短編小説7-2完「ヴィッキーは乱雑に宙を舞う」
【6】優雅な叫びは悲鳴に代わる
「エッヴィーヴァ!」
車両の上で優雅に叫ぶ怪盗アストロは、これまた優雅に後方車両へと歩みを進める。貴金属の詰まったハットに指を這わせ、時たまくるりと回り、マントを閃かす。
「エッヴィーヴァアアアア!???」
ノリノリで叫ぼうとしたアストロは驚愕する。無数の銃弾が足元を襲ったからだ。悲鳴、悲鳴、悲鳴。アストロにより歓喜に包まれていた車両は、一瞬にして悲鳴に変わった。
「ギャングか!? マフィアか!」
幸い車両の上にアストロが居ることに気づかれていない。ステップを踏み急ぎ後方へ走るアストロ。ひゅん、と連結部を飛び越える。
横付けされた車両には、次々とギャングが乗り込んでくる。
「もっとだ! 近づけろトンマーゾ!」
「こ、こわいよジョアキーノさん!」
「あと少しだ、がんばれ!」
「う、うぬわああああああああ!!」
ガイン、と汽車と接触した。トンマーゾの運転する車は大きくスピンして、横転を繰り返す。窓から放り出された二人が宙から地上へ落下した。
ドザ。
あまりにも静かに、横たわった。
「う、ぐジョア、キーノさん」
「仕方ねぇさトンマーゾ」
「すみません……」
「歩けるか。追うぞ」
「なんとか、大丈夫です」
暗闇を駆ける二人から汽車は遠ざかってゆく。しかし、その時目にした。車両の上を渡るアストロの姿を。
「ジョアキーノさん!」
「だぁれだ、ありゃあ」
車両に乗り込んだガッパーニョファミリーは、貴族たちを蹂躙する。一掃した後は金目の物を漁るが、おかしい。貴族の誰もが貴金属を身に着けていないのだ。
「どういうことだ」
ガッパーニョの一人が呟いた、その瞬間。汽車は大きく衝撃を受けた。貴族たちの死体は舞い上がり、死体とマフィアのマリアージュの完成だ。
車両の上にいたアストロも例外ではない。彼は外にいたが故に、大きく宙へ舞い、さながら闇夜に飛ぶカラスとなった。
【7】イカ墨のマルゲリータ
「ガキが!」
ペリッツァに運転を任せ、窓から身を乗り出し、機関銃を撃ち続けるルガーノはイラつきで天井を銃で殴る。
「タイヤを狙えルガーノよ」
「狙ってんだよ! なぁペリッツァ!」
「早く仕留めろルガーノよ」
「うるせぇってんだよ、なぁペリッツァ」
ドララララララとヴィッキーの車へ撃ち続ける。
バスンッボンッボボンッ、とヴィッキーの車がコントロールを失った。左後輪に弾が命中したのだ。
「うっわぁあ、がぐ、いっ、でぇ」
タイヤが撃たれパンクしたヴィッキーは、バッと後ろを見てすぐに扉をガチャガチャと弄り、脱出をする。
「しぬ、しぬしぬしぬ殺される! 嫌だ嫌だ嫌だしぬしぬしぬぬぬぬ」
ベヂャアと転んで、転がってゆく。
「ぷぎゃ」
怯えながら後方を見るヴィッキー。
「あ、あああああ!!!」
車を降り、走り行くヴィッキーを車で追うルガーノらは、機関銃を撃つが当たらない。しかし、もう安心だろう。こっちは車、相手は生身だ。時期に追いつく。
走るヴィッキーばかりを見ていたルガーノ、ペリッツァはハッとしてブレーキを踏んだ。
ヴィッキーの乗り捨てた車は線路上、そこに列車が、衝突した。
グシャアと粉々になる車から、捻りつぶされたトマトがルガーノらの車に吹き飛んでくる。ブレーキは間に合うか、トマト汁で前が見えなくなったルガーノらは運に頼るしかなかった。が、運もなかった。
むなしくルガーノらの車は列車に衝突したのだ。
グッチャアア。黒い車と黒い汽車は大量のトマト汁に塗れて、止まる。きっと天から見たらイカ墨のマルゲリータだろう。
ルガーノとペリッツァはというと、巻き込まれてミンチとなったと思いきや、地面に転がってその状況を見やってた。直前に車から飛び出していたのだ。
アストロは宙を舞い。トンマーゾとジョアキーノはそれを見上げる。
ヴィッキーは宙に飛び散るトマトを見やり、ルガーノとペリッツァはイカ墨のマルゲリータを見る。
「「「「「「マンマミーア!!」」」」」」
その場の全員が、ママに祈った。
【8】怪盗はスマートに仕事はできない
緊急事態からいち早く判断したのは、怪盗アストロだ。彼は宙に舞いながら、すぐに次の対応に移った。
鞭を振るい列車の手すりに絡ませると、振り子のように移動し、列車の上に降り立つ。しかし、ジョアキーノはすぐに機関銃を撃つ。
バスバスバス。アストロのマントに無数の穴が空き、後ろに倒れ落ちた。
「怪盗アストロだ!」
トンマーゾが指さし叫ぶ。
「アストロ? 噂の奇人か?」
「奇人じゃないっすよジョアキーノさん、怪盗っす怪盗!」
「まぁどっちにしろ奴がいるってことは、貴族のもんも奴が持ってるんじゃねぇのか」
「そっか! ジョアキーノさん頭良すぎっす!」
ジョアキーノ、トンマーゾはアストロが落ちた方へ走り行く。
「急げルガーノよ」
「やべぇことなったなぁペリッツァ」
「ガキを逃がすな!」
「おうよペリッツァ」
脱線した列車の隙間を潜り抜け、ルガーノらはヴィッキーを追う。
ドサン。
撃ち落された怪盗アストロはほとんどの弾を避けていたが、一発足に喰らってしまっていた。怪盗アストロの不覚。彼はいつも優雅に盗んでいたはずなのに。
「マンマミーア……」
そんな彼は二度目のママへの祈りを口にした。
「あ、わ、アストロ? 怪盗アストロ?」
アストロの落下したすぐ近くから呼ばれる。それは真っ赤な顔で信じられない程の出血をしていた。
「マンマミーア!」
怪盗アストロ、三度目のママへの祈り。こんなことは生涯初めてかもしれない。
「君、血が、すごいぞ」
「あ、これトマトです」
「マンマミーア! トマトかよ! びっくりしたぜエッヴィーヴァ!」
撃たれてもテンションの高いアストロ。
トマト塗れのヴィッキーは、動けないアストロを引っ張って逃げようとする。
「何をする少年」
「逃げないと。僕はガッパーニョファミリーに追われてるんですから」
「それは君だろう、私は追われていない」
「……確かに! ……それでは」
アストロを放って去ろうとするヴィッキー。
「まぁてぃ! 私が逃がしてやろう」
「どうやってだよアストロ! 構わないでくれ」
「私が今まで捕まっていない理由を教えてあげようか」
「……後でね。先に逃げるよ」
「どこ行ったガキ!」
「潰れちまったんじゃねぇかルガーノよ」
「アストロ! 貴族から奪ったもんをよこせ!」
「僕にはサインを!」
「あ、ジョアキーノさん!」
「ペリッツァじゃねぇか」
「ルガーノさん!?」
「誰だてめぇ」
「トンマーゾですよ! 二人共生きてたんですね」
ジョアキーノ、トンマーゾはペリッツァ、ルガーノと合流した。ジョアキーノは計画の成功はアストロにあることを伝え、全員の目的を確認する。
「トマト泥棒のガキと貴族の金を盗んだアストロがここにいるってことだな。両方とっちめてやらねぇとな」
ジョアキーノはガッパーニョファミリーの幹部であることから、この場を仕切り始めた。しかし、目的の二人は見当たらない。
「どこ行きやがったんだ、なぁペリッツァ」
「遠くへはいけないはずだルガーノよ」
「怪盗アストロはすげーんす、きっとこの闇に紛れて、もうどこかへ」
「てめぇは何の味方なんだよトンマーゾ」
ルガーノが呆れて言う。
「探せ!」
ジョアキーノの一言で捜索が始まった。しかし、警察が来るまでの間に見つけられるかどうか。
【9】アストロ
「逃げられたろう、少年」
「雑すぎない?」
「何がだい?」
「いや、僕の持ち方」
ヴィッキーは片手で鷲掴みされている。
「少年は荷物だな」
「少年はやめてくれよ、ヴィッキーだ。僕の名前はヴィッキー」
「ふむ、そうかい。家はどこだいヴィッキー」
「ないよ、ヴィスタ・マリネーラがあるけど、ただのピッツァ屋さ」
星空にふわふわと浮かぶアストロに鷲掴みされたヴィッキーが寂し気に言う。たぶん、カルロのところへは、もう帰れない。
もしも帰ったら、またガッパーニョファミリーの標的になってしまうかもしれない。そうしたら次は生きていられないと思うからだ。
「なら私と共に来ないか、怪盗の技術を叩きこんでやろう」
「先に教えてよ」
「はて」
「アストロが捕まらない理由」
「……怪盗は闇夜に紛れて逃げるからさ」
少しづつ降下する。
「うむ。マントに穴が空いて上手く浮かべないようだ」
「まだガッパーニョファミリーが下にいるよ!」
「大丈夫だ。あの森へ不時着する」
近くの森へ着地し、停めてある車に乗り込んだ。
「なるよ、アストロ」
「ふふふふふふ、楽しみだ怪盗マルゲリータ!」
「怪盗マルゲリータ!? なにそれ!」
「ヴィッキー、君の名だ!」
「嫌だよダッサイよ!」
「うるさい決まりだ怪盗マルゲリータ!」
「最悪だあああ」
「エッヴィーヴァ!」
怪盗アストロ。彼らは捜索を続けるガッパーニョファミリーを尻目に優雅に走り去っていった。
おわり
◆まとめ
短編小説7-1「ヴィッキーは乱雑に宙を舞う」
短編小説7-2完「ヴィッキーは乱雑に宙を舞う」
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