白銀の騎士(16)第6話 act.1
前回の話
6.白銀の騎士 act.1
そういえば、駆けている間に、いくつものゲートを走り抜けた。
母がIDカードを差して暗証キーを打ち込まなければ開かないゲートもあったはずだ。
廊下脇に部屋や扉がいくつもあったが、壊れていない場所は全て無防備に開け放たれていた。
おそらく、生きている扉のロックを全て解除し、無効化したのは父だろう。
言いたいこと、聞きたいことは山ほどあったが、ありすぎて口から出てこない。
「よかった…。母さんは?」
「中にいる。だめだ、どうやってもメイン実験制御室は扉が歪んでしまったようで開かない。くそっ…!」
「そんな…何か手はないの? 壁を壊すとか…」
「あそこの壁を簡単に壊せると思うのか? シェルター並の強度なんだぞ。
それこそ“BN(ベーヌ)”でも持ってこないと…」
「…『ベーヌ』?」
「ああ、『黒騎士』の開発コード名だ。来たんだろう、あれが」
「うん。あいつらが…なんで、ここを…」
「2機もいるのか。で、撃ったんだな、“グランドビーム” …あの大きなライフルを。
あの隔壁を壊せるのはあれくらいしかない」
父が指したのは、あの目覚めたばかりの白銀の騎士が覗く壁だった。
そして不意に、そうか、あれだ、と父は叫んだ。
「時間がない。コウ、お前はこれを持って逃げなさい」
父は持っていたアタッシュケースをコウに押しつけて言った。ずっしりと重い。
「何なの、これ?」
「とりあえず、いま手元にある重要データだ。耐熱対ショック防護だから重いが、お前なら走って逃げられる。これを、新国連軍に渡しなさい」
「えっ、敵に?」
「俺はゴモンに復讐してやる。人類の理想のために、研究に尽くしてきた我々を、あいつは虫けらのように…!」
「と、父さんは?」
「『あれ』でなんとか壁を壊して、母さんを助ける。
俺みたいな平均以下のボンクラに、まともに動かせるかわからんが…それしか手がない」
「まって、父さん!」
「時間がないと言ってるだろう! 2発目が来たら全て終わりなんだぞ!」
「僕が乗る。まずレスキューモードで救助。それから『黒騎士』をサーチ、ここを出てムーブ、足止めしてあれを撃たせないようにする。それでいいんだよね?」
「ばか、無理だ。何回かテストしたくらいで出来る気になってるんじゃない。
あれは優秀な飛行兵だって難しいんだぞ。あの15歳の天才少年でもなけりゃ…
15歳…まさかコウ、お前…? スコアは覚えているか、総合平均点だ」
「173、187、198、204…だったかな、確か」
「やったぞ、神は存在する!」
無神論者の父が天に手を掲げて叫び、コウの手を両手で握りしめた。
「今、仮に設定してある起動キーコードは…」
コウにはすぐに覚えられる番号だった。
「いいか、“グランドビーム”は絶対にまともに食らうな。
機体は耐えられるが、中の人間がもたない。
回避できなければ盾を使うか…間に合わなければ手か足を犠牲にしてもいい。とにかく、体幹の操縦席と動力源、メイン解析システムのある頭部だけは守れ。
それから、乗ったらまずセーフティモードを解除しろ。それでお前の全力が出せる」
早口でまくしたてると、父はコウからアタッシュケースを引ったくって踵を返した。
「母さんを頼む。ここを守ってくれ。俺はゴモン軍の非道を、新国連に告発する」
それが、コウが最後に見た父の姿だった。
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