内心むっとしたが、母の同僚が何を言いたいのかが気になって、聞いていないふりをした。
「じゃあ、このデータはどういう事なんですか? まさか息子さん、体感ゲームの達人だとか…」
「そんなわけないでしょ。ゲームより部活の方が性に合ってるって子だもの。
それに、これに必要なのは反射神経だけじゃないの」
「わかってますよ、冗談です。でも、これじゃ参考データになりませんよ…」
「するのが私たちの仕事でしょ。いい? これの適性者はたった1人でいいの。
前のあれと違って、できるだけ多くの人が扱えるようになんて配慮は必要ないんだから」
「はあ。しかし…」
「たぶん、コウだけじゃない。
あくまで仮説だけど、これくらいの資質を持つ若い子は少なくないと思うの。
探せばいるはずよ、必ず」
「必ず、ですか…。でも、平均とはずいぶんかけ離れてますよね」
「彼らは『慣れ』が邪魔してるのよ、あれを普段使ってるから。身体と感覚があれと同じだと思って反応しちゃうからダメなんだと思うわ。その点、コウはまっさらだから」
「そのいわゆる『まっさらな少年』が、彼に近いデータを出した事ってありました?
少なくとも今までのデータ上では『慣れ』のある軍人さんの方がずっと…」
「しっ。直接的な表現は禁句だって知ってるでしょ」
「はっ、すみません。しかし、僕にはコウ君が特別だとしか思えませんよ」
「コウだけじゃない、他にもいるわ。必ずね」
「いっその事、コウ君をあれに乗せちゃえばいいんじゃないですか?」
「それだけは駄目。コウは絶対に乗せないわ」
その時の母の口調は、こっそり盗み聞いていたコウでさえ肝が冷えるほどの剣幕だった。
「この話は終わりよ。次にコウを乗せるなんて言ったら、あの子のデータを全て破棄するわ」
母の同僚は黙り込んでしまったようだった。
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