「100%大丈夫」と言ってくれる人は、いなかった|妊娠中・授乳中の薬との付き合い方
薬剤師をしていると、妊娠中や授乳中の方から薬の相談を受けることがよくあります。
「本当に飲んでも、お腹の子に影響はありませんか?」
「この薬を飲んでいる間、授乳はどうしたらいいですか?」
毎日のように向き合っている質問です。
答えられる知識も、調べる手段も持っています。
それでも、自分が妊娠したとき、
私は薬が怖くて仕方がありませんでした。
医療においては100%安全と断言することはできません。もちろん、妊娠中の薬についても「100%安全」と言い切ることは難しい。
それを知っているからこそ、怖かったのだと思います。
薬に囲まれた職場で働きながら、妊娠していた
調剤の仕事では錠剤を粉砕したり、粉薬を扱ったりする機会が少なくありません。
作業をすれば、細かい粉が舞います。
その空気を私も吸っています。扱う薬の中には、妊娠中の方が飲んではいけないものもあります。
頭では分かっていました。
作業のときに吸い込む量で、お腹の子に影響が出る可能性は低い。でも、「絶対にゼロです」と言い切れる根拠を、私は持っていませんでした。
だから、できることはしました。
マスクを二重にして、目にはゴーグルをつけて、粉砕作業をしていました。
それでも、不安は消えませんでした。
職場に妊娠を報告したのは、安定期に入った16週のころです。それまでは、いつもと同じように働いていました。
報告したあとは、粉砕や扱いに注意が必要な薬をほかの人が代わってくれました。
拍子抜けするくらい、あっさりと。
もっと早く言えばよかった、と思いました。
誰かに止められていたわけでも、言いにくい空気があったわけでもありません。言わなかったのは、私です。
不安を抱えたまま働いていた数週間は、自分で作ってしまった時間でした。
妊娠中に、コロナにかかった
上の子を妊娠していたとき、私は新型コロナウイルスに感染しました。まだ分かっていないことが多く、自宅での隔離が必要だった時期です。
部屋にひとり。食事はドアの前に置いてもらう。
夫との会話は同じ家にいるのにLINE。
その部屋で私はずっと検索していました。
「妊娠中 コロナ 影響」
「コロナ 妊婦」
「コロナ 赤ちゃんへの影響」
言葉を少しずつ入れ替えては、また検索する。
何時間もそれを繰り返していました。
でも、私が欲しい答えは出てきませんでした。
私の調べ方が悪かったわけではありません。そのころはまだ、妊娠中の感染が赤ちゃんにどこまで影響するのか、分かっていないことも多かったのです。
熱が出てから、発熱外来をひとりで受診しました。誰にも付き添ってもらえない状況だったので、そのまま自分で薬を受け取って帰りました。
処方されたのは、解熱鎮痛薬が一種類だけでした。
決め手は「飲まないリスク」だった
私はもともと、あまり風邪をひかないほうです。
自分の体は丈夫だという自覚もありました。
だから妊娠したときも、できるだけ薬を使わずに過ごしたいと思っていました。
少しでも不安が残るなら、飲みたくない。
そういう気持ちでした。
実際、軽い鼻水や少し熱っぽい程度のときは、飲まずに過ごした日もあります。眠れば治りました。
ただ、それは「妊娠中は我慢するのが正しい」と思っていたからではありません。そのときの私にとっては、飲まないほうに天秤が傾いた、というだけのことです。そして、たまたま私の場合はそれで済んだ、というだけの話でもあります。
コロナのときは違いました。
体がしんどくて、どうにもなりませんでした。
そのとき、医師に言われた言葉があります。
「ママの体がしんどいと、
お腹の赤ちゃんもしんどくなりますよ」
呼吸の状態が悪くなれば、そちらのほうが赤ちゃんに影響する。そう考えて、私は薬を飲むことを決めました。
天秤の反対側に、はじめて「飲まないリスク」という重りが乗った瞬間でした。
飲まない選択も、飲む選択も、同じ天秤で測った結果です。片方だけが正しかったわけではありませんでした。
授乳期になって、少しだけ息がしやすくなった
妊娠中と授乳中では、不安の質が違いました。
妊娠中に使う薬は、種類によって胎盤を通して赤ちゃんに届く可能性があります。自分ではその影響をコントロールできないように感じていました。
一方、授乳中は医師と相談して、一時的に授乳を止めるという選択肢もあります。
自分で選べる余地がある。
ただそれだけのことで、私はずいぶん息がしやすくなりました。
下の子を妊娠しているとき、虫歯が見つかりました。
私の場合は妊娠中のため治療を見送ることになり、しばらくそのまま過ごしました。見つかってから治療を始められるまで、結局1年ほどかかりました。
普段は痛みません。ただ、刺激があるとしみます。だから奥歯をかばって、反対側で噛むようになりました。うがいも歯磨きも冷たい水がしみるので、ぬるま湯を使うようになりました。
最後は虫歯が悪化して、熱が出ました。
さすがにもう無理だと、治療を決めました。
このときは自分の体を優先しました。
親知らずだったので抜くことになり、抗菌薬が必要になりました。飲むのは1日だけ。医師から一時的に授乳を止めるよう指示があり、私はその通りにしました。
その日は、搾乳とミルクで乗り切りました。
つらかったのは、痛みよりも罪悪感のほうでした。ほとんど母乳で育ててきたので、今日は母乳をあげられない、と思うと落ち着きませんでした。
それでも乗り切れたのは、ミルクという選択肢を残していたからです。私の場合は、母乳だけにしていたら、この日はもっと大変だったと思います。生後半年まで来ていて、離乳食からも栄養が少し取れるようになっていたことにも助けられました。
選択肢を残しておいたことが、あとになって効きました。
なお、薬と授乳の考え方は薬の種類や赤ちゃんの月齢、その人の状況によっても変わります。
薬を飲んだからといって、必ず授乳を止めなければならないわけではありません。続けるか止めるかを自己判断せず、医師や薬剤師に確認してほしいと思います。
「絶対に大丈夫」は、誰も言えない
私は受診のときも、薬局でも、妊娠中・授乳中であることを必ず伝えていました。
そして医師の説明を聞いて、処方箋を受け取ったあと、薬局へ行く前にもう一度、自分で調べていました。
そこで気づいたことがあります。
私が欲しかった「100%大丈夫」という答えは、どこからも返ってきませんでした。専門家である私が自分で調べても、その答えには行き着けませんでした。
医師や薬剤師が不親切だからではありません。
医療に「絶対」と言い切ることが難しいからです。
100%さえあれば安心できるのに。
あのころ、何度もそう思いました。
結局、医師や薬剤師から情報をもらったうえで、最後に私がしたのは、リスクとベネフィットを自分の中で天秤にかけることでした。
そして薬を飲むと決めたとき、私の背中を押したのは「飲まないリスク」でした。
だからといって、伝えることに意味がなかったわけではありません。
妊娠中・授乳中だと伝えたからこそ、その前提の中で処方を考えてもらえました。伝えなければ、そもそも天秤に乗せる材料がそろいません。
今も私は、同じ質問を受けます。
答える内容は、自分が経験する前と後で変わっていません。エビデンスが劇的に変わるわけではないからです。
変わったのは、不安な気持ちに具体的に寄り添えるようになったことです。
答えが出ないまま検索し続ける夜がどれだけ長いか、私は知っています。
おわりに ── あのころの私へ
薬に不安になる気持ちは、よく分かります。
でも、不安だからといって、全部を遠ざけるのは違います。
きちんと調べて、リスクとベネフィットを天秤にかけて、自分の体もいたわってほしい。あのころの自分に伝えるとしたら、その一言です。
そして、これから同じ場所に立つ方へ。
飲む前にも、飲むのをやめる前にも、どうか医師や薬剤師に伝えてください。
ひとりで抱えた不安が、少しでも軽くなりますように。

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・この妊娠と出産のあと、2年半のブランクを経て職場に戻りました。もう薬剤師には戻れないかもしれない、と思っていたころの話です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
真紀|薬剤師ライター
現役薬剤師/2児の母(3歳・2歳)/時短ワーママ
医療・育児・働き方・お金について、自身の経験をもとに書いています。
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