何で大人にならなきゃいけないの?
その夜、息子は泣いていた。
最初はぽろぽろだった。
でも、一度こぼれ始めると止まらなかった。
「何で大人にならなきゃいけないの?」
そう言って泣いた。
私は隣に座っていた。
「なんでって、、、うーん。」
ならなきゃいけないというより、
自然にそうなるものだし、そう言われてもなあ、
私は返答に困った。
「だって、ママが死んだら一人で生きていかなきゃいけないじゃん」
涙が次々に落ちていく。
「栄養管理とかもしなきゃいけないし」
「仕事だって何したらいいかわかんないし」
「食べていけるかわかんないし」
言葉が途切れる。
また泣く。
「怖いよ」
そう言って顔を伏せた。
また、始まった。
これ、何回目かなぁ。
なにがきっかけなのかは、未だにかわからない。
子どもらしい不安ではなくて、
もっと大きな何かに
飲み込まれているように見えた。
成長すること。
親と離れて生きること。
いつか一人になること。
そんなものが急に
現実味を帯びてしまったみたいだった。
「大人になりたくない」
息子はもう一度言った。
そして、
「赤ちゃんに戻りたい」と続けた。
「タイムスリップできたらいいのに」
私は何と言えばいいかわからなかった。
だから隣にいた。
しばらくして、「頭なでて」と言われた。
いつものことだった。
布団の上でゴロリとしている息子の前髪を
手のひらでそっとなぞるように撫でた。
すると、「違う違う」と言う。
「そうじゃない」
どうやら違ったらしい。
息子は私に背中を向けた。
「ここから」つむじを指さす。
「ここから、こう」指が首の後ろへ向かう。
私は言われた通りに手を動かした。
つむじから首へ。
ゆっくり。
何度も。
また、つむじから首へ。
「そうそう」
息子が小さく言った。
私はそのまま続けた。
何度も。何度も。
泣いていた息子の呼吸が、
少しずつゆっくりになっていく。
肩の力も抜けていく。
その様子を見ながら思った。
人は安心したい時、
言葉だけじゃないのかもしれない。
抱っこだったり。
背中だったり。
頭をなでることだったり。
そういうもので安心を探すのかもしれない。
十歳になっても。
いや、十歳だからこそなのかもしれない。
途中で歯磨きだけはさせた。
泣きながら洗面所へ行って、
泣きながら戻ってきた。
それからまた、
「なでて」と言った。
私は言われた通り、
つむじから首へ向かって手を動かした。
何度も。
何度も。
しばらくすると、
息子の呼吸はすっかり落ち着いていた。
いつの間にか目も閉じていた。
私はその頭を、もう少しだけなで続けた。
𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸 𓂃𓈒𓏸
安心して神経を休められる場所。
それは子どもだけじゃなく、
大人にも必要なのかもしれません。⏬️
行き渋りシリーズ第一話
⏬️
#子育て #お母さん #子どもの不安 #親子の夜 #名もなき育児#子どもの成長を感じるとき
いいなと思ったら応援しよう!
記事を読んで応援したいと思っていただけたら、とても励みになります。いただいたチップは執筆活動に大切に使わせていただきます。