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白銀の騎士(10)第3話 act.3

前回の話

3.緊急事態 act.3

 新国連軍は、無防備な『自由都市』を一瞬で無血制圧した。
 メインとなる宇宙港の3つ全てが制圧されたという時点で、すでに勝敗は決している。
 ほどなく、都市防衛部隊の駐留基地にも、新国連軍からの通達が送られてきた。
 彼らの要求はこうだった。
 まず、市内の警察および軍人には、速やかな軍備の放棄を求める。
 そして基地に対しては、人型戦闘機を含む重要軍備の放棄と、速やかな退去を要求してきた。
 
 この通信に応答したのは、当然のことながらヘタレ中尉である。
 通信を入れてきたイータ大佐という人物は、何か内心焦っているような、それを隠すためのようなあやうい尊大さを感じさせた。
「デヴァン指揮官を出せと言ったはずだが?」
「あいにくデヴァン中佐は不在で、現在、わたしが当基地の指揮を任されています」
 チッと舌打ちの音がした。この生意気な若造が、くらいに思われているのだろう。
「まあいい。名は?」
「イチビリーノ・ヘタレ中尉です」
「バサミー・イータ大佐だ。ともかく、君たちには一刻も早く主要軍備を捨てて退去してほしい。そうすれば、君たちが退却する際の安全は保証する」
「その主要軍備とやらには、当然、我が軍の人型戦闘機も含まれるのでしょうね?」
「当然だ。他に何がある」
 ヘタレ中尉は腹をくくった。
「そのような要求には応じられません。そちらこそ速やかに都市を退去し、民間人の居住地を離れた場所での戦闘を要求します」
「応じられないだと? コロニーが攻撃されれば、貴様だってただでは済まないのだぞ。いやでも要求に応じていただく。さもなくば…」
 新国連軍士官イータ大佐の声は上ずっていた。
 おそらくコロニーを攻撃してただで済まないのは彼の方だろう。いや、攻撃してもしなくても、都市防衛軍が要求に応じない場合ですら、彼の責任問題となるに違いない。
「さもなくば、どうするのですか? 仮にも人類の平和と正義を標榜する新国連軍が、歴史ある都市コロニーを攻撃し、一般市民を虐殺するとでも?」
 おそらく怒りに言葉を失ったのだろう、数秒の沈黙のあと、血を吐くような捨て台詞を残して通信は切れた。
「…後悔するなよ!」

 ヘタレ中尉は愛機に乗り込む直前、少しうつむいて眉を寄せた。
「時刻は深夜であり、かつ避難命令も出されているため、施設を破壊しても人的被害はない」
 そう説明したことで、部下の都市連盟軍兵は、命令に疑いを持つこともなく徹底的に施設を破壊し尽くすだろう。
 “あれ”の存在を跡形もなく、主要開発者とともに消し去るために。
 本当にいいのか、これで?
 すぐに顔を上げ、軽く頭を振る。わかっているはずじゃないか。これが最善の方法なのだ。
 国のために、そして我々の…いや私の悲願でもある、理想の人類社会を実現するために。

 ほどなくして、ドームの緊急用隠しハッチから、ゴモン軍の人型戦闘機2機が進入した。
 たいした火力を持たない新国連軍の戦車を空箱のように踏みつぶしながら、コロニー中央のひときわ大きな白亜の建造物を目指して進む。
 だが、いかに強力な『黒騎士』とはいえ、絶え間ない近距離からの攻撃にさらされては限界がある。
 ヘタレ中尉は巧みに敵戦車の砲身をへし折りながら、部下に通信した。
「私が援護する。チャック、お前は射程距離まで進んだら、ただちに“グランドビーム”を目標に撃ち込め」
 この部下は多少度胸に欠けるところがあるが、射撃の腕だけは抜群だ。
 こと射撃に関してはいい意味のプライドもあるし、本番にも強い。任せて大丈夫だろう。
「わかりました。中心に1発ですね」
「それではだめだ。2発…いや3発、4発も撃てば確実だろう」
「あの…失礼ですが、そんなに撃つ必要があるのですか?」
「必要だ。だが、2発で破壊できればそれに越したことはない」
「し、しかし中尉、“グランドビーム”は最大でも2発までしか…」
「私のエナジーシリンダーを使え。念のために予備も用意してあるから、最大6発まで撃てる」
「はあ。しかしそれでは、ドームが…」
「下方に向かって撃ちこむんだ。標的施設は地下シェルターを含め、全区域で避難命令が出ている」
「中に人はいないんですよね。なら、思いきり撃てます」

 だが、施設には避難命令など出されていなかった。
 特に中央実験室付近はシェルター並の頑丈さで設計されており、なおかつ、味方の都市防衛軍が、完成まであと1歩という最新人型戦闘機をテスト中である研究施設を破壊するはずなどない、と、夜を徹して施設に詰めていた主要研究員の誰もが信じて疑わなかったのである。


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