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卒業の日 #16 自分の居場所

2/5 20:18

水野 沙里の留学先の部屋。
スマートフォンが震えた。

「いつの飛行機?」

絵里からのメッセージだった。
カレンダーを見て打ち込む。
すぐに既読がつく。

「わかった。もう、仕事はやめてるから家で待ってるね」

短いメッセージ。

(そっか、お姉ちゃん仕事を『卒業』したんだ)

連続で着た。

「お母さんが、『あなたが戻っていい場所はここにもあるから』だって」

窓の外を見る。
見慣れた通りが広がっている。

この景色とも、もうすぐ別れる。

伸びをして、ベッドに寝転がる。

日本でも、ここでも、同じように過ごしてきた。
それでも、どこかで思っていた。

——自分の居場所は、どこなんだろう。

4/1 昼。ヒースロー空港。

スーツケースを引きながら、チェックインカウンターへ向かう。

仲間たちが、見送りに来ていた。

「Are you leaving already?」
(もう行くの?)

「Yeah, right.」
(うん、そだね)

「I'm going to miss you!」
(さみしくなるよ)

「Please keep in touch.」
(いつでも連絡ちょうだい)

「Sure.」
(もちろん)

エリックが言う。

「You’ll be fine anywhere.
……But, this is a place you can always come back to.」

(君ならどこでもやっていける。でも、ここはいつでも君が戻ってきていい場所だよ)

一人一人と握手する。

最初は、独りぼっちだった。

でも今は、こうして別れを惜しむ人たちがいる。

搭乗の案内が流れた。

Right, I'm off. See you!
(じゃあ、行くね。またね!)

Yeah, see you later, cheers!
(うん、またね。バイバイ!)

そのとき、少し離れた場所で、制服姿の女性が男性に抱きつくのが見えた。
ほんの一瞬だけ見て、目をそらす。
そして、沙理は前を向いた。

機内。

沙里はシートに身体を預ける。
やがて機体が動き出し、振動が伝わる。

テイクオフ。

身体が押しつけられ、ふっと軽くなる。
朝まで過ごしていた街が、小さく遠ざかっていく。

目を閉じる。

「あなたが戻っていい場所は、ここにもあるから」

「……this is a place you can always come back to」

二つの言葉が重なる。

そういえば、こっちに来てから、
ホームシックになったことは一度もなかった。
寂しいと思ったこともない。
その場その場で、過ごしてきた。
笑って、話して、食べて、眠って。

ゆっくりと目を開ける。

窓の外は、もう夜が近づいていた。
小さく息を吐く。
身体の力が、抜け沙理は眠りについた。

4/2 11:00 日本。

飛行機が滑走路をすべるように降りる。

沙理は空港の外に出た。
少し湿った空気が、肌にまとわりつく。

見慣れた言葉が、あちこちに並んでいる。

外に出ると、タクシーが並んでいた。
一台のドアが開く。

「どうぞ」

運転手が、軽く手を上げる。
名札に「松井」と書いてあった。
スーツケースをお願いして、後部座席に座る。

ドアが閉まる。

「どちらまで?」

自宅の場所を伝える。
タクシーは静かに走り出す。

窓の外を眺める。
見覚えのある街並み。

(探さなくてもいいのかもしれない)

沙理は流れていく景色をじっと見ていた。

(第16話 了)

📚ZAPPING POINT
沙理の姉の話→#4 母のほうじ茶
エリックの話→#20 ラストシューティング


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一条 詩紋 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。 物語があなたの癒しになれば幸いです。 チップはご無用です。一緒にドキドキしてくれた思いを伝えてくだされば・・・。それがうれしいです。