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卒業の日 #10 呼びかけ

3/19 8:30

教室の机の上には、卒業文集が置かれていた。

陽斗は、自分の席に座り、文集を開く。
厚い紙のページをめくると、クラスのみんなの文章が並んでいる。

自分のページも、そこにあった。

短い題名。
小学校での六年間のこと。
そして、母のこと。
仕事をがんばっていること。
そして、自分も、母のためにできることを増やしたいこと。

陽斗は苦笑して文集を閉じた。

廊下から、先生の声が聞こえた。

「では、体育館に行きます。」

子どもたちは立ち上がり、列になり階段を下りていく。

体育館は、もう静かだった。

「卒業生、入場」

パッヘルベルのカノンに合わせて
入場する。

保護者席には、たくさんの人が座っている。
スーツを着た父親や母親。
スマートフォンを構える人。
静かに前を見つめている人。

その中に、美月もいた。
黒いスーツを着ている。

陽斗はちらっと確認した後は、前を向いて歩いた。

卒業式が始まる。

名前を呼ばれ、子どもたちが順番に壇上へ上がる。
卒業証書が手渡される。
いつもより張り詰めた体育館の空気。

校長の式辞も終わり、いよいよ呼びかけだ。
ひな壇の上に並ぶ。

「春の兆しが感じられる、今日三月十九日」
「わたしたち、103名は、卒業します」

「卒業します!」

子どもたちが順番に言葉を言っていく。

「楽しかった運動会!」

「忘れられない修学旅行!」

「友だちと過ごした毎日!」

体育館に、声が重なっていく。
みんな、静かに聞いている。
保護者席からは、ときどき小さなシャッター音が聞こえる。

呼びかけは続く。
いよいよ、陽斗の番だ。
母の方に目がいった。

「いつも、ぼくたちのことを考えてくれていたことが、今になって、本当によくわかります」

母が、ハンカチで目を押さえていた。

「六年間、ありがとうございました!」

拍手が広がる。

式が終わると、六年生は教室へ戻った。
机の上には、卒業文集。
子どもたちは文集を開き、寄せ書きのページに名前を書き合っている。

「ここ書いて!」

教室は、いつものようににぎやかだった。

陽斗も文集を開く。
自分のページをもう一度見る。

そして、ゆっくり閉じた。

先生が入ってきた。

「最後の話をします。みんな座ってください」

みんな、すぐに座った。

静かになったみんなを見ながら、先生がつぶやくように言った。

「その文集……大人になってから読むと、面白いですよ」

(面白い?)

きっと、大人になって読んだらとっても恥ずかしいと思う。
でも、「面白い」と思えるようになるのかな。

先生の話が、始まった。

窓の外では、春の光が校庭に満ちていた。


(第10話 了)


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