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卒業の日 #15 me too

3/31 夜のフライト。

蒼井はるかは、ワゴンを押して進んでいた。

「お飲み物はいかがですか?」

外国のお客様も多い。
次の席の前で、足を止めた。
端末を見た。

(この方は……)

“Would you like something to drink?”

「……オネガイシマす」

手が、わずかに止まった。

日本語だ。
少したどたどしい、その響き。

乗客は窓の外を見ていた。
遠ざかる光を見ながら、微笑んでいる。

はるかはグラスを取り、氷を入れる。
カラン、と音が鳴る。

——「……オネガイシマす」

言い方が、同じだった。

あの人も、そうだった。
覚えたばかりの不器用な日本語で、
何度も言い直していた。

別れたのは、空港だった。
そのあとも連絡は、ときどき来る。

はるかはグラスを差し出した。

「アリガトウ」

短い、日本語だった。

サービスを終え、自席へ戻る。
機内の照明は落とされ、暗くなっていた。

さっきの声が、頭の中をめぐる。

「オネガイシマす」
「アリガトウ」

短い、日本語。
あの人の声と、重なる。

はるかは、目を閉じた。

やがて、窓の外が白みはじめた。
着陸。

すべての業務を終え、飛行機を降りた。
イギリスの風が、頬を撫でる。

ヒースロー空港は明るかった。

旅行帰り。
家族連れ。
握手をするビジネスマン。
そして、恋人たち。

出会う人。
別れる人。

いくつもの言葉が、行き交っている。

はるかは出口へ向かった。

自動ドアの向こうに出たとき、足が止まった。

彼がいた。

少し背が高くて、肩をすくめるように立つ癖。
こちらを見つけた瞬間、目がやわらぐ。

はるかは駆け出す。

彼の前まで行き、そのまま抱きついた。

彼の身体が揺れ、
次の瞬間、しっかりと抱き返される。

彼は少し緊張したように笑った。

「キョウは、はるかに……ダイジな話、アリマス」

はるかは笑う。

「Me too」

その横を、派手な服の若い女性が、
大きなキャリーケースを引いて通り過ぎていく。

Right, I'm off. See you!
(じゃあ、行くね。またね!)

Yeah, see you later, cheers!
(うん、またね。バイバイ!)

彼女は一度だけ振り返り、大きく手を振り返す。
それから前を向き、そのまま歩いていった。

はるかは彼の肩に顔を寄せた。

(第15話 了)

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一条 詩紋 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 物語があなたの癒しになれば幸いです。 チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。