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「だって、みんな入れるでしょ。」


広い芝生のグラウンドの中、
みんなが一つのボールを追いかけていた。
でも、息子だけは違った。
ゴールの前へ走っていく。

息子が四歳の夏のことだった。

コロナ禍が少し落ち着き、ようやく外で
思い切り体を動かせるようになった頃。

練習が終わると、ターザンロープで遊んで帰る。

そんな、のんびりしたサッカー教室だった。

でも、息子は最初から、
みんなと同じようには動けなかった。

コーチに「ドリブルしてみよう」と
声をかけられても、輪の中へ入らない。

私は隣に立って、一緒にボールを蹴りながら、

「上手だね。」
「いいね。」

そう声をかけ続けていた。

だから私は、
「この子は自分のペースで動くのが好きなんだな」と思っていた。

サッカーそのものには、
あまり興味がないのかもしれない。

みんなが夢中で一つのボールを追いかける中、
息子は少し離れた場所に立っていた。

最初は、何をしていいのかわからない様子で、
くるくると回ったり、
ぼんやり立ち止まったりしている。

「今日もマイペースだな。」

そんなふうに眺めていた。

でも、何度か通ううちに、
その姿が少しずつ変わっていった。

くるくる回っていた息子が、
今度はじっと試合を見つめるようになった。

みんなを見ているだけだと思っていた。
でも、そうじゃなかった。

ある日、私は気づいた。

息子は毎回、
先回りしてゴールの前へ走っていくのだ。

最初は偶然だと思った。
でも違った。

相手がシュートを打とうとすると、
その前へ立ちはだかる。

ボールを止めようとする。

それを何度も繰り返していた。

練習にはなかなか入れないのに、
ゲームになると、自分からそこへ向かう。

気になって、私は聞いてみた。

「みんなはボールを追いかけているのに、
どうして1人でゴールの前にいくの?」

私が聞くと、息子は、少し得意そうに答えた。

「だって、みんな入れるでしょ。
だから、入れさせないの!」

「へえ。」
思わず声が漏れた。
そういうふうに見ていたんだ。

でも、この日の驚きはそこじゃなかった。

誰かに教えられた役割を覚えたのではない。
みんなの動きを見て、
自分で必要な役割を見つけていた。

四歳の夏。
芝生のグラウンドで、小さな背中が一人、
ゴールの前に立っていた。

あの景色を、私はきっと忘れない。



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