白滝童子の化け物退治珍道中、零の巻
【異世界日本幻想譚!】
『幕開け』~旅の始まり、瑞宝堂にて風の兆しと信託の儀~
風が変わった。
ざわつく胸の奥。
何者かが虚空の果てから黄泉の封を破り、この感東の地へ。
ひいては玉尊帝の治世、雅なる都、麗安京へ降臨するやもしれぬ……
白く透けるような肌に、脂のような汗が浮かぶ。
引き結ばれた紅の唇が、かすかに震えた。
祝詞をつぶやき、鏡を食い入るように覗き見る。
ぴし。
小さな音とともに、鏡面が揺らぐ。
ぴしぴし。
糸のような筋が現れ、それが雷のように広がっていく。
ぱりーん!
砕け散る鏡。
金剛鏡と呼ばれる、神器の鏡が……
「あーれーまー、なんですとー!」
ドスのきいた悲鳴が、御堂の中に響き渡った。
日頃、鈴の音と評される彼女の声が、完全にひっくり返っていた。
床に散らばる金剛鏡の破片を見つめながら、彼女は唯一の、弟子の名を呼んだ。
「し、白滝!白滝童子はおらぬか!おるならば急ぎ、これに参れ!」
とことことんとん……
引き戸の向こうから、何者かが御堂の階を上ってくる音がした。
かららら……

引き戸が開けられ、白滝童子が衣擦れの音と共に御簾の前にかしこまる。
「いなりん……あ~、いや。稲荷さま、お呼びにございますか。白滝童子、ここに参上仕ったでござるぺん」
「そなた今、我の事をいなりんと呼び申したな?うつけものめが。まぁよい。実はな、近々この日乃本の国に異変が起きそうなのじゃ!」
御簾の向こうから稲荷と呼ばれた巫女装束の少女が、慌てふためいた様子で神託の用意をしていた。
弟子に神託を伝える声が上ずっていた。
「そなた、我が教え『神事十祭』極めしにつき、ここに命ずる。これよりこの感東の地を出立し、日乃本の国四十七箇所を巡って参れ!然るにかの地にありて、この世に縁在らざる者たちを調伏し『いろは四十七の御印』を得るのじゃ!」
「御意!拙者必ずや稲荷様の命を完遂してみせましょうぺん」
一陣の風が瑞宝堂の御簾を揺らし、吹き抜けていった。
御簾の下には、師匠から与えられた式札の束。
それを恭しく受け取った白滝童子は、後生大事にそれを懐に忍ばせた。
白滝童子は師匠である千年稲荷の言葉を胸に抱き、立ち上がると、深く一礼して階を下りる。
「それでは白滝、これよりかの地に赴き稲荷様に代わりその責を果たして参るぺん。吉報をお待ちあれだぺん。いざ、おさらば仕る、ぺん」
稲荷様は御簾の奥から、そっと手を振って見送っていた。
こうして、日乃本を巡る珍道中が、静かに幕を開けたのでござる~!
『作者の呟き』
フォロワー&読者の皆さん、いつもお世話になっています。
毎回、作品への応援ありがとうございます。
皆さんの応援のおかげで創作へのモチベーションが高まり、今回もこのように新作を公開する事ができました。
本当にありがとうございます。
今回の作品は、自分の作品として初めての和風ファンタジーです。
日本の歴史の中でも、ファンタジー要素と親和性が高そうな平安時代をテーマに選びました。
主人公の陰陽師(見習い)白滝童子と仔馬の白拍子、魔府院が繰り広げる珍道中を楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして、この作品が心に響いた、気に入ったという方は、スキやフォローをして頂けたら幸いです。
『こちらの作品もよろしくお願いします』
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