祝直木賞!戦前・戦中・戦後を生きた、女たちの静かな強さ――嶋津輝『カフェーの帰り道』【読書記録98】
こんにちは!🍦マオ¦読書記録 です。
2026年5冊目に読了したのは、嶋津輝さんの『カフェーの帰り道』(東京創元社)でした。

東京・上野の片隅にある、あまり流行(はや)っていない「カフェー西行」。食堂や喫茶も兼ねた近隣住民の憩いの場には、客をもてなす個性豊かな女給がいた。竹久夢二風の化粧で注目を集めるタイ子、小説修業が上手くいかず焦るセイ、嘘つきだが面倒見のいい美登里を、大胆な嘘で驚かせる年上の新米・園子。彼女たちは「西行」で朗らかに働き、それぞれの道を見つけて去って行ったが……。大正から昭和にかけ、女給として働いた“百年前のわたしたちの物語”。
🎊直木賞受賞、おめでとうございます🎊
候補作になった時点で気になってはいたものの、読むタイミングを少しだけ先送りにしていて。
そして受賞が決まった今、満を持してページを開いた『カフェーの帰り道』は、想像していた以上に、静かで、あたたかく、そして強い物語でした。
読み終えてまず残ったのは、派手な感動ではなく、時間をかけて心の奥に染み込んでくるような余韻。
「滋味深い」という言葉が、これほど似合う小説もなかなかありません。
コーヒーをゆっくり味わうように、気づけば読後もずっと、この物語の世界に心が留まっていました。
▫️戦前・戦中・戦後の東京を生きた「彼女たち」
舞台は、戦前から戦中、戦後へと移り変わる東京・上野。
戦争を扱った近年の作品というと、
『永遠の0』や『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』など前線や戦場に立つ人々の物語や、
『黒い雨』のような原爆による被害を克明に描き出す、
知ること・読むことはもちろん大事だけれど読むことすら重く辛い小説たちが思い浮かびます。
けれど『カフェーの帰り道』が描くのは、もっと生活に近い場所。
悲劇と同時に、確かにそこにあった「日常」です。
戦争は、兵士だけでなく、市井の人々の暮らしにも静かに、しかし確実に影を落としていく。
その事実を、嶋津輝さんは、決して声高に叫ぶことなく、淡々と、けれど確かな筆致で描き出します。
▫️女給という仕事、カフェーという場所
物語の中心となるのは、「カフェー西行」で働く女給たち。
正直に言うと、読み始めた当初は「女給」という言葉にあまり馴染みがなく、具体的なイメージがすぐには湧きませんでした。
けれど読み進めるうちに、自然と立ち上がってくるのです。
和服に、フリルのついた白いエプロン。
注文を取り、料理やビールを運び、客と言葉を交わす、喫茶店の給仕さんたちの姿が。
「カフェー西行」は、ビールやごはんを提供する比較的健全な店。
一方で、当時はもう少し俗っぽい営業をするカフェーも多く、才覚のある女給はチップを稼ぎ、したたかに生きていた――そんな時代背景も、さりげなく織り込まれています。
求人票には「19歳」と書いてあるのに、実際には年齢不詳の人がたくさんいる。
美人もいれば、嘘つきもいる。
少しずるくて、少し愛嬌があって、でも皆、それぞれの事情を抱えている。
その人間臭さが、この物語をとても生き生きとしたものにしています。
▫️連作短編集ならではの、心地よいリズム
本作は連作短編集という形をとっており、
その中では大きな事件が次々と起こるわけではありません。
起伏はゆるやかで、物語は静かに流れていきます。
それでも退屈さは一切なく、むしろこのテンポ感が心地いい。
それぞれの短編が、少しずつ時代を進め、登場人物たちの人生を横断していく。
笑える場面もあれば、ふと胸が締めつけられる瞬間もある。
戦争が進み、徴兵が家族のすぐそばまで迫ってくる場面では、否応なく現実を突きつけられ、ページをめくる手が少しだけ重くなりました。
それでも、この物語は決して暗闇に沈みきりません。
女性たちは、逞しく、したたかに、生き続けます。
その姿があるからこそ、読後に残るのは絶望ではなく、静かな希望なのだと思います。
▫️昭和100年に読む意味
2025年は、昭和100年という節目の年。
そんな折に本作が直木賞を受賞したことにも、大きな意味を感じました。
過去を美化するのではなく、かといって断罪するわけでもない。
「あの時代にも、確かに生活があった」という事実を、物語として手渡してくれる。
この小説が、今、より多くの人に読まれることで、戦争や昭和という時代が、もう一歩だけ身近なものになる気がします。
▫️こんな人におすすめ
✔戦争を扱った物語を、もっと生活に近い視点で読みたい人
✔派手な展開よりも、じんわり心に残る読書時間が好きな人
✔昭和の東京や、当時の空気感に静かに触れてみたい人
✔コーヒーを飲みながら、落ち着いて本を読みたい夜がある人
▫️まとめ
嶋津輝さんは時代小説のイメージが強く、
「大正?昭和?ちょっと難しそう……」と躊躇してしまう方もいるかもしれません。
でも大丈夫!
本作はとても読みやすく、現代の読者にもすっと届く文章です。
落ち着いた気持ちで、物語に身を委ねたいときに、これ以上ない一冊。
ちなみに、銘仙柄を思わせる表紙もとても美しく、
候補帯は赤、受賞帯は白。
そのコントラストも含めて、手元に置いておきたくなる本でした❤️🤍
静かな読書時間を過ごしたい日に、ぜひ。
改めて直木賞受賞、おめでとうございます!

ෆ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ෆ
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