薬剤師ママでも、わが子に薬を飲ませられなかった|泣きながら飲ませたあの夜のこと
子どもが薬を飲んでくれない。
スプーンを近づけただけで顔をそむけられる。口に入れたと思ったら、次の瞬間には吐き出されている。時計を見ると寝かしつけの時間なのに、あと1回分をどうやって飲ませればいいのか分からなくて途方にくれる。
そういう経験のある方に、この記事を書いています。
私は調剤薬局で働く薬剤師で、3歳と2歳の子どもを育てている母親でもあります。仕事では毎日のように「うちの子、薬を飲んでくれなくて」という相談を受けています。
それでも、自分の子どもに薬を飲ませられなかったことがあります。
この記事では薬剤師としての知識と、うまくいかなかった母親としての経験の両方を書きます。飲ませ方のコツを網羅した記事ではありません。それよりも先に知っておいてほしいことがあるからです。
同じように育てた2人が、まったく違った
わが家には2人の子どもがいます。
下の子はなんでも飲みます。粉薬もシロップも差し出せばそのまま口を開ける。私が何か特別な工夫をしたわけではありません。
上の子はそうではありませんでした。薬によっては本当に苦労しました。
同じ家で、同じ親が、同じように育てています。飲ませ方を変えたわけでもない。それでも、2人の反応はまったく違いました。
薬局の窓口でも同じことが起きています。
上のお子さんで散々苦労したのに、下のお子さんはあっさり飲む。逆に、1人目で何の問題もなかったから身構えていなかったのに、2人目で初めてつまずく。上の子は粉薬が平気で、下の子はシロップしか受け付けない。
そして、思いつく限りの方法を全部試して、それでもうまくいかなくて、疲れ切った顔で相談に来る保護者の方がいます。
その顔を私は知っています。
私も同じ顔をしていた時期があるからです。
飲まない子がいて、飲む子がいる。
これは、親の努力不足だけで説明できることではありません。その子がもともと持っている、味やにおいへの敏感さ、口の中の感覚、初めてのものへの警戒心。そういうものの差です。
もし今、うまく飲ませられなくて「自分のやり方が悪いのかもしれない」と思っている方がいたら、そこは切り離してほしいと思っています。
うまくいかないことに、親の力不足ではない理由がある。まず、それだけをお伝えしたいです。
薬剤師の私が
自分の子に薬を飲ませられなかった話
上の子が、溶連菌にかかったときのことです。まだ3歳にもなっていませんでした。
処方されたのは抗生物質の嵩のある粉薬でした。抗生物質は決められた日数をきちんと飲みきることが大切だと、私は仕事として毎日説明しています。
上の子は甘いシロップやドライシロップなら飲める子でした。だから最初は、いつもと同じだろうと思っていました。
でも、粉薬になった途端に難易度が跳ね上がりました。
薬を口に入れられることを全力で拒否されました。アイスに混ぜてもだめ。ほかのものに混ぜてもだめ。私が薬剤師として知っている方法を、思いつく限り全部試しました。それでも、どれも通用しませんでした。
飲まないと治らない。それを、私は理解しています。理解しているからこそ焦りました。
最後は少量の水で練って、半ば強引に口に入れました。飲み込んでもらうために、お茶で流し込みました。そのあと好きなジュースを渡して、機嫌を取ろうとしました。
薬は、飲めました。
でも、上の子は「嫌だ!」と言いながら泣いていました。
その姿を見ながら、私は「嫌だよね、ごめんね」と言うことしかできませんでした。飲ませられた安堵と、こんなやり方しかできなかった自分への失望が同時に来ました。薬剤師として持っている知識を全部使っても、目の前のわが子に薬を飲ませることができなかった。
一緒に泣きそうになりました。
あのときの判断について、今はこう思っています。
当時の上の子はまだ3歳にもなっておらず、言葉で説得することはまだ難しかったです。治療のために薬は必要でした。だから、あの手段は必要だったと思っています。
それでも、ほかに手はなかったのだろうかと今でも考えることがあります。
答えは出ていません。正解だったと言い切ることもできないし、間違いだったと切り捨てることもできない。そのまま私の中に残っています。
ただ、この方法を誰かに勧めたいわけではありません。むせたり、吐いてしまったりすることもあります。無理に流し込むことには注意が必要です。
薬局のカウンターで「飲んでくれなくて」と話す保護者の方の顔を見るとき、私はいつもあの夜のことを思い出します。
なぜ飲まないのか。
薬剤師が最初に考える事
飲ませ方の工夫を試す前に、私が窓口で必ず確認していることがあります。
「口に入れる前から嫌がりますか。それとも、口に入れた後に吐き出しますか。飲んだ後に吐いてしまいますか」
つまずいている場所によって、原因も次に取れる手も変わるからです。
・口に入れる前から拒否する
過去に嫌な思いをした記憶、警戒心、渡すタイミング。薬の味以前の問題であることが多いです。
・口には入れるが、吐き出す
味、におい、ざらつき、量、混ぜ方。薬と混ぜたものの相性が関わってきます。
・飲み込むが、吐いてしまう
体調そのもの、咳き込み、胃腸の症状。一気に入れすぎていることもあります。
・何回かは飲めたのに、途中から拒否する
苦い薬を経験した、飽きた、混ぜても味に気づかれた。
・特定の薬だけを嫌がる
その薬の味や剤形、混ぜたものとの相性が原因かもしれません。
同じ「飲んでくれない」でも、中身は違います。
たとえば、口に入れる前から拒否している子に混ぜ方の工夫をいくら重ねても、あまり意味がありません。ネットで見つけた飲ませ方を試しても効かなかったとしたら、その方法が悪かったのではなく、つまずいている場所が違っただけかもしれません。
うまくいかないとき、「次の裏技」を探すよりも、どこで止まっているのかを見てみてください。
安全のために知っておいてほしいこと
ここから先は、薬局でよく見かける「やりがちなこと」です。
先に言っておきたいのですが、これは知らなくて当然のことです。薬をお渡しする数分の中で、私たちはこうしたことを全部お伝えできていません。むしろ、伝えきれていない薬剤師の側の課題だと思っています。
特に、この3つは知っておいてもらえると安心です。
・熱いスープやおかゆに混ぜない
熱い食べ物や汁物に混ぜると、薬の品質が損なわれることがあります。混ぜるなら、冷たいか常温のものにしてください。
・錠剤を勝手につぶさない。カプセルを開けない
錠剤やカプセルには苦味を隠す、腸で溶けるようにする、成分が少しずつ出るようにする、といった工夫がされていることがあります。勝手につぶしたり開けたりすると効き方が変わったり、副作用のリスクが上がったりする可能性があります。つぶしていいかどうかは、薬局で確認してください。
・吐いたり吐き出したりした後は、追加でもう1回分を飲ませる前に確認する
飲んだ直後にすべて吐いたのか、少し時間が経ってから吐いたのかによって対応が異なることがあります。どれくらい体に入ったか分からない状態で追加すると、薬によっては多く入りすぎる可能性もあります。自己判断で追加せず、処方された薬局や医療機関に確認してください。
そのほか、こういうこともあります。
・大量のジュースやゼリーに混ぜると、飲みきれずどれだけ飲めたか分からなくなります
・混ぜてから時間を置くと、苦味が増したり変質したりすることがあります
・何種類もの薬をまとめて混ぜると、1つ苦い薬があるだけで全部が嫌になります
・薬によっては、「食後」を厳密に守ることより、飲めるタイミングを優先したほうが現実的な場合もあります
なお、薬の飲ませ方や混ぜてよいものは、薬の種類によって異なります。一般に飲みやすいとされる組み合わせでも、薬によっては逆に苦味が強く出ることがあります。この記事では一般的な考え方と、私自身の経験を書いています。実際に困ったときは、処方された薬ごとに医師や薬剤師に確認してください。
3歳になって一番変わったこと
上の子が2歳を超えたころから、アイスやジュースへの抵抗が薄れてきました。それだけで、私の気持ちはずいぶん楽になりました。
そして3歳になって会話がある程度できるようになってからが、いちばん大きく変わりました。
毎回バトルになると子どもは薬の味だけでなく、薬の時間そのものを嫌がるようになります。特に2歳から3歳は「自分で決めたい」という気持ちが強い時期なので、正面から突破しようとするとかえってこじれます。
だから今は、こう考えるようにしています。
だまして飲ませるのではなく、納得して参加してもらう。飲むかどうかではなく、どう飲むかを子どもに選んでもらう。
具体的には、3つのことを意識しています。
①目的を短く伝える
「これは、お熱でしんどい体を楽にするお薬だよ」
「これは、咳を少し楽にするお薬だよ」
「これは、ばい菌をやっつけるお薬だよ」
長い説明はいりません。
何のために飲むのか、一言だけ伝えます。
②選択肢を出す
「ゼリーで飲む? アイスで飲む?」
「ママと飲む?自分で飲む?」
飲むか飲まないかを聞くのではありません。
飲むことは決まっていて、その方法を子どもに選んでもらいます。
③飲めた後は、結果ではなく行動をほめる
「苦かったのに、頑張ったね」
「自分でお口を開けられたね」
「体を元気にするお手伝いができたね」
飲めたことをほめるのではなく、挑戦したことをほめる。飲めなかった日にも、続きが持てるようにするためです。
これで必ず飲むようになる、とは言えません。今でも拒否する薬はあります。
それでも、言葉でやりとりできるようになったことで、私の気持ちはかなり楽になりました。説得の手段が増えたからです。うまくいかない日でも、「今日は難しかったね」と話せる。それだけで、あの夜とはまったく違います。
今まさに、言葉が通じない年齢のお子さんと向き合っている方へ。今が、特に大変な時期なのかもしれません。少なくとも、私にとってはそうでした。
飲めなかった日に薬局で聞いていいこと
薬局は、薬を渡す場所であって、それ以上のことを聞いてはいけない場所だと思われていることがあります。
そんなことはありません。
忙しそうな薬剤師を見ると、周りが気になって相談しづらいかもしれません。でも、気にしなくて大丈夫です。薬のことを理解してもらって、きちんと飲めるようにサポートするのが私たちの仕事だからです。
相談してもらえると信用してもらえたようで、正直うれしいです。
飲めなくて困っているなら、そのまま言ってください。剤形を変えられることもあります。飲む回数を減らせることもあります。何より、困っていると知らなければ、私たちは何も提案できません。
聞いてもらって大丈夫なことを、いくつか挙げます。
・粉薬が苦手です。ほかの形にできますか
・この薬は、何に混ぜると飲みやすいですか
・食後じゃないとだめですか
・吐いてしまったとき、もう1回飲ませたほうがいいですか
・錠剤をつぶしてもいいですか
・保育園で、お昼の薬を飲ませるのが難しいです
どれも聞かれて迷惑な質問ではありません。むしろ、聞いてもらえたほうが助かります。
そして、心配なときのことも書いておきます。
私が気にかけているのは、吐いてしまって薬が飲めないときです。薬だけでなく水分も受け付けていない状態であれば、口から薬を飲むこと自体が難しくなります。脱水も心配です。そういうときは、一度診察を受けてください。
薬が飲めないという相談は、体調そのものの相談でもあります。
最後に
薬を飲ませられなかった夜のことを、私は今でも覚えています。
泣いている子どもに「ごめんね」と言いながら、私も泣きそうになりました。薬剤師として知っていた方法を試しても、うまくいかない夜がありました。
だから、飲ませられなかった日があっても、それはあなたのせいではないと思っています。飲む子がいて、飲まない子がいる。それだけのことです。
子どもによって、正解は変わります。正解はないのかもしれません。それでも、いちばんいい答えを一緒に探すことはできます。
うまくいかない日は、薬局に来てください。

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【執筆者プロフィール】
真紀|薬剤師ライター
現役薬剤師/2児の母(3歳・2歳)/時短ワーママ
医療・育児・働き方・お金について、自身の経験をもとに書いています。
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