卒業の日 #16 自分の居場所
2/5 20:18
水野 沙里の留学先の部屋。
スマートフォンが震えた。
「いつの飛行機?」
絵里からのメッセージだった。
カレンダーを見て打ち込む。
すぐに既読がつく。
「わかった。もう、仕事はやめてるから家で待ってるね」
短いメッセージ。
(そっか、お姉ちゃん仕事を『卒業』したんだ)
連続で着た。
「お母さんが、『あなたが戻っていい場所はここにもあるから』だって」
窓の外を見る。
見慣れた通りが広がっている。
この景色とも、もうすぐ別れる。
伸びをして、ベッドに寝転がる。
日本でも、ここでも、同じように過ごしてきた。
それでも、どこかで思っていた。
——自分の居場所は、どこなんだろう。
*
4/1 昼。ヒースロー空港。
スーツケースを引きながら、チェックインカウンターへ向かう。
仲間たちが、見送りに来ていた。
「Are you leaving already?」
(もう行くの?)
「Yeah, right.」
(うん、そだね)
「I'm going to miss you!」
(さみしくなるよ)
「Please keep in touch.」
(いつでも連絡ちょうだい)
「Sure.」
(もちろん)
エリックが言う。
「You’ll be fine anywhere.
……But, this is a place you can always come back to.」
(君ならどこでもやっていける。でも、ここはいつでも君が戻ってきていい場所だよ)
一人一人と握手する。
最初は、独りぼっちだった。
でも今は、こうして別れを惜しむ人たちがいる。
搭乗の案内が流れた。
Right, I'm off. See you!
(じゃあ、行くね。またね!)
Yeah, see you later, cheers!
(うん、またね。バイバイ!)
そのとき、少し離れた場所で、制服姿の女性が男性に抱きつくのが見えた。
ほんの一瞬だけ見て、目をそらす。
そして、沙理は前を向いた。
*
機内。
沙里はシートに身体を預ける。
やがて機体が動き出し、振動が伝わる。
テイクオフ。
身体が押しつけられ、ふっと軽くなる。
朝まで過ごしていた街が、小さく遠ざかっていく。
目を閉じる。
「あなたが戻っていい場所は、ここにもあるから」
「……this is a place you can always come back to」
二つの言葉が重なる。
そういえば、こっちに来てから、
ホームシックになったことは一度もなかった。
寂しいと思ったこともない。
その場その場で、過ごしてきた。
笑って、話して、食べて、眠って。
ゆっくりと目を開ける。
窓の外は、もう夜が近づいていた。
小さく息を吐く。
身体の力が、抜け沙理は眠りについた。
*
4/2 11:00 日本。
飛行機が滑走路をすべるように降りる。
沙理は空港の外に出た。
少し湿った空気が、肌にまとわりつく。
見慣れた言葉が、あちこちに並んでいる。
外に出ると、タクシーが並んでいた。
一台のドアが開く。
「どうぞ」
運転手が、軽く手を上げる。
名札に「松井」と書いてあった。
スーツケースをお願いして、後部座席に座る。
ドアが閉まる。
「どちらまで?」
自宅の場所を伝える。
タクシーは静かに走り出す。
窓の外を眺める。
見覚えのある街並み。
(探さなくてもいいのかもしれない)
沙理は流れていく景色をじっと見ていた。
(第16話 了)
📚ZAPPING POINT
沙理の姉の話→#4 母のほうじ茶
エリックの話→#20 ラストシューティング
#小説
#短編小説
#創作
#連作短編
#卒業の日
#自分の居場所
#留学
#帰国
#空港
#人とのつながり
いいなと思ったら応援しよう!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
物語があなたの癒しになれば幸いです。
チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。