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「慣れれば大丈夫」だと思っていた

習い事へ行く前になると、 息子の空気が変わった。
さっきまで普通にしていたのに、 急に黙る。
固まる。
「行きたくない」 が、 ぽつりと出てくる。
そのたびに私は、 「慣れれば大丈夫」 と思っていた。

スイミングに通っていた頃のことだ。
息子は、 ちゃんとやろうとしていた。
それは分かった。
先生の話を聞いて。
みんなと同じように並んで。
同じタイミングで動こうとしていた。

でも、 見ていると、 少しずつ消耗していった。
一斉に進む空気の中で、 息子はずっと、
周りを確認していた。

みんなは、 どうしてる。
次は、 何をする。
自分は、 ちゃんとできてるか。
泳ぐより先に、 空気を読んでいた。

悪い場所じゃなかった。
先生も、 他の子たちも、
特に何かがあったわけじゃない。

ただ、 みんなと同じペースで、 同じことをやる。
それだけだった。

でも息子は、 そこにいるだけで、
少しずつ疲れていくように見えた。
「慣れれば大丈夫」 と思っていた。

でも。
慣れていく様子が、 なかった。

その頃の息子は、 どこかずっと、 緊張していた。

うまくできるかな。
みんなと同じように、 できるかな。
遅れないかな。

そんな空気を、
ずっと身体に入れている感じだった。

もちろん、 笑う時もある。
楽しそうに見える瞬間もある。
でも、 何かに夢中になっている時の顔とは、
少し違った。

“楽しむ” より先に、
“ちゃんとやらなきゃ”
が来ている感じだった。

この子は、 やる気がないわけじゃない。
ちゃんとやろうとしている。
それは、 ずっと見ていて分かっていた。

ただ。
その場の空気に、 合わせ続けているうちに、
息子の表情が、 少しずつ、
閉じていく気がしていた。


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この話は「この子に合う場所を探していた」シリーズです。
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