白滝童子の化け物退治珍道中、一の巻
【前回のあらすじ】
雅なる玉尊帝の治世、麗安京の御代。
民衆は日々の暮らしに安寧を得て、文化ここに爛熟す。
しかし──
都を離れ東の地、感東・武蔵ヶ原にて、霊妙なる風がざわめき始めた。
千年稲荷の神託により、白滝童子は日乃本四十七の地を巡る旅へと旅立つ。
童子に与えられしその使命は、各地に現れる異形を調伏し「いろは四十七の御印」を集めること──
白滝童子と魔府院の珍道中、いよいよ始まりの一歩を踏み出す!
【主な登場人物】
🦊千年稲荷(せんねんいなり)
日乃本国・感東地方に鎮座する瑞宝堂の巫女。白滝童子の師匠。
神託を授ける霊的存在で、口癖は「あーれーまー、なんですとー!」
童子を送り出したあとは、旅の成就を見守っている。
🐣白滝童子(しらたきどうじ)
式札を操る陰陽師見習い。語尾に「ぺん」をつける癖あり。
日乃本四十七の地を巡り、「いろはの御印」を集める使命を帯びる。
実はかなづちで泳げない。
💃白拍子・魔府院(まふいん)
性別不詳の艶やかな舞い手。オネエ口調で華やかに祓いを舞う。
「野暮ねぇ、そんなもんどっちでもいいのよぉ!」が口癖。
シマウマのくせに縞がない。白黒つけるのが嫌い。

『化け物さっそく出てきて候。感東・武蔵ヶ原』
瑞宝堂から旅立った白滝童子、扇子をぱたぱた。
閉じて開いてまた閉じて。
「天候良し、方角卜占良し、気分よ……いささか暑いでござるぺん」
懐から鶴亀の手ぬぐいを取り出し、額をぬぐう。
「こうして歩いてみると、武蔵ヶ原も思いのほか、広いでござる……ぺん」
てけてけ進んでいくと。
ぱからぱかぱか……後ろの方から、小気味よい拍子の足音が聞こえてきた。
「しぃらぁたぁき~、ちょっとぉ!待ちなさいよ、白滝ってば!」
振り返ってみると、着物の裾をたくし上げて、ぱかぱかと駆けてくる白拍子。
魔府院だった。
「おや。これは白馬殿」
「その名前で呼ぶんじゃないわよ!」
ぶぅーん!
仔馬の縫いからくりが飛んできた。
ぽてん。
からくりは地面に落ちて短い四肢をばたつかせている。
「ぶひひひん」
立ち止まり、からくりを眺めている白滝童子。
そこに白拍子・魔府院が追いついた。
「はあ、やっと見つけたわ。あんたねぇ、こんな面白そうな旅を一人で行くって、野暮すぎない?」
落ちているからくりを拾い上げ、白滝童子の隣に並んで、肘でぐいぐいする魔府院。
「あんたってそそっかしいから、放っておけないのよねぇ。あたしも一緒に行ってあげるから、安心なさい」
(そなたが一番、心配なのでござるぺん……)
思ってはみたものの、口には出せない白滝童子。
「よろしくでござる」
「はいはい。あたしがいれば百人力よぉ~」
「一馬力」
「なんか言ったぁ?」
童子の顔を覗き込み、魔府院が凄む。
「いえ、なにも」
白滝童子は小さく呟き、俯いて歩きだす。
辺りはいたってのどかであり、周囲の田畑では百姓衆が農作業に勤しんでいた。
森の方角からは威勢の良い、木こり唄が聞こえてくる。
とんびが天空に1羽。
ゆっくりと輪を描いていた。
「平和でござる……ここに怪異は無さそうでござるぺん」
「それって、とぉ~っても良いことよねぇ!」
魔府院は嬉しそうに、くるくるりんと舞いながら遥か冗句を見上げていた。
「あら?なんだかあのとんび、変じゃない?落っこちてきそうな感じよ」
魔府院の言葉に白滝童子も、上空に目を向けた。
やがて、つぶらな瞳が点になる。
それまで雲一つなかった青空、それが一転にわかに掻き曇り、心地よく吹いていた風が止んだ。
そして、周囲の地面から立ち上る瘴気。
二匹の周囲が黒い靄に覆われ始めた。
田畑を見れば、農作業をしていた百姓衆が苦しそうにうずくまっている。
「むむむ、これは面妖な……遂に化け物たちが現れたでござるか」
情報収集のために、芋畑でうずくまっている百姓に尋ねてみた。
「これ、お百姓。しっかりするでござる。何があったでござるか?」
「も、森の方から、何かが喰われているような音が……恐ろしい呻き声がするんですじゃ」
百姓の話から、化け物が出てことに間違いは無さそうだった。
魔府院がきりりと表情を引き締め、着物の袖にたすきがけをして気合を入れた。
「化け物登場、間違いなさそう。白滝ちゃん。用意は良くて?」
「ちゃんは要らぬでござる。ぺん!」
冗談を言う余裕を見せた二人は、黒い靄が特に濃い方向、森の方角に向かって歩を進めていった。
瘴気の満ちた薄暗い森に足を踏み入れると、どこからともなくすえた臭いが漂ってきた。
「むむむ。これは近いでござるぺん。化け物の気が充満してるでござる……ぺん」
白滝童子は懐から式札を取り出し、印を結んで眼前の怪異に備えた。
魔府院も同様に印を結び、護法の結界を展開した。
二匹の行く手には朽ちかけた小さな祠。
そこからただならぬ邪気と共に瘴気が溢れ出ていた。
カビた臭いをまき散らしながら、黒い霧の中に異形の姿が顕現する。

化け物が現れた!
「おのれ、化け物!遂に姿を現したでござるか。拙者、千年稲荷が一番弟子、白滝童子がおぬしら化け物を成敗してくれるでござる!ぺん」
白滝童子は扇子をぱちん!と打ち鳴らし、緑色の胞子を振りまく腐れ蜜柑と、ただれてドロドロになったあんころ餅をめがけて、盛大に式札を投げつけた。
「五芒術式、光華浄爆」
投げつけた式札から艶やかな五色の光が拡がり、空中に五芒の陣が展開される。
その五つの頂点から腐れ蜜柑めがけて光条が走った。
ぐげげげぇー!
ぶっしゃぁー!
腐れ蜜柑が恨めしそうに叫ぶと、大量の汚汁を吐きかけてきた。
ただれあんころは怒りを爆発させたように、腐臭を放つあんこを、二匹めがけて投げつける。
じゅわっ!
腐れ蜜柑の汚汁を吹きつけられた小石が、見る見るうちに溶けていく……
「食うてもらえなかった我らの恨み、思いしれぇ~」
「よくも我らを粗末にしおったなぁ~、この恨みはらさでかぁ~」
腐れ蜜柑とただれあんころが、辺り一面に恨みつらみをまき散らす。
しかし、魔府院の護法結界によってそれらは防がれ、二匹は手傷を追うことは無かった。
「さて、そろそろ締めの大技行くでござる……てい!烈破術式、怪魔封滅!怨霊調伏!ぺーん」
白滝童子は『滅』と記された式札を、二体の化け物めがけて投げつけた。
「はいな!九字切りからのぉ~浄霊の舞!はいはい、祓って清めて悪霊成敗よぉ」
魔府院は地団太を踏むような動きで、地面をけりながら舞を舞った。
ぐぴゃあ~!

二体の化け物は雲散霧消して、黄泉の彼方に消えて行った。
からーん。
化け物のいた場所に欠けた皿が一枚。
「終わったでござる、ぺん。およ?これは……」
童子はそこに落ちている欠けた皿を拾い上げ、ひょいと裏返してみた。
そこには……『し』の文字が、きらきらとした金文字で書かれていた。
魔府院がやってきて童子が手にした皿を見るなり、嬉しそうな声を上げた。
「あらまぁ!やったじゃないの。これ、御印よぉ~!」
何と、ただれあんころが載っていた皿には、今回の旅の目的である『いろはの御印』その一文字が記されていたのだった。
「おぅ。これは僥倖なり。さっそく稲荷様にご報告でござる……ぺん!」
白滝童子が転移の印を結ぶと空間がゆらめき、皿の文字が空中に浮かび上がって、虹色の光と共に虚空の中に消えて行った。
化け物共を見事退治した白滝童子と魔府院は、森の朽ちた祠に浄霊術式を用い、丁寧に供養するとその場を後にした。
農村の長の家に行くと長はかしこまって、宴の用意をするので滞在して欲しいと申し出た。
しかし、二匹は師匠である稲荷様の言いつけにより、人家に泊まる事まかりならんと言い付けられていたため、僅かな礼を受け取ると村を後にした。
村人から礼として受け取ったものは『雷おこし』だった。
ぽりぽり……
「あらやだ。美味しいわこれ。食感も軽いし、いくらでも食べられそう」
魔府院はぽりぽりと雷おこしを食べ続けた。
その隣で白滝童子は……
ちゅるん!
白滝を食べていた。
出立前、村長の女房殿にお願いして分けてもらった白滝である。
「幸せは、一本の白滝から始まるのでござる……ぺん!」
こうして二匹は次の目的地を目指すのであった。
果たして、そこではどんな出来事、怪異が待ち受けているのであろうか?
二匹は無事、47の御印を集める事が出来るのか?
旅はまだ、始まったばかりである。
青く晴れ渡った空には、雲雀がさえずっていた。
(以下次号)
『作者の呟き』
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実は今回、原稿執筆中にアクシデントに見舞われたのですが、それにめげず頑張ってリトライして書きあげました。
次回も今回同様、熱量倍増して愉快痛快な物語をお届けしたいと思います。
それではまた次回、noteでお会いしましょう。
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