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天災は忘れたころにやってくる。食糧危機もエネルギー危機も


はじめに

以前のエントリーでも触れたことだが、先月イランとアメリカの間で和平合意が結ばれてからというもの「これでもうホルムズ海峡の件は大丈夫だ」という腑抜けた雰囲気が日本国内外に蔓延している。しかしそれは誤りであると言うことは、このnoteをお読みになっているみなさんなら百も承知だろう。

さて。2026年7月5日、X(旧Twitter)のあるインフルエンサーがこんな投稿をした。

オレたち日本人にとってスゴク残酷な現状をお伝えすると、ホルムズ海峡の航行量は以前の2割ちょいぐらいにしか回復しておらず、その中に日本の船はほとんど含まれてないです。目につくのはイラン、中国、インド、シンガポール、韓国など

ソースとしてshipfinder.comのリアルタイム船舶追跡が添付されている。

この投稿をきっかけに、私とGrok(xAIのAI)とのやりとりで「日本にエネルギー危機や食糧危機はいつ来るのか」という議論が展開された。その内容を検証し、さらに踏み込んで考えたのが本稿である。


何が起きたのかのおさらい

2026年2月28日、アメリカとイスラエルが「オペレーション・エピック・フューリー」の名の下にイランを攻撃し、最高指導者ハメネイ師を殺害した。これに対しイランはホルムズ海峡を封鎖。世界の海上石油輸送の約20%、日量2000万バレルが通過するチョークポイントが閉ざされた。

海峡の通過量は危機前の1日125〜140隻から、一時はほぼゼロにまで落ち込んだ。3月12日までにイランは商船21隻を攻撃し、12人の船員が死亡または行方不明となった。原油価格はブレント基準で126ドル/バレルまで急騰した。

4月17日にイラン外相が海峡の開放を宣言し、6月中旬には米イラン間で停戦覚書の署名に向けた動きも出た。しかし7月初旬時点で、海峡の通過量は危機前の2割程度にしか回復していない。そしてその中に日本の船はほとんどいない。


「日本には200日分の備蓄がある」は安心材料か

資源エネルギー庁の速報(6月30日時点)によると、日本の石油備蓄は国家備蓄105日分、民間備蓄91日分の合計196日分。危機前の3月初旬には約254日分あったので、4ヶ月で約60日分を食いつぶしている。

196日分。約6ヶ月半。数字だけ見ると「まだ大丈夫じゃないか」と思えるかもしれない。

しかし、この数字には決定的な前提がある。「いずれ次の船が来る」という前提だ。

備蓄とは貯金のようなもので、収入が途絶えれば減る一方である。次の「入荷」がいつ来るか——そこが本当の問題であり、その答えはアメリカの戦略石油備蓄(SPR)の動向に大きく依存している。また政府が出す公証196日分の石油備蓄という数字が、数字の印象から受けるほど潤沢ではないことは以前のエントリーでも何度も触れてきたことである。


なぜ今、世界の石油市場が「何とか回っている」のか

答えは単純だ。アメリカが戦略石油備蓄を歴史的なペースで放出しているからである。

3月にトランプ政権は172百万バレルの放出を決定した。IEA加盟32カ国と合わせると合計400百万バレル。バイデン政権が2022年にウクライナ危機で放出した時の1日100万バレルを上回る、1日130万バレルというペースで地下の岩塩空洞から原油を吸い上げ続けている。

6月25日時点のSPR残量は336.8百万バレル。1983年以来の低水準だ。

そしてBloombergの報道によれば、放出された原油の4割が輸出に回っている。Shell、Vitol、Trafiguraといった国際トレーダーがexchange契約で引き取り、高値で売れる国際市場に流している。つまり今、日本や韓国やヨーロッパに石油が届いているのは、かなりの部分がアメリカの備蓄のおかげなのだ。


岩塩ドームという「曲者」

ここで、SPRの物理的な構造について触れなければならない。

SPRは鉄のタンクではない。テキサスとルイジアナの地下600〜1200メートルにある天然の岩塩層に巨大な穴を掘り、そこに原油を流し込んで貯蔵している。取り出す時は下から塩水を注入して原油を押し上げる。

問題は、取り出すたびに空洞が壊れていくということだ。

SPRの運用上の経験則として「100バレル抜くごとに約15バレル分の岩塩が溶解する」とされている。つまり使えば使うほど空洞は歪に広がり、壁が薄くなり、崩壊リスクが高まる。特に古い空洞(商業用塩鉱山を転用したもの)は「シングルサイクル」——一度しか抜けない——とされており、2016年のDOE報告書では11の空洞が「残り1回」の状態だった。

今回の放出ペースはバイデン政権時より30%速い。すでに1億ドル以上の修復費用が必要だと報告されている。そして崩壊した空洞は永久に失われる。再建には新しい塩鉱山を掘り直す必要があり、数年単位の時間がかかる。

つまりアメリカは今、世界の石油市場を支えるために、自国の戦略インフラを不可逆的に破壊しながら走っている。


「あと何日持つか」——SPRの四つの防衛線

SPRの残量については「150百万バレルが下限」という数字だけが一人歩きしがちだが、実際にはそこに至るまでに複数の「ライン」が階層的に存在する。そしてその最初のラインは、もう目前に迫っている。

第一のライン:約300百万バレル——空洞損傷の加速域

Reddit(r/oil)の地質工学に詳しい投稿者たちの指摘によれば、300百万バレルあたりから空洞崩壊(永久的なインフラ損傷)のリスクが非線形的に高まる。これは「公式の禁止線」ではないが、地質工学的に「ここから先は壊しながら抜いている」という領域に入る閾値だ。6月25日時点で336.8百万バレル。1日130万バレルのペースなら、約28日——7月下旬に到達する。つまり、この原稿を読んでいるあなたがこれを目にする頃には、もう突破しているかもしれない。

第二のライン:約252百万バレル——EPCA(エネルギー政策保存法)の国家安全保障下限

ある投稿者はこれを「8月28日の崖」と呼んだ。1975年制定のエネルギー政策保存法に基づく法的な国防認定下限とされる。この水準を割ると、大統領が放出を命じる法的根拠が揺らぐという議論がある。現在のペースなら8月下旬〜9月初旬に到達する。ただし後述の通り、法的にはこれを無視する手段がある。

第三のライン:約243百万バレル——ペンタゴンの「軍事用」確保水準

API(米国石油協会)のCEOが言及したとされる水準で、ペンタゴンが「国防用として確保すべき」と考えている量。この原油は軍の艦船・航空機・車両の燃料として事実上予約されており、民生用には使えないという考え方だ。ここを割ることは「アメリカ軍が世界に展開する能力を削る」ことを意味する。米国が3月に発動した172百万バレルの放出計画が完了すると、SPRはまさにこの水準(243百万バレル)に落ちる計算になる。

第四のライン:約150〜180百万バレル——物理的な運用最低限

パイプラインの充填量、空洞壁を支える最低圧力の維持、底部に堆積した数十年分の汚泥——これ以下ではシステムとして機能しない。「タンクの底」だ。ここまで来てしまったら、SPRは今後数十年にわたって使い物にならなくなる。


これらのラインは「守られる」のか

問題は、これらのラインのどれ一つとして、法的に「絶対に突破できない」ものではないということだ。

Redditで法律に詳しい投稿者が指摘していた通り、42 U.S.C. §6241(d)は大統領に「重大な供給中断」時の事実上無制限の放出権限を与えている。252百万バレルの「EPCA下限」も、243百万バレルの「ペンタゴン下限」も、トランプが無視しようと思えば法的には無視できる。議会にそれを止める手段はない。

ある投稿者はこう書いた。「今の国防長官(ヘグセス)が、トランプに追加放出を拒否するとは思えない。武器在庫の管理で戦略的計画性を見せたことがないのだから、SPRでも同じ過ちを繰り返すだろう」。

別の投稿者が応じている。「引き出すだけ引き出して、洞窟が崩壊して、バイデンのせいにする」——冗談のように聞こえるが、ここまでの経緯を見ると笑えない。

つまり現実的には、300百万バレルで「壊し始める」、252百万バレルで「法的議論が噴出する」、243百万バレルで「軍が怒る」、150百万バレルで「物理的に止まる」——という多段階の崩壊過程を、政治的意思によって突き進んでしまう可能性がある。そしてその「政治的意思」を持っているのが、4ヶ月後の11月上旬に中間選挙を控え、ガソリン価格だけは何としても抑えたいドナルド・トランプなのだ。


「アメリカ・ファースト」の大統領は外国に売り続けてくれるのか

ここで、もう一つの重要な変数が入ってくる。トランプという人間の行動パターンだ。

2026年3月19日、ホワイトハウスは石油業界幹部に「輸出禁止は検討していない」と伝えた。しかしそれはSPRにまだ余裕があった頃の話だ。

考えてみてほしい。先程も言った通り2026年11月にはアメリカの中間選挙がある。ガソリン価格が6ドル/ガロンを超え、SPRが歴史的低水準で、放出された原油の4割が外国に流出している——この事実が有権者に広く知られた時、「アメリカの備蓄を外国に売るな」という政治圧力は爆発的に高まるだろう。

トランプはすでにベネズエラのタンカー3隻をインド洋で「拿捕」し、8000万バレルの原油を「受領した」と発表している。グリーンランドの領有、パナマ運河の回収、カナダとの「合併(併合)」を公言している。この人物にとって、「アメリカの資源はアメリカのもの、他国の資源もアメリカの安全保障のために使う」というのは自然な発想だ。

最悪のシナリオは「アメリカが輸出を止める」だけではない。安全保障の傘と石油を天秤にかけ、「日米同盟の対価として備蓄を放出しろ」と圧力をかけてくる可能性すらある。それはトランプにとっては「ディール」の一種に過ぎない。

Reddit(r/oil)では、ある分析者がこう書いている。

アメリカは日本・韓国・EU・オーストラリアの石油供給を「橋渡し(bridging)」しながら、イランに最大圧力をかけている。この橋が崩壊する時、それは一瞬で起きる。

実際、すでに韓国と日本はアラスカ産原油を、通常の買い手であるカリフォルニアやワシントン州の製油所から奪い取っている状態だという。ある時点で「もうよそには出さない」と蛇口が閉まれば、影響は即座に来る。


160円台の円安が意味すること

ここで、エネルギーや食料の「量」の問題だけでなく、「値段」の問題に目を向けなければならない。

2026年6月時点で、ドル円は160円台に突入している。30年ぶりの円安水準だ。為替の専門家の間では「170円もあり得る」という声が出始めている。

円安とは、日本が海外から何かを買う時のコストが上がるということだ。石油、天然ガス、小麦、大豆、トウモロコシ、飼料穀物、肥料——日本の生活を支えるほぼすべての基礎物資は輸入に依存しており、そのすべてがドル建てで取引されている。

内閣府は2026年2月に「円安による国内食料品物価への影響」と題する分析を公表している。それによれば、日本は食料自給率の低さに加え、食料品製造業における輸入原料への依存度が高いため、食品小売価格が輸入価格の変動の影響を受けやすい構造にある。

実際に何が起きているか。2026年7月1日、2500品目以上の食品が一斉値上げとなった。中東情勢と円安のダブルパンチだ。帝国データバンクの推計では、2026年通年で最大2万品目の値上げが見込まれている。

そして家計への圧迫は数字に如実に表れている。2025年のエンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)は28.6%と44年ぶりの高水準を記録した。四半期ベースでは29.4%に達する時期もあった。これは「食べるだけで精一杯」の家計が増えていることを意味する。

エンゲル係数が高い状態で、さらにエネルギー危機による追加的な物価上昇が重なったらどうなるか。


「飢餓」ではなく「静かな栄養危機」

先進国で大規模な餓死が発生するハードルはある程度高いかもしれない。日本にはコメの国内生産能力があり(とはいえ外国由来の石油エネルギーと肥料があったればこそだが)、最悪の場合は配給制度を復活させる法的枠組みもある。

しかし「飢餓」の手前に、もっと広範で陰湿な問題がある。

物価が上がると、人はまず何を削るか。肉、魚、野菜、果物——タンパク質やビタミンの供給源を減らし、安くて腹が膨れる炭水化物に偏っていく。コメ、パン、麺類、カップ麺。これは低所得層ほど顕著に表れる行動パターンだ。

厚生労働省の資料は、社会経済的に不利な立場にある層ほど、がん、循環器疾患、2型糖尿病の罹患率が高いことを示している。その背景には「安い炭水化物中心の食事」がある。日経新聞が報じた国際研究では、「炭水化物が毎食7割超え」の食生活は死亡リスクを有意に上昇させることが明らかになっている。

すでに危機前の2025年時点で、子育て世帯の90%超が「物価高で栄養面に不安がある」と回答している調査がある。子ども食堂は全国で増え続けているが、その存在自体が「通常の食事で十分な栄養を取れない子どもが増えている」ことの証左だ。

ここに、エネルギー危機による追加的な食品値上げが重なるとどうなるか。

原油価格の高騰は、ガソリンや電気代だけの問題ではない。農業用資材(ビニールハウスの暖房、トラクターの燃料、肥料の原料)、食品工場の稼働コスト、冷蔵・冷凍物流のコスト——食料が食卓に届くまでのあらゆる段階に石油が使われている。原油が上がれば、国産品ですら値上がりする。そして輸入品は、ドル建ての原料高と160円台の円安のダブルパンチで、さらに急激に上がる。

結果としていの一番に起きるのは、「餓死」ではなく、国民の大部分が緩やかに栄養状態を悪化させていく「静かな危機」だ。タンパク質が足りない、野菜が足りない、しかしカロリーだけはある——そういう食生活が、じわじわと糖尿病や高血圧や心疾患を増やしていく。数年後に「なぜこんなに生活習慣病が増えたのか」と振り返った時、2026年のホルムズ危機が原点だったと分かるかもしれない。そしてこういう状態が暫く続き、いよいよ食べ物がない・高くて変えない。エネルギー不足などで食料が満足に作れない・円安や船の燃料不足で輸入できない。こうしたことが起こるようになると、いよいよ食糧危機は飢餓に「進化」を遂げる。


エネルギー危機から食糧危機へのカスケード

ホルムズ海峡は原油だけの問題ではない。世界で海上輸送される肥料の約33%がこの海峡を通過する。

日経新聞の報道によれば、アジアの中東依存度は尿素39.5%、硫黄54.2%、アンモニア71.3%。ホルムズ封鎖によってこれらの供給が物理的に断たれた。

FAO(国連食糧農業機関)は3月に緊急レポートを出し、「肥料不足とエネルギー価格高騰が作物収穫量を脅かす」と警告している。日経によれば、世界で4500万人が飢餓の恐れがあるとの見方も出ている。

問題は時間差だ。肥料が農業に与える影響は、6〜12ヶ月のタイムラグを持つ。2026年の春作(コメなど)は危機前の在庫肥料で何とか作付けできた可能性が高いが、秋作以降は調達難が収穫量に直結する。そして日本の食料自給率はカロリーベースで38%。飼料穀物、小麦、大豆はほぼ輸入頼みだ。

エネルギー危機→円安加速→輸入コスト増→肥料不足→国内農業の収穫減→輸入食料の価格高騰→国際市場での「買い負け」——この連鎖が完成する先に待っているのは、「物は存在するが、日本には買えない・届かない」という状態だ。


タイムラインの整理

これまでの分析を踏まえ、「ホルムズ海峡の回復が大幅に遅延する」というシナリオの下で、日本に何がいつ起きるかを整理する。

2026年7月下旬:SPR第一のラインを突破

SPRが300百万バレルを割り込み、岩塩空洞への不可逆的ダメージが加速し始める。「世界最後のバッファー」が自壊しながら細っていく段階に入る。市場はまだこれを十分に織り込んでいない。

2026年8月〜9月:法的・政治的な崖

SPRが252百万バレルの「EPCA下限」に接近。法的議論が噴出し、追加放出の承認を巡って政治が紛糾する。同時に「外国への輸出を止めろ」という世論が沸騰。輸出制限が発動されれば、日本への供給が突然細る。市場は「次の補充が来ない」と認識し始め、パニック的な価格高騰と供給の奪い合いが始まる。円は170円台に向かう可能性。

2026年10月〜12月:エネルギー危機が生活を直撃

LNG備蓄は構造的に3週間分しかない。冬の暖房・電力需要期に入ると計画停電や供給制限が現実味を帯びる。ガソリン・灯油価格は2〜3倍に。物流コスト高騰で生鮮食品の流通にも支障が出始める。スーパーの棚から肉・魚・野菜が消え、カップ麺と米だけが残る——そんな光景が局所的に発生しうる。エンゲル係数は30%を突破し、戦後最悪域に。

2027年1月〜3月:「静かな食料危機」の顕在化

肥料ショックの6〜12ヶ月のタイムラグがフルに反映。2026年秋作の減収、輸入穀物の高騰、円安による「買い負け」の三重苦。低所得世帯、一人暮らしの高齢者、子育て世帯で、炭水化物偏重の食生活が常態化する。直ちに「餓死者が出る」わけではないが、数年スパンで糖尿病、高血圧、心疾患の患者が急増する素地が、この時期に作られる。子ども食堂に来る子どもの数が爆発的に増え、しかしその食堂自体も食材の調達に苦しむ——そういう状況だ。そして上でも指摘したが、事態をここで止めることができなかった場合、その後に待っているのがいよいよ飢餓となる。


ただし、最大の不確実性は「政治」

ここまで書いておいて矛盾するようだが、このシナリオは「ホルムズ海峡が回復しなかった場合」の話だ。

6月15日時点でロイターは、米イラン間で停戦覚書の署名に向けた動きがあり、155隻のタンカーがペルシャ湾内に滞留して「動き出し」を待っていると報じている。海峡が安全に開放され、保険が正常化し、機雷が除去されれば、数週間で供給は劇的に改善する。

この危機は「物理的に石油がなくなった」わけではない。ペルシャ湾の産油国は生産能力を失っていない。サウジアラビアは東西パイプラインを7百万バレル/日でフル稼働させて紅海側のヤンブー港から輸出を増やしている。つまり政治が動けば、供給は比較的速く回復する

しかし裏を返せば、政治が動かなければ、算術的に危機は避けられない。そして「政治が動くかどうか」は、トランプとイランの指導部という、予測が極めて困難な人間たちの判断にかかっている。Redditのある投稿者が鋭く指摘していた。「イランには降伏するインセンティブがない。中国が闇市場で原油を買い、ロシアが標的情報を提供している。長引けば長引くほどトランプが困るのだから、イランは持久戦を選ぶ」。


おわりに——「茹でガエル」にならないために

この記事を書いている2026年7月6日現在、日本のスーパーの棚にはまだ食品が並んでいる。ガソリンスタンドで給油もできる。電気も点く。「危機」と言われても実感が湧かないかもしれない。

しかし数字は嘘をつかない。

石油備蓄は4ヶ月で60日分減った。エンゲル係数は44年ぶりの高水準にある。円は30年ぶりの160円台だ。アメリカのSPRは1983年以来の低水準で、あと数週間で空洞損傷が加速する300百万バレルを割る。ホルムズ海峡の通過量は危機前の2割で、日本の船はほとんどいない。7月だけで2500品目が値上げされた。

これらの数字は、別々の問題ではない。一つのシステムの中で連鎖している。エネルギーが高くなれば円が下がる。円が下がれば輸入品が上がる。輸入品が上がれば食費が圧迫される。食費が圧迫されれば安い炭水化物に偏る。それが数年続けば病気になる。病気になっても医療費が払えない。

「茹でガエル」という比喩がある。水温がゆっくり上がると、カエルは逃げるタイミングを失って茹で上がる。今、我々は温かい湯の中にいるのか、それとも既に危険な温度に達しているのか。

少なくとも一つ言えることがある。「まだ大丈夫」は、何の根拠にもならない。「まだ大丈夫」の根拠がアメリカの岩塩空洞の残量と、トランプの気分と、イランの指導部の判断に依存しているのだとしたら——それは「大丈夫」とは呼ばないだろう。

備蓄の数字は毎日減っている。空洞の壁は毎日薄くなっている。円は毎日少しずつ安くなっている。肥料の欠乏は数ヶ月後の食卓に確実に影響する。

それを知った上で、個人として何ができるかを考える時間は——まだ、ある。たぶん。

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