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「竜崎光琉・アルバイト顛末記」サイボーグ・グラフィティ番外編

【埋蔵物発掘調査編】

 卍屋まんじやでの精神同期コンシャスシンクロ事件からしばらくして、俺は卍屋の頭、本谷剣春もとやけんしゅんの采配で新居を手に入れた。

 新居と言っても、あの「開発区域」に立ち並んでいたコンテナハウスと同様な簡易住居だ。
 もっとも、こちらは設置年数が新しいだけかなりマシといえる。

 本来なら市民IDを持たない俺だったが、卍屋の「裏営業」のおかげで、こうして市民生活を送る事が出来るわけだが……
 市民として生活するという事はすなわち、生活に必要な軍資金の調達が必要という事だ。

「生活費は自分で稼げ、か。まぁ、そうなるわな」

 生活費を稼ぐため、バイト先まで斡旋してくれた卍屋。
 その社長でもある本谷剣春。

 紅蓮隊ぐれんたいの新規メンバーとしては彼に対し、まさに頭が上がらない状況だった。

「今回のバイト先は……」

 そして俺は、本谷からもらったバイト先の資料を視覚領域に展開してみた。

「卯月・惑星遺構超考古学研究機構(Uzuki Organization for Yonder Archaeology of Megastructural Artifacts)、略称『OYAMA-A(オヤマア)』――発掘担当臨時調査員募集」

 やたらいかめしい名称の研究機関。
 そこの作業員の募集だが、要するに古代の遺跡や化石の発掘をするって仕事だろう?

「おやまぁ、山に登って化石掘りか?掘るのは多分、この俺だよな」

 愚痴なのかダジャレなのか、もう判らなくなった。

 研究所の場所をマップで確認すると、到着までの所要時間(標準単位、徒歩)と路順が視野に表示された。

「この道を、ほぼ真っすぐか。ここからだと……浮遊車両ホバービークルで30分。う~ん。経費は節約だ。よし……走るぜ」

 俺は現状乏しい生活費を節約するため、応募者採用面接会場の事務所を目指してランニングを始めた。

 紅蓮隊としての出動は当分はなさそうという事で、しっかり稼いで蓄えろって本谷のおっさん。
 翠さんが「ヘッド」と呼んでたけど、やっぱり俺にとっては……おっさんだぜ。

 卍屋を後にして、まずは初速で足慣らし。
 平日の午後だけど、人通りも少なく通行に支障は何もなかった。
 天候も、申し分なし。
 ベストな走りが出来そうだ。

 この界隈は比較的高級店が多く、客層もいわゆる富裕層が多い地域だが、今俺が走っているのはその裏通りに当たる一帯だ。

 通り一本違うだけで街の雰囲気ががらりと変わる。
 八塔屋の街は、華やかさと混沌さを併せ持つ自由都市だ。

 そして俺は、今再びこの街での生存権を手に入れていた。
 卍屋、サイコーだぜ。
 おっさんもな。

 俺に生きる場所と生きる意味を与えてくれた彼ら……感謝しかねぇよな。

 徐々にスピードを上げ、浮遊車両と並ぶ速度に入った。
 そこから安定走行に入る。

 ふと上空に目を向けると、現在ブレイク中のフライトウェアに身を包んだ若い女たちが、優雅な軌跡を描きながら、俺を軽くぶっちぎって過ぎ去っていった。

「最新式の高級装備を使えるって、あいつら多分A……あるいはSクラス市民なんだな」

 あっという間に視界の向こうに去って行った二人組を見て、俺はちょっとだけ悔しい気分になった。

『思考が精神安定域の基準から外れました。思考調整処置を行います』

 また、こいつか……

 電脳化手術を受けてから、何回かこいつの「思考精神安定処置」を経験したけど、正直煩わしいんだよなぁ。

 だけど、その処置は確かに効果はある。
 どんよりとしていた俺のマインドが一気に上がり始める。
 このままテンション、天井まで行っちゃうかもな。

 約5分後、俺は卯月考古学……オヤマアのプレハブ事務所に到着した。

 簡素な作りの建物、まぁプレハブなんてこんなもんか?
 そう思いながら。俺は入り口のドアのチャイムを押した。

 暫くして、返事が返ってきた。

「あー、ドアは開いてるわ。さっさと入ってきてちょうだい。こっちは……ね、ね、猫の手も借りたいんだからー!きゃぁーっ!バ、バグったぁ!」

 インターホンから聞こえてきたのは、まだ若そうな女性の、慌てふためいたような声だった。
 俺は一瞬、つばを飲み込むような気持ちで後ずさってしまう。
 だが、ここで引き返すわけにもいかない。

 恐る恐るドアを開けて中を覗いた。

「あの……ごめんください。俺、アルバイト調査員の募集で、こちらに来たんですけど……」

「はい、採用!ほら早くこっちに来て手伝って!」

 俺は空いた口が塞がらなかった。

 面接に来た人物に対して、面接もしないで一発採用?
 そんな……いくらなんでも、そんなのありなのかよ。

 ここって、ちゃんとした学術機関なんだよな?
 個人でやってるみたいだけど、看板にはとっても偉そうな名称が書かれてるし、宇宙規模の調査機関なんだろ?

 どうなってるんだ?

「こら!、そこのキミ、早くこっちに来て書類の山を片付けて!」

「は、はい!」

 俺は反射的に返事をすると、金属床に安っぽいカーペットの敷かれた事務所へ入って行った。
 事務所の中はあの卍屋の室内より狭く、さらに機材がごちゃごちゃと並べられ、書類が散乱して足の踏み場もないくらいだった。

「あっちゃ~、これはまた」

 俺は床に散らばった書類を拾い集めながら、上目づかいでここの責任者らしき女性……雇い主を盗み見た。

「あー、そうだ。きみ名前は?」

 女性、おそらくここの責任者で研究者なんだろう……が俺の名前を聞いてきた。


竜崎光琉りゅうざきひかるです」

「あ、そう。えっと……17歳?じゃあ学生……ああ、君ってサイボーグなんだっけ。特例組?まあいいわ。期間中働いてくれれりゃ、文句はないのよ。それにあそこの紹介なら、むげにする訳にもいかないから」

 そう言いつつ彼女はモニターと向かい合ったまま、顔も上げない。
 ヤバいくらい、研究者だ。

「あの、あなたの名前、聞いてもいいですか」

 俺は残りの書類をすべて拾い集めた後、彼女に尋ねた。

卯月うづき……卯月レイナ。よろしく、竜崎君」

「はあ、よろしくお願いします……」

 そういう彼女、雇い主は相変わらず顔も上げずに作業に没頭している。
 この雰囲気、俺の所属している紅蓮隊のメンバー、藤野翠ふじのみどりとは対照的だ。

「資料、こっちの机に置いときますよ」

 カサカサ……

(何の音だ?)

『なにか』が、事務所の中を動き回ってる気配。 
 聴覚域を拡げてみたけどそれはすばしっこく動き回っているようで、居場所を特定することは出来なかった。

『トゥルルル……』

 レイナのデスクの電話が鳴った。

「はい、こちらオヤマア、発掘主任の卯月……ああ、カズヤか。えっ、見つかった?うん、あー、じゃあ、こっち戻ってきて。バイト?来てるわ。それじゃよろしく」

 電話を切ってまたディスプレイを覗き込む……仕事人間だなぁ。

 カサカサ……また、あの音がした。

「所長、この事務所にはネズミでもいるんですか?」

「いないわよ」

 ネズミじゃない?ならいったい。

「きゅうう~」

 そいつは、レイナの座っているデスクの下から、ぬう~っといった感じで現れた。

「うわぁ~っ、びっくりした!なんだお前は?」

 白くて、ふわふわしていて瞳が宝石のように赤くキラキラしている。
 そして、そいつには白い翼があり、パタパタと羽ばたきながら空中に浮かんでいた!

 見た事もない生き物だった。
 見た目は猫のようにも見えるけど、目玉が赤くて翼の生えてる猫なんている訳ない。

 だけど、俺の目はそいつの姿に釘付けになっていた。

「きゅうう~。あんじぇは猫じゃないよ」

「しゃ、しゃ、しゃべったー!人語を話す動物って……」

 俺は驚きのあまり、思わず床に尻もちをついていた。

「あ?あんじぇは私のペット。遺伝子操作で生み出された愛玩獣よ。きみだってそういう動物の存在を聞いたことあるでしょ」

 レイナはやっと作業の手を休め、俺とあんじぇ、その……遺伝子操作ペットを見ながらくすくす笑っていた。

「この子にはね、感情を読み取る能力があってヒーリングも出来る。書類の整理だって得意なのよ」

 そう語るレイナの周りであんじぇは嬉しそうにじゃれつき、甘えた鳴き声を出していた。

「すげぇ……、お、俺は特例組って事で、週イチで量子空間にぶち込まれてんだけど、こいつ、ヘタしたら俺より賢いのか?」

 遺伝子操作をされてるという事は、知能や各種能力が増幅されてるという事だ。
 あんじぇの赤い瞳には確かに知性が宿ってる。
 そんな印象が強いかった。

 俺の言葉に反応したのか、あんじぇは目を細めてこちらを見つめていた。

「そうか、おやつの時間だったわね。ちょっと待っててね」

 そう言うとレイナは席を立ち、事務所の奥にあるキッチンに向かった。

 しばらくしてキッチンから戻って来たレイナは、トレーの上にクッキーらしき「お菓子」と湯気の立っている割賦を二つ載せて戻ってきた。

 書類のデスクにトレーを置くと、クッキーをあんじぇに与え、カップの一つを俺に手渡してくれた。

「コーヒー、でいいかな?合成品だけど。サイボーグでも飲み物OKよね。うちのユウキとカズヤが飲んでるし」

「あ、どうも。ええ、大抵のモノは体内プラントで処理できますから」

 俺はカップを受け取りながら返事を還した。
 トレーのクッキーに目を向けると、視覚情報域に成分表示が現れた。

【神経安定化プロテイン、DNA結合調整ナノグルー剤配合】

 こいつ……こんなちっこいのに一人前に仕事してんだなぁ。
 しかも、俺よりも賢かったりするってか?
 俺よりも食事の栄養成分、配慮されてんの?

 はぁ~。

 溜息もつきたくなるよ。

 そんなことを考えていると、あんじぇはクッキーをくわえたまま、俺の膝の上に飛び乗ってきた。
 赤くて、キラキラした丸い瞳で俺のことを見つめている。

「あんじぇはね……光琉君のことも好きだよ」

 俺は飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。

(以下次回に続く)
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『作者の呟き』サイボーグ・グラフィティ、シリーズをお読み下さった皆さんありがとうございます!今回はシリーズ番外編となる作品を連載でお届けいたします。本作は第1シリーズの主人公、竜崎光琉くんの「日常の出来事」を描いた作品です。執筆に当たってはAI (いつものアレーナさん)にストーリー構成上のアドバイスやキャラクターのネーミング、生成画像などを手伝ってもらいました。それから学術組織の略称「OYAMA-A」オヤマア!大変笑える名称になっており、これに関しては自力では思いつかなかったことなので、今回最大の収穫でした。ちなみに本作は、もともと短編として完結している作品をベースにしています。次回も頑張って執筆しますので、応援よろしくお願いいたします。この作品に関するコメントもお待ちしております。またスキやフォローなどして頂けると、作者嬉しくてモチベーション爆上がりで頑張ります。

『こちらの作品もよろしくお願いします』



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