見出し画像

ようこそ!フォーチュンカフェへ #6 この道も、きっと未来につながる ~カカオミルク×シナモン~

珈琲と古本の香りがまじりあう、不思議なカフェがある。
名前は〈フォーチュンカフェ〉。
扉をくぐると、誰かの言葉があなたを待っている。

それは、偶然か、運命か。

「本日のおまかせ」を味わいながら、
あなたの心にそっと触れる〈ことばみくじ〉が、そっと背中を押すのかもしれない。

夕暮れ。
駅前通りの喧騒から一本外れた路地に、小柄な女子高生が立っていた。
中内 香(なかうち・かおる)、高校2年。
陸上部のマネージャー。
制服のまま、バッグを右肩に引っ掛けて、カフェの看板を見つめていた。

本日のひとこと:『好きじゃなくても、進めば道になる』

その言葉に、ふと胸の奥がひりつく。

(ほんとに?)

そう思いながら、香はゆっくりと扉を押す。

カラン。

扉の鈴が優しく鳴る。

「いらっしゃいませ。」

店主らしき女性が、微笑みながら声をかけてくる。
年は上だ。やわらかい雰囲気に、どこか安心する。

「カウンター、いいですか?」

「もちろん。」

香はゆっくりと腰を下ろす。
目の前には、温かな木のカウンター。
なんだか、心が落ち着く。

(えっと、メニューは・・・?)

香がメニューを探す様子を見て、女性が声を掛ける。

「あ、ここメニューないんですよ。」

「え?」

「店主の『おまかせ』ってやつです。」

「え?お姉さんが店主なの?」

「そうですよ。『お姉さん』じゃなくって”こと葉”っていいます。」

こと葉と名乗る女性は、薄い青色の瞳で優しく笑う。

「今日は、どうしてここに?」

「え・・・と、表の看板。『好きじゃなくても、進めば道になる。』って言うのが気になって。」

それを聞いたこと葉はますます笑顔になる。

「そうだったんですね!じゃあ、まずは、おすすめの一杯をお淹れしますね。」

こと葉は、静かに後ろの戸棚を開けた。

水がコポコポ沸騰する音。
香は、その音に耳を傾けながら、ふと視線を棚の奥に向けた。
古い本。
一枚だけ飾られているトランプみたいなカード。
大工さんが使うような道具の形をした鉛筆削り・・・。

「なんか、いろんなものあるな。」

小さくつぶやいたその時。

「本日のおすすめ。カカオミルクにシナモンを少しいれてみました。」

こと葉が、静かに言った。

「カカオミルクは少しビターな感じ。シナモンは緊張をほどくスパイス。苦みの奥にある独特の味。今日のあなたの『顔の味』にぴったりです。」

「顔の味?」

「ええ。わたし、人の顔や表情を見ると、味を感じるんです。ちょっと変わってますよね。」

香は思わず笑った。

「変わってるけど・・・、おもしろそう。」

そっと差し出されたカップに口をつける。
少しだけ苦くて、でも奥に甘さがある。
どこか、ホッとする味だった。
香は黙ったまま、コーヒーカップを見つめた。

「今日、部活を初めてさぼりました。」

カップを見つめながら、香がぽつりと話し出した。

「私、去年まで投擲の選手だったんです。円盤とやり投げ。けっこう自信あったんですよ。インターハイ、狙えるぐらい。でも腰を痛めて。けっこう大きなけがで。それも、インターハイ直前の県予選で。」

こと葉は静かに肯いている。

「それでも、仲間たちが一緒に部活ができるように、先生にマネージャーとして残ってくれないかってお願いしてくれたんです。それで今は、サポート側です。」

香は自嘲気味に笑う。

「・・・・でもね、ほんとはまだ、投げたくてたまらない。競技から離れても、体は動きを思い出す。砲丸の重さも、円盤の回転も、ぜんぶ、ちゃんと体が覚えてる。」

「でも、フィールドではもう投げられない。だから、私はみんなのサポート。そういう道に進んだんだって。そう言い聞かせて、部活には行ってる。ちゃんと仲間のために仕事もこなしてる。」

こと葉は、黙ってうなずいた。

「でもね、どんなに『これでいい』って自分に言い聞かせても、ふと立ち止まる瞬間があるんです。『ほんとはどうしたかったの?』って。」

カップの中を覗き込みながら、香は言葉をつづけた。

「部活に残れるようにしてくれたみんなには感謝してる。けど・・・だからこそ、気持ちが割り切れなくて。」

「今日は、みんなが外で練習しているのを見て、『ああ、いいなあ』って思っちゃったら、もうなんだかいろんなことがどうでもよくなって。学校をそのまま出てきちゃった。」

吐き出すように言うと、息を注ぐ。

「マネージャーを続けていてもいいのかなあ。」

そのとき、静かに聞いていたこと葉が、そっと小さな箱を差し出した。

「なに?これ?」

「これ、『ことばみくじ』です。この中の紙を一枚引いてください。」

「ことばみくじ?」

注文と言い、ことばみくじといい、なんだか変なカフェだ。

でも、こと葉はじっとわたしの話を聞いてくれた。

変なカフェだけど、イヤな場所じゃない。

香は箱の中から、一枚の紙を引いて開いた。

「迷うことがあっても、誰かのために選んだ道なら、それでいいと思える。」

薄いピンクと黄色が混ざったような色で書かれた文字に、ガンっと強く心打たれた。

「これ・・・、誰が書いたんですか?」

「このカフェに来たお客さまが残した『ことばみくじ』です。」

香は言葉もなく、もう一度それを見つめる。

(誰かのために。)

部活の仲間の顔が浮かぶ。

最後まで走り切ろうとする意志に満ちた背中。
思い切り投げてしなる槍。
目の奥が、じんわりと熱くなる。

(そうだ。私、ただ部に“残ってる”んじゃない。チームのために、誰かの支えになるために、自分にできることをやってきた。それって・・・)

「ふぅ。」

小さな息をついて、香は微笑んだ。

「マネージャーのインターハイっていうのがあったら、優勝できるぐらい、ちゃんとやってやろうかなって・・・いま、初めて思いました。」

「それ、とっても素敵です。」

こと葉の声が、ふわっと響く。

「ありがとうございます。なんだか、気持ちが晴れた感じ。えっと、おいくらですか?」

「あ、お代はもらってないわ。その代わりに、『ことばみくじ』を一つ書いてくださいね。」

「え?それでいいの?」

こと葉は静かにほほ笑み、ことばみくじの白紙とガラスペンを渡す。

「白群」とかかれたインク壺にペンをつける。

すっとペンを走らせる。
やわらかい緑の色で一言。

『叶わなかった夢のそばに、新しい夢が咲く。』

香は立ち上がり、リュックを背負い直す。

「今日は、部活、休んでよかったです。」

こと葉は、にっこりとうなずく。

カランカラン。

扉の鈴が鳴った。
香の背中を、夕風がそっと押す。
新しい夢の種が、静かに芽吹こうとしていた。


#創作大賞2025 #ファンタジー小説部門
#フォーチュンカフェ #ようこそフォーチュンカフェへ
#短編小説 #言葉の力 #癒し #喫茶店
#静かな時間 #路地裏の物語 #心にしみる #ことばみくじ

いいなと思ったら応援しよう!

一条 詩紋 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 物語があなたの癒しになれば幸いです。 チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。