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優しかった人ほど、遠慮していたことにあとから気づく

席替えをした日の午後、

新しく窓際へ移った人が、

小さな声で言いました。

「ここ、冷房がずっと当たりますね」

その席には以前、

夏でもカーディガンを羽織り、

膝掛けを置いている人が座っていました。

けれど、その人は一度も、

「寒い」

とは言いませんでした。

席を替わろうかと聞いても、

いつも、

「私はここで大丈夫です」

と笑っていました。

寒さに強い人なのだと思っていました。

その人が移動したあとで、

初めて違う見え方が浮かびました。

平気だったのでしょうか。


空気説明


その席は、

人の出入りが少なく、

仕事に集中しやすい場所でした。

ただ、

冷房の風が直接当たりました。

夏になると、

誰かが一度は、

「そこ、寒くないですか」

と聞いていました。

そのたびに、

その人は顔を上げ、

笑って答えました。

「大丈夫ですよ」

それ以上、

会話は続きませんでした。

寒いと言われれば、

席を替える話になったかもしれません。

けれど、

「大丈夫です」

と言われると、

こちらも安心しました。

椅子には厚い座布団があり、

机の横には、

夏でもカーディガンが掛けられていました。

それも本人なりの工夫だと思っていました。

遠慮だったのかもしれないと気づいたのは、

別の人が同じ席に座ったあとでした。

温度差観測


こちらから見えていたのは、

何度聞いても、

嫌な顔をせず「大丈夫です」と答える人でした。

予定が変わっても、

「分かりました」

忙しい時に声をかけても、

「大丈夫ですよ」

席について聞いても、

「ここで平気です」

不満をためているようには見えませんでした。

相手にとっても、

席を替えてほしいと言うほどではなかったのかもしれません。

誰かに手間をかけてもらうなら、

一枚羽織れば済むと思っていた。

本当に、

それだけだった可能性もあります。

遠慮はいつも、

苦しそうな顔で現れるわけではありません。

「これくらいなら」

「わざわざ言うほどではないから」

そうやって、

本人の中で静かに片づけられることがあります。

二人の間には、

言わない人と、

言われなかった人がいただけです。

相手が笑って答えたから、

こちらは安心した。

それ以上聞かれなかったから、

相手もそのまま過ごした。

そのやり取りが重なるうちに、

「大丈夫な人」

という印象だけが残ります。

けれど、

別の人が同じ場所で、

「寒いですね」

と口にすると、

過去の場面が少しだけ動きます。

机に掛けられていたカーディガン。

夏にも使っていた膝掛け。

何度聞いても返ってきた、

「私は大丈夫です」

あの人は、

寒くなかったのではなく、

寒いと言わない方を選んでいたのかもしれない。

その時は優しさに見えたものが、

時間がたつと、

遠慮を含んでいたように見えることがあります。

優しさの中にあった遠慮は、

あとからの方が見つけやすいのかもしれません。

ここまで読んで、
思い当たることはありましたか。
ここで少し整理してみます。

ちょっとあるある


・いつも「どちらでもいい」と言っていた人の好みを、今もよく知らない。

・譲ってもらった記憶はあるのに、その人が選んだ場面はあまり思い出せない。

・「大丈夫」と言われるたび、本当に大丈夫なのだと安心していた。

・その人がいなくなったあと、別の人が初めて不便を口にした。

空気診断

答えを探すより、
今の気持ちを並べてみてください。

【タイプ A】

「あの人は何でも気にしない人だった」

その記憶が、

今は少し違って見えています。

【タイプ B】

「大丈夫」という返事を聞いたところで、

安心して話を終えていたことがあります。

【タイプ C】

譲ってもらったことは覚えています。

けれど、

その人が本当は何を選びたかったのかは、

あまり思い出せません。

【タイプ D】

遠慮されていたと決めたいわけではありません。

ただ、優しさの中に、

言わなかった気持ちもあったのかもしれません。

【タイプ E】

今そばにいる「大丈夫な人」の希望を、

少しだけ聞き直してみたい気持ちがあります。

こんな返し方もあります

正解ではありません。
今の距離感に近いものがあれば、一つだけ持ち帰ってください。

① やわらかめ

「大丈夫かどうかより、今日はどうしたいか聞いてもいい?」

相手の「大丈夫」を否定せず、

希望を言ってもよいことを伝える聞き方です。

答えを急がせない空気も残ります。

② 少し自然に

「今日は、そっちの希望も聞いてみたいな」

選ぶ役目を押しつけず、

相手に全部を決めてもらうのではなく、

まず希望だけを聞く返し方です。

会話の流れも止めません。

③ 仲が良い相手向け

「今日はそっちの希望を先に聞かせて。思いつかなかったら一緒に決めよう」

親しい相手に、

希望を言ってもよい順番を渡す言葉です。

決めきれない時の逃げ道も残ります。

④ 空気をやわらげる

「私ばかり選んでる気がするから、今日はお願いしてもいい?」

相手ではなく、

自分の気づきとして伝える返し方です。

遠慮を見抜かれたような緊張を減らせます。

⑤ 少し違う見方

「今すぐ決めなくて大丈夫。思いついた時に教えて」

その場で答えを求めず、

考える時間を残す返し方です。

希望を言い慣れていない相手にも向いています。

こんな返しは少し気をつけたい

同じ言葉でも、
相手によって受け止め方は少し変わります。

① 強く聞こえやすい

「本当は嫌だったんでしょ?」

確かめたい気持ちから出る言葉ですが、

相手によっては、

本音を問い詰められたように感じることがあります。

② 誤解されやすい

「もっと早く言ってくれればよかったのに」

悪気はなくても、

言えなかったことを責められたように受け取る人もいます。

③ 相手を急がせやすい

「これからは何でも言ってね」

安心させる言葉でも、

すぐ変わることを求められたように感じる場合があります。

④ 理由を求め過ぎやすい

「どうして何も言わなかったの?」

理由を知りたい時の言葉ですが、

相手によっては、

当時の気持ちを説明する負担が生まれます。

⑤ 距離感によって変わりやすい

「遠慮なんてしなくていいのに」

親しい相手には安心につながっても、

遠慮していたと決められたように感じることがあります。

最後に、少しだけ


あとになって思い返すと、

優しかった人の記憶が、

少し形を変えることがあります。

遠慮だったのかもしれません。

本当に平気だったのかもしれません。

その答えを、

無理に一つへ決めなくてもよいのだと思います。

ただ、

「優しい人だった」

という記憶の中に、

その人が言わずに引き受けていたものもあったのかもしれません。

そう考えると、

同じ思い出が、

違って見えることがあります。

この話が少し気になった方へ。
やわらか返信室では、
現在は主に4つの企画を書いています。


📮少し昔の相談員が現代の悩みに答える話


📰編集部がどうでもいいことを真面目に考える雑誌


🌙生活の途中で思い出す、景色や気持ちの話


📖人間関係の小さい温度差を観察する話


もし今回の記事が少し気になったら、

他の企画や自己紹介ものぞいてみてください。

どこかで、自分だけだと思っていたことに出会えるかもしれません。

最後にひとつだけ


優しかった人は、

何も望まなかった人ではなく、

望む前に少しだけ引いていた人だったのかもしれません。


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